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現実

「あの大会で色々と戦ったから経験値がたくさんあったの。だからそれを使ってレベルをどんどん上げたの」

「あー、なるへそ。さすがは決勝まで上がってきただけはあるね」

「……勝ってないもん」

「マモンと魔王に? あの二人はそれで満足しているよ。二人が満足しているのにエミは不満なの?」


エミは迷い無く頷いた。呆気にとられているアリア、それを見て楽しそうに笑っているマグナ、うどんを啜るレヴィ、マイペースだ。


「エミ、それが不満ならもっと強くなれば良い。レベルをカンストさせて装備を強くしてPSを高める。そうすれば僕たちの高さへ来られるよ」

「すでに一度同じ土俵に立っていましたが?」

「シャラップマグナ」


マグナはアリアの言葉にやれやれ、と呟いて北京ダックをもう一口囓った。


*****


「デュエル!」

「先行はもらった!」

「何してんのよ」


レヴィの突っ込みでマモンとジャックが文句ありそうな表情で見上げるが


「何よ」


睨まれ、撃沈。それを眺めていたアリスはやれやれ、と思いながらページを捲った。

この世界、ソーニョ・スキルズ・オンラインの世界では図書館という施設がある。そこではウェブ小説を無料で読むことが出来る。図書館という名のように期限無限で貸し出しも行われている。まぁ、図書館で読む物好きも多いのだが。


「アリス、何か飲むか?」

「そうですね……何か、甘い物をお願いします」

「分かった……アップルティーで良いか?」

「はい」


魔王が手際よく用意を始めたのをアリスは横目にウェブ小説に目を落とした。


「アリアは今日は来ないの?」

「ギルドホームは暇人が集まるだけだ。アリアは店もあるだろうし忙しいのだろう」

「そうなの? そろそろアップデートでレベル上限が伸びるって聞いたのだけど」

「その噂は俺も聞いたな。だがアリアがレベルを上げる必要はないだろう」

「そうなんですか?」

「アリアのレベルは実質9999だ、レベル上限が解放されてもステータスポイントが手に入るだけだからな」


アリスは言葉を失った。しかし魔王は言葉を続ける。


「カンストと言うべきなのか分からんがな。アリアのレベルは9999が最低ラインだ」

「……マジ?」

「ああ」


つまりそれはあまたのスキルのレベルを最大にしきっているということ。そしてそれは狩りに出ていないのに補えるほどの膨大な量の経験値を蓄えているということだ。アリスはもはやレベルをがむしゃらに上げたいとは思っていないが、それでも羨ましいと思えるくらいの量だ。


「アリアの真似事はもう誰にも出来ないだろうな」

「どういうことですか?」

「これから腕の良い加治屋プレイヤーが現れたとしてもそのプレイヤーはアリアと比較される。その結果が今のカーマインブラックスミスによるある意味での寡占市場だ」

「確かにそうですね……でも、それならば顧客の対象を少し下げれば良いのでは?」

「アリアが店の店長であるだけならそれで良かった。だが、アリアの店、カーマインブラックスミスはウェブ上でも有名となっている。好奇心を持つプレイヤーが多いのは当然だろう」


魔王の言葉にジャックがそう言えば、と前置きをして


「課金ユーザーのニーズをこの前調べてみたんだけどよ、どうも金のセットが一番多いんだ。課金装備には目もくれない」

「それがこの話とどういう関係が……ああ、そういうことか。アリアの店、カーマインブラックスミスで装備を買うためにか」

「そんなことがあるのですか!?」

「そそ、魔王のいうとおりなんだ。だから現在そこの部門が絶賛頭を抱えているんだよ。カーマインブラックスミスに営業自粛なんて頼めねーからな」


ジャックがおかしそうに笑う。それにアリスが驚いていると


「これは面白い来客だな」

「え?」

「少し来客の相手をしてくる」


魔王はギルドリーダー、ギルドホームの状態管理などもしているそうだ。そしてその一環に来客が確認できるという特典なのか分からない物があった。


「来客、誰だと思う?」

「そうですね……魔王の奥さんでは?」

「それだったらもっと取り乱すだろうな……でも奥さんってのは良いかもしれないな」

「そうですか」


アリスは本をパタン、と音を立てて閉じ、本棚に差し込んだ。そして来客を考えていると


「セプトはいるか?」

「いねーよ……ってかもしかしてゲイザー?」

「よく分かりましたね、ジャック」

「勘だよ……」


ジャックは椅子から立ち上がり、ゲイザーに向き合った。チェスをしていたマモンは仕方無しにチェス盤と駒を片付けようとしたが


「セプトがいないのなら帰りますね」

「構わんが……リアルでは?」

「まだ戻って来ていないのでここにいるかと思ったのです」

「ふむ……」

「セプトは1日1回はここに顔を出します。今日はまだ見かけていないのでこれから来るかと思いますよ」

「あ、ありがとうございます……えっと……」

「アリスです」

「ありがとうございます、アリスさん」


アリスは小さく頷き、魔王の作ったアップルティーを一口飲む。甘さ控えめだ。


*****


「セプト、どこに行っているのよ」

「バグがあるって噂だ。それの検証に行く」

「説明はもう少し早めにお願いしたいわね」


エミリアの言葉にセプトは苦笑しつつ、森の中を歩く。


「これなら私よりアリアの方が向いているんじゃない?」

「アリアは否応無しに目立つからな。バグが目立つのは俺たちとしては好ましくない」

「なるほど……で、そのバグって?」

「《セブンソードの遺跡》については知っているか?」

「あぁ、知っているわよ。確か最近実装された先着7名しか手に入れられない剣があるのよね?」


セプトはそれに頷いて


「その剣の入手方法はボスの撃破なんだがどうもソロでしか挑めないようなんだ」

「それを仕様と言い張れば良いじゃない」

「言い張るために確かめに来たんだ……さて」


見えて来たそのいかにも昔からありますよ的雰囲気を醸し出している建築物が。森の中にあるから蔦などが絡まっているのがリアルだ。


「それで? 2人で攻略するの?」

「そのつもりだ」

「良いの? 奥さんに呼ばれているんじゃないの?」

「……後で謝るさ」

「ベッドで?」


ニヤニヤ笑うエミリアに達也はため息を吐き、斧と盾を持って


「さっさと行くぞ」

「はいはい」

「今日中にバグを解明できれば良いがな」

「もしも出来なかったら?」

「明日もだ」


うげー、と顔を顰めるエミリア。それを満足げに見つめ、セプトは遺跡に足を踏み入れた。七人しか手に入れられない剣についての情報を自力で集めるために。


*****


「ツゲオー」

「はいはい」


アリアはツゲオの膝の上で猫のように丸くなっていた。そして


「ツゲオー」

「ん、どうしたの?」

「結婚について調べてみたんだけどね、満16歳じゃ無くてその年で16になれば良いんだって」

「そうなんだ。それじゃあ男も満18じゃなくて良いのかな?」

「みたい」


アリアはツゲオの膝に頬を乗せて


「聞いてよツゲオ」

「なんだいアリア」

「せんせがさ、進路を書けって言ってきたんだよ」

「ほうほう」


ツゲオにはオチが分かったが黙っている。すると


「ツゲオのお嫁さんって書いたら現実を見なさいって言われたんだけどここって現実だよね?」

「そうだよ」


ツゲオのアリアを撫でる手付きが優しくなった。

こんな担任は嫌だ

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