海底ダンジョン
「だりゃぁぁぁ!」
アリアの剣が砂を叩き、砂を辺りに飛び散らせる。そして
「あー、外したねぇ」
「むぅぅ……もう一回!」
「ダメだよ、それはルール違反」
シンの言葉にアリアは頬を膨らませながら目隠しを取った。そしてそれをシンに渡し、《ウォーターメロン》を移動させた。そして
「良いよー」
「右よ」
「左かなー」
「もう少し前よ」
信頼ならないレヴィとマモン、姉の声に顔が引き攣っている。そんなシンも愛おしいと思っているアリアは助言をせずに《ウォーターメロン》に躓いて転けるシンを見た。
*****
「さてと、そろそろ本格的に動くか」
「そうね、そろそろ良いんじゃない?」
「えー?」
「アリアちゃん、楽しみは後に取っておく物よ」
「むぅ。マモンが言うなら」
アリアたちは靴以外はいつもの装備にして海に足を踏み入れた。
「全員《酸素ポーション》は持っているよな?」
「持っているよ」
「持ってるさ」
「大丈夫だって」
ピクニック気分で海底に向かっているが、現在向かっているのは海底にあるダンジョンだ。だからアリアの作った靴とアリアの作ったポーションを持ち込んだというわけだ。
「しかしそのダンジョン、何か旨味があるのかね」
「白々しいな、ジャック」
「はっはっは」
製作側の言葉にブブが呆れながら沈んでいく。しかし
「深海エリアに海溝はあるのか?」
「それは言えないな」
「じゃああるんだね」
「兄さん、言っちゃダメだよ」
「魔王、少し先に行っても良い?」
「構わんが溺れるなよ」
「ダイジョーブ」
マモンが綺麗なフォームで潜って行く。それを見て《魔王の傘下》の古参は思う。
(貧乳だったのに)
と。水着姿になっても大きいその体はリアルの直美を思うと複雑なものがあった。
「それはさておき、その海底ダンジョンの情報は無いの?」
「ああ、一切明かされていない。だから気をつけるんだぞ」
「私たちが気を引き締めて行くようなダンジョンがあるとは思えないけどね」
「お前じゃ無い。エミだ」
魔王の言葉にエミがきょとん、とする。それに魔王は優しく微笑んで
「進むぞ。アリアとマモンは後ろを気にしてくれ」
「それじゃ私は上を」
「なら僕たちは左右を」
全方向を警戒しながら歩き、または泳いでいると
「見えて来たな」
「見えて来たも何もお前が設置したのだろう?」
「場所は、な。実際それ以外に俺は加われてないし」
「仕掛けもあるか分かんねーの?」
ブブとアスモの言葉にジャックは答えつつ、その遺跡みたいなダンジョンの前に立った。
「さて……アリアはどうした?」
「アリアなら魚を見つけて追いかけようとして逃げられて落ち込んでいるわよ」
「……お姉ちゃん……」
「アリアちゃん……」
アリアの姉妹がアリアを哀しく思っていると、シンに手を引かれ、デレデレの表情のアリアが。そして
「お待たせー」
「とりあえず進むぞ。攻略は個人で、ボス戦は状況に応じて、だ。良いな?」
魔王の言葉に反論は無い。だから
「一番!」
「えっ⁉︎」
アリアに引っ張られ、浮かぶシンが。それは吸い込まれるように遺跡の入口に飛び込んだ。
「シェリ姉、一緒に行こう?」
「はいはい。前を頑張ってね」
「うん!」
「あ、シェリちゃん。私も一緒に良い?」
「良いわよ。レヴィはどうするの?」
「ベルと一緒に参加させてもらうわ」
ベルは女四人で男1人、と考えていた。なので
「お前も付き合え」
「分かったから離せ」
ジャックを巻き込んだ。
*****
アリアの剣が剣と交差し、衝撃で波紋が産まれる。そしてアリアの小柄な体が浮いた。
「むぅ……随分と浮かぶ」
「やり辛いなぁ……でも、良いや」
