天使
「ダメージが通った!?」
「結晶じゃないとダメージが通らないみたいだな」
「貫通系の魔法なら! 《アイスランス》1024!」
シェリルの魔法が《ナイアルラトテップ》の靄を突き破らんと迫る。しかし《ナイアルラトテップ》の触手が蠢いて全ての槍をはたき落とした。
「シェリ姉!?」
「大丈夫よ!」
そのまま触手に殴られた、そう気づいたのは壁に叩きつけられた瞬間だった。咄嗟に立ち上がり、足下に落ちていた錫杖を掴んで
「《アイスランス》1024!」
「やらせない! 秘剣華の型ーー露草!」
アリアの剣が触手を切り裂いた。そして生まれた防御の穴に氷の槍が飛び込んでいく。それは確実に《ナイアルラトテップ》の靄を弾き飛ばし、結晶を露出させる。さらにそのまま連続して氷の槍が結晶を打った。
「今よ!」
「《スターダストスプラッシュ》! 《雅楽天舞》!」
「《バスタースラッシュ》!」
「《サイレントバレット》2048!」
三人が畳み掛けた。その様子をアリアは眺め、叫んだ。「危ない!」と、叫んだ。しかし遅かった。
《ナイアルラトテップ》の触手がエミとサタンを吹き飛ばし、ベルに突き刺さった。そのままベルは壁に刺し止められた。
「ベル! 回復を!」
「無理だ! 体力回復は意味をなさない!」
「「「「「え⁉︎」」」」」
「《ポーション》も魔法も無意味だ!」
ベルのその言葉と同時にその体は光となって消滅した。これがこの戦闘の最初の脱落者だった。
「アリアちゃん! 戦線を立て直すから時間を稼ぎなさい!」
「おーけぃっ!」
「エミは戻って来なさい! アリアちゃんが戦っている間に作戦会議よ!」
サタンとルシファーを伴い、シェリルは落ち着いて
「まず光属性が効かない。さらに回復は意味をなさない、その上であの触手による広範囲攻撃に加えーー」
シェリルたちが情報を纏めている中、アリアは両手に握る《比翼天連》と《比翼地連》を振るった。それは限りなく思える触手を1本ずつ断ち切っていく。しかし触手をいくら切ってもダメージは無い。
「一体どういう仕組みなのさ!」
テンションを無理矢理上げながらコンボを繋げつつ、切り落としていく。すでに掠った程度でも一刀両断出来る程度には威力が高まっている。これを《ナイアルラトテップ》の結晶に叩き込めば……
(《クトゥルー》は蛸で普通に切れた。《ハストゥール》は風の巨人で《致命的位置》を切って倒せた。《クトゥグァ》は全身がある意味《致命的位置》だった。だけどこいつは、こいつだけは別格だ!)
叩き込んだところでどうなるか分からない。アリアの脳内は躊躇と戸惑いに満ちていた。そして
「《解放》!」
《解放》形態の《比翼天連ー愛》と《比翼地連ー恋》を構える。リーチが伸びた二本で触手を切る範囲を増やす。この時点で断ち切った触手の本数は100を超えている。しかし
「触手は無限……みたいだね」
足元にゴロゴロと転がる触手は足場に向いていない。だから前に出て、左に動いて、右に動いて斬り裂いていると
(《ナイアルラトテップ》のタゲが移った⁉︎)
姉たちに向かって触手を伸ばした《ナイアルラトテップ》を見て仰天しつつ、全速で駆ける。実際、速度だけで言えばアリアの方が数段上なのだ。だが速さだけでは勝てないモンスターはいるのだ。それが《ナイアルラトテップ》だ。
「っ! んっ!」
連続して触手を斬り裂き続けていると何かに見られているような気配があった。そしてアリアがそれに振り向いた瞬間、結晶の中心にあった巨大な瞳と目があった。
「……あれは……一体何なの⁉︎」
「シェリル! 撃て! 今が隙だ!」
「サタン!?」
