終わりじゃない
「エレナ、こんな感じで良い?」
「そうですね……欲を言えば《二重解放》形態も欲しいです」
「むぅ」
そんなやり取りを経た結果、《聖女の鎧》《聖女の細剣》《聖女の靴》《聖女の小手》《聖女の冠》という聖女シリーズができあがった。最近、アリアはシリーズ装備を創るのが気に入っているのだ。
「聖女なんてガラじゃありませんよ!?」
「はっはっは、名前を変えても良いけどその装備、スキル発動条件が《聖女を名に含む》だよ?」
「っ!? 何という悪質で地味な嫌がらせ……っ!」
「フハハハ!」
アリアの高笑いにエレナはイラッとし、装備のステータスを眺め始めた。その性能は高い、高いのだが
「《聖女》シリーズ、どうかな?」
どや顔のアリアにイラッとしたのは許されると思う。
*****
「どうかな? 大丈夫かな?」
「うん、凄い似合っているよ。ピュアなりに」
「ちょっと?」
エミの言葉に頬を引っ張る。エミは痛くも無いくせに痛い痛い、などと口にしている。それに呆れながら手を離して
「このシリーズ、《戦乙女》シリーズっていくらぐらいするんですか?」
「ん、んー? どうだろ、売るつもりはしばらく無かったからね……まぁ、売るとすればエミたち六人の有り金を合計しても足りないんじゃないかな?」
その言葉に顔が青ざめる。しかしアリアさんはそれに手をひらひらとさせて
「お金は取らないよ。ぶっちゃけもうこれ以上あっても使わないしね」
「そうなんですか?」
「装備も道具もこの店で創っているんだからね。他社から買う必要が無いくらいにはね」
「素材を買い取ったりしていても余裕があるんですか?」
「あるよ。ありまくりだよ」
アリアは新しく作り上げた《真紅》シリーズを眺めて頬を緩める。自らの髪よりも紅いそれはアリアの感性ではカッコいいのだ。例えそれが身動きのし辛いドレスだとしても、だ。ちなみにハイヒールまでがシリーズに含まれている。
「ん、《真紅》シリーズの値段ってどれぐらいが良いかな?」
「知るわけないじゃん」
「それもそうだね……よし、《真紅》シリーズは10Gで良いや」
「10Gだからえっと……1000億!?」
ピュアホワイトは顎が外れたと思うほど口を開けた。そして自分の装備を眺めて
「あの……お返しします」
「いらないよ。別に値段なんて適当なんだからね」
「アリア、そんな適当に値段を決めないでよ」
「だったらエレナが決めてよ。僕は別にお金なんてもういらないんだから」
金庫34個が貯め込める金額をカンストしている。だからアリアたちはもうお金が必要じゃない。ちなみに金庫が貯め込める金額は約1Tだ。つまり100兆だ。そしてそれが34個だ。
「アリア……そうね、だったら100Mぐらいにしたら?」
軽々と出てくるような金額じゃない。ピュアホワイトとエミの表情が歪んだ。しかしアリアは
「安くて強いのを買って強くなったって思われても困るんだけどね」
「我が儘だなぁ」
「そうだ。エレナのギルド、《聖堂騎士団》の副団長に売りつけてよ」
「はぁ?」
「売り上げの一割、いや三割は譲るから」
「そうね、100Gで売ろうかしら」
余りの切り替えの速さに絶句する三人が我に返るまで、そう時間は掛からなかった。
*****
「それでそれが《ナイアルラトテップ》の珠なんだね」
「うん、これでクトゥルフ神話系の珠は全部揃ったはずなんだ」
「はず?」
「なんだか違和感があるんだ……マグナならこの程度じゃ終わらないって」
アリアの言葉にシンは少し眉を顰める。アリアの言っていることはAIの自我が強過ぎると思えたからだ。だが真横にマグナがいる状態では到底言えなかった。そして