シンは剣を振るい、アリアとは違ってしっかり地に足着けて戦う。大してアリアは飛んだり跳ねたりが基本だから浮かびやすいのだ。
「しかし……どうするのかな」
「なにが?」
「こっち、水流が流れているの。ひょっとすると流されてしまうかもしれない」
「んー、流されてみない?」
アリアの言葉にシンは呆れつつ、頷いた。しかし
「壁!?」
「壁だね」
「水流が流れているのに……!?」
必死に泳ぐも水流はそんな抵抗を無意味だと嘲笑う。咄嗟に剣を壁に刺して水流に耐える。
「アリア、ここからどうしよう? 思った感じだと多分、行き止まりなんだ」
「ん、ん? そう、なのかな? なんだか違和感があるんだよね……」
アリアはそう呟いて目を閉じた。それにシンは言葉に出来ない予感を得た。
「アリア、もしかして」
「行ってきまーす!」
「やっぱり!?」」
アリアが壁から剣を引き抜いて、壁を蹴った。そのまま水流で加速してーー剣を放った。高速の一撃は壁と激突して……突き破った。途端、水流は勢いを増したが
「おお、宝箱」
「このゲームの宝箱って大概外れなんだけどねー」
「それはアリアの高望みだよ」
「そうなの?」
「だって大体の装備はアリアが作れちゃうじゃん」
それもそうだね、とアリアは思いながら宝箱を開けた。しかしそこにあったのは
「これは……鍵なのかな?」
「みたいだね、きっと隠し部屋の鍵だよ」
「うきうきしているね」
「素直に嬉しいからねー」
アリアの満面の笑みにシンは苦笑するほかなかった。
*****
「さてと、どうしたものかね」
ジャックは一人呟きながら鎌を振るった。そして前にぐんぐん進んでいくアリアそっくりの少女、エミを見つめて戸惑う。アリアそっくりの戦い方だ。
アリア、あいつにはいつか勝ちたい。そう思っていたはずだが随分と離されてしまった。
「マモン、レヴィ、シェリル……それからベル、もう少し援護してくれないのか?」
「援護する必要あるの?」
「無いわよ」
「回復ならしますよ」
「いずれな」
ジャックは苦笑しながら鎌の柄で殴りつける。そのまま回転をのせて切り裂いていくと
「これは中ボスか?」
「かもな……気をつけろよ、ジャック」
「は、俺を舐めるなよ」
ジャックの鎌が閃いてクラゲへ迫った。しかしクラゲはゆらり、とそれを避けた。
「クラゲって自分じゃ動けないんだよな?」
「今のはジャックが動いた波じゃないの?」
「あ、なるほど」
大学生三人組の声を聞き流しつつ、ジャックの鎌がクラゲの足を切り裂いた。だが
「消えない!?」
「ふっふっっふ、引っかかったな」
「お前どっちの味方だよ!?」
「ベルとアリアちゃんたちの味方よ」
衒いも何も無いマモンの言葉にため息を吐く。するとマモンの矢がジャックの鎌を掠め、クラゲを射貫いた。
「全身が水分なんだから属性系のスキルが良いんじゃないの? そもそもスキルを使わない理由も無いでしょ?」
「……言われてみればそうだな。《バーンサイス》!」
焔に包まれた鎌を振るう。それはクラゲの体を蒸発させながら海水も蒸発させた。
「全損したようだな」
「ジャック、手こずり過ぎよ」
「見ていただけのお前が言うなよ」
*****
「アリア、これで鍵が2つめだね」
「うん。以外と隠し扉があるのかもね」
「宝箱かもよ?」
「宝箱から出た鍵で宝箱を開けるの? なんて言うかマッチポンプだね」
「あはは」
シンはそう言いながら鍵を掌で転がして
「あ、5って書いてある」
水中で呼吸できるのはアイテム、会話できるのは仕様です
眠いお休み
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