「アリアが気を引いている隙に! 早く!」
「っ、《セブンソード・メテオ》!」
七本の剣が結晶に叩き込まれた。そして《ナイアルラトテップ》の体力が一気に削れる。そして憎悪値が溜まったのか《ナイアルラトテップ》は目の前のアリアちゃんを無視して触手を伸ばしてきた。だが
「させん!」
「さすがにそれはね」
二本の剣と二本の槍が触手を切り裂いて《ナイアルラトテップ》の攻撃を阻んだ。そして
「シェリ姉は狙わせないよ!」
「珍しく同感だね!」
エミちゃんとアリアちゃんが剣で触手を切り裂く。しかしそれではダメだ。それではダメなのだ。
「アリアちゃん! エミと一緒に前に出なさい!」
「「え!?」」
「護りは二人に任せて! アリアちゃんたちが攻めないと勝ち目は無いのよ!」
「っ、分かったよ!」
「お姉ちゃん!?」
「エミ、さっさと行くよ!」
*****
任されてしまったのだ。だったらそれをするしかない。あの姉が珍しく任せてくれたことでアリアの脳内は歓喜があふれ出していた。
「《二重解放》! 《比翼乖離双刃》!」
「《解放》!」
アリアの握る二本の剣が漆黒と純白に染まった。エミの握る剣から劫火が迸り、握る扇から雷が湧き出した。そして二人は同時に駆けだした。圧倒的な速度差でアリアは《ナイアルラトテップ》に接近して剣を振るった。二本の剣が靄を切り裂く。そして結晶までその刃を届かせ、ダメージを与えた。
「《雅楽宴楽》! 《スターダストスラスト》!」
パーティメンバー全員にステータス向上が掛かり、露出した結晶に高速の三連撃が放たれた。それは再び結晶を覆おうとしている靄を弾き飛ばして結晶にダメージを与えた。
「エミ、よく見ていると良いよ」
「え?」
「これが《最強》の剣だ」
アリアの剣が高速で閃いた。エミでも、遠目のシェリルでも、至近距離の《ナイアルラトテップ》ですら。その剣は靄を切り裂き、迫る触手を切り裂き、結晶を斬りつけた。しかし十じゃ止まらない。アリアの動きがどんどん加速していく。コンボによる恩恵を生かした高速戦闘だ。
「秘剣天の型ーー龍星!」
アリアの剣が結晶を交差に斬りつけーーその体力が五割を下回った。そしてその瞬間、《ナイアルラトテップ》の結晶を護る靄が晴れた。濃紫色の結晶の中心で目玉がぎょろり、と蠢いて……その結晶から翼が生えた。そして天井に穴を体当たりで開けて飛んでいった。
「「「「「え!?」」」」」
余りの事態に全員で戸惑っていると全員の前にその表示がなされた。そしてそれを見たアリアは地面を蹴って
「《アストライアー》!」
その服の背中から翼を生やして飛翔した。高速で遠ざかっていく妹のスカートの中を姉は残念な気持ちで見つめて
「追いかける?」
「え、追いかけないの?」
「エミ、危険かもしれないのよ」
「俺たちはシェリルに任せるよ」
「うん、そうするよ」
その頃、アリアは高速で飛翔していた。この空は通常の空とは別の、《クトゥルー》戦でもあった特別戦闘エリアのようだ。
追いかけてくるアリアを眺めて、《ナイアルラトテップ》の結晶を靄が隠した。そして靄がうねうねと蠢いて……形取った。人型の背中から翼を生やしたそれは天使のようだった。アリアも似たような状況だが。
『アリア』
「……その声、マグナ?」
『はい、私です』
アリアは感動の対面と言うにはログインする前に談笑していたのを思い、少し残念な気持ちになった。
言うなれば古に伝わりしマグナmkⅡでしょ!
次回、マグナダークサイド戦
《ナイアルラトテップ》? 誰それ
孤面の男は植物です
感想というなの栄養と水分を与えないと枯れてしまいます
感想ください