「これが《クトゥルー》、《ハストゥール》、《クトゥグァ》、《ナイアルラトテップ》の珠だ。そして僕の直感からこれらを合成すると危険なことが起きる、そんな気がしているんだ」
「……僕も同感だよ」
「私もです」
まさかの三人の意見の一致。これにはアリアが驚いた。そして
「これら四つを使って剣を創ろうと思っているんだ。幸い珠は2個以上ずつあるからね」
「……アリア、それは危険じゃないのかな?」
「危険だと思うよ。でも、危険だからってビビってちゃ僕は最強って名乗れない」
いやその理論はおかしい、マグナとシンの意見は一致した。しかしアリアはそれを無視して
「……行くよ」
アリアが《アイテム合成》スキルを使い、《クトゥルーの水珠》と《ハストゥールの風珠》と《クトゥグァの炎珠》、そして《ナイアルラトテップの闇珠》を合成した。そして創り上げられたのはーー1本の、鍵だった。
「……え?」
「……それは?」
「……《虚の鍵》……?」
アリアは掌に乗っているシャーペン程度の大きさのそれを眺めて
「……使ってみる?」
「何が起きるのか調べたの?」
「誘われるんだって」
「「はぁ?」」
誘われる、と疑問を抱く2人。そしてアリアはそのままその鍵を掴んで
「《開け、虚の扉》」
《虚の鍵》を使用するための言葉を口にし……全損した。
*****
「街の中にいた全てのプレイヤーが全損……だと?」
「魔王、どう見る?」
「バグじゃないのか?」
「こんなでけえバグを見逃すかよ」
ジャックは装備やアイテムが無くなっていないのを確認して
「……まさか、アリアが⁉︎」
「何か知っているのか?」
「……最後のクトゥルフ神話系モンスターが出現した……⁉︎」
ジャックは慌てたように窓を開け、ギルドホームを飛び出した。それに着いて行きながら
「最後のだと? 《ナイアルラトテップ》の事か?」
「キツい条件を満たせば出現するモンスターだ……だが全ての珠を合成したのか……⁉︎」
《アイテム合成》スキルは万能ではない。条件が揃わない限り《失敗作》という無駄なアイテムが出来る。だからこそ珠の合成をするプレイヤーはいないと思い、そのモンスターは化け物のようなステータスになっているのだ。
「……ジャック、アレか?」
「……アレだな」
螺旋大陸の最下層から最上層までを貫くほどに長いそれを見て魔王は呆れのような声を漏らす。
「光と虚の《アザトース》……絶対に倒せないって保証付だぜ」
*****
街の中でも全損した、というプレイヤーからのバグ報告にAIベースのマグナは大きくため息を吐いた。そして
『全プレイヤーに通達します。全損したのはバグではなく、仕様です』
『これより緊急クエスト、光と虚の《アザトース》討伐を開始します』
そうメッセージを送り、《アザトース》のAIを乗っ取ろうかと考えた。しかし
「マグナ? 《アザトース》は乗っ取ってはいけませんよ」
『優? どうしたのですか?』
「マグナがまた乗っ取らないようにお目付役です。まぁ、片手間にできるのならば呆れる他ありませんが」
『では優との友情のために止めておきましょう』
優はマグナの言葉に微笑みつつ、時計型デバイスからモニターを開始する。
『優、アリアはどうすると思いますか?』
「アリアさんが……ですか? アリアさんならきっとーー」
*****
「さて、やられたからやり返さないとね」
アリアは不敵な笑みを浮かべ、《アザトース》を見下ろして地面を蹴った。
真のラスボス的な感じで登場
ちなみにアリアが合成しなければ《アザトース》は出現しませんでした
つり乙2をクリアしていないのに友人からΦを購入&未プレイ
それなのにエロゲを新しく買おうとしていた作者はプレイする時間が無いのに気づいていないのでしょうか
誰か絵を描いてくれ……




