辿り着いた者
「エカテリーナ、何か食べたい物はある?」
『そうですわね……和菓子が食べたいですわ』
「おー、良いね良いね」
アリアとエカテリーナは天神へ来ていた。大体色々あるからだ。
「アリア、この辺りで和菓子を食べられるお店は地下にあるようです」
「ほほう」
『あら、調べてくれましたの?』
「はい」
エカテリーナがマグナの言葉に感心したように頷く。そして
『あのマグナがこんなに小柄とは思いませんでしたわ』
「そうですか?」
『ええ、凄く軽いですね……痩せていますね。羨ましい』
「え!?」
動揺したマグナを指で突くエカテリーナ。マグナは身を捩り、指を逃れようとした。まぁ、体は動かせないのだが。
『あら、和菓子って不思議な味なんですね』
「苦手?」
『いえ、特には。実家の方で食べたことがないので』
「ロシアに和菓子があったら私は驚くけどね」
「日本人町にありますね」
『そんなことまで分かるんですね』
マグナは和菓子を眺めながら内心で食べたい、と思っていた。だからこっそり直美にメールで「和菓子を作って食べさせてください」と頼んだ。すでに了承のメールと数枚のスクショが送られてきている。
「マグナ、エカテリーナの実家ってどこにあるの?」
「調べられますが調べません。それはアリアがロシアに行って知るべきです」
夏休みの予定でエカテリーナの家に遊びに行く、というのがある。ちなみにお泊まりで三日ほどだ。マグナと一緒にだ。
『マグナの言うとおりですわよ。アリア自身で確かめなさい』
「はーい。でもお母さんたちは良いって言ったの?」
『ええ、忙しいから時間が無いと言っていましたわ』
「それ、良いの?」
『ダメと言われても無駄ですもの。その場合は私が日本に来ますわ』
来てるじゃん、という突っ込みを放棄していると
「では何故エカテリーナは現在日本にいるのですか? 仕事に関係しているのですか?」
『ええ。これから梅雨を通り、夏ですもの。化粧品メーカーとしては今のうちにどこに流すかを決めてますの』
「一瓶万を超える?」
『ええ』
アリアの金銭感覚だと少し高い、といったぐらいだ。だが常識人のマグナは知っていたので無反応。つまりそれを聞いていた周囲の人々が軽くざわついた程度だ。アリアとエカテリーナは有名人なのだ。アリアはトッププレイヤー兼世界一としてテレビに出演していたり、エカテリーナは有名会社のトップ兼世界二位としてだ。つまり
「サインください!」
「写真撮っても良いですか!」
『アリア、応えてあげなさいな』
「んー、サインは無理だけど写真なら良いよ」
エカテリーナと二人で映ったり知らない女の子と映ったり女の子グループと映ったりして
「それじゃーね」
「「「「はーい!」」」」
アリアが手を振りながら別れる。その様子を眺めて
『手慣れていますのね』
「ジャパニーズはこういったのが多いからね」
「そうですね、中々多いです。ですがここまで堂々としたのはエカテリーナの存在が大きいでしょう」
『あら、お上手ですわね』
なんだろう、二人が仲良い。嫉妬しそうだ。
十五分後
「それじゃ、また今度ね」
「See you,my friend」
「Good luck,my friend」
「You too」
エカテリーナが荷物を渡し、飛行機に乗ろうとする。それに手を振っているとエカテリーナは振り返してくれた。
*****
「アリア、私はこの料理が食べてみたいです」
「ん、北京ダック?」
「食べ応えがありそうです」
「それじゃあアヒルの丸々を手に入れないとね」
「ふっふっふ、そんなこともあろうかと持っていますよ」
なんでだよ、アリアが内心で突っ込んでいるとマグナは自慢げな表情で丸まるの鶏肉をカウンターの上に置いた。とりあえず
「不衛生だから止めなさい」
「そんなシステムありませんよ?」
「良いから」
アリアはマグナから受け取った鶏肉に目を丸くする。
「高級素材だね。どこで手に入れたの?」
「七つの顔を持つ鳥のレアドロップです」
「あぁ、《七面鳥》かぁ。近接だと戦い辛いんだよね」
アリアとマグナがそんな風に談笑しながら七面鳥を調理していると
「やっと着いた!」
扉が勢いよく開かれ、洋紅色の髪が靡いた。それを見てアリアは
「帰ってよ」
「なんで!?」
妹への辛辣な言葉に妹は叫んだ。
*****
「もーよ、もーなのよ!」
「はいはい、落ち着きなよ。ほら、七面鳥焼けたから」
「アリア、それは私のです」
「うん、焼けただけだもん」
「ええ!?」
妹をからかいつつ、アリアは皿に北京ダックを載せて、ナイフとフォークをマグナに手渡す。
「食べきれなかったら少しちょうだい」
「はい、おそらくそうなると思います。ですが最初は私だけ、と言う満足感を得たいのです」
「良いよ良いよ。それでエミ、今日はどうしたの?」
「え? ようやくここに着いただけだよ?」
「そっか」
アリアは以前から渡そうとしていたその剣をカウンターの上に置いた。ずっしりと重いその剣たちの名は
「《神炎王龍の天魔剣》、《神風王龍の天魔剣》。僕が最強となった頃の愛剣だ」
「……それが、どうしたの?」
「アヤがいたら良かったんだけどね……エミに二本を預けるよ。アヤと一本ずつ、かな?」
「どういうこと?」
アリアは微笑んだ。答えを言うつもりは無いみたいだ。
「アリアは自分の前に立ったときに返せって言っているのですよ」
「ちょっとマグナ!?」
「アリア、意味深みたいに口を噤んでも無駄です。アリアは重要人物ですが重役じゃないのです」
「えぇ……」
「アリアは壁なのです。聳え立つ壁なのです。出っ張りなど無く、ただ聳え立つ壁なのです」
「マグナ?」
アリアの手がマグナの頭頂部に振り下ろされるがマグナはそれを見ないで避けて
「何をするんですか」
「君こそ何を言うのさ」
「アリアのぺたーんに何かを言及するなどありえません」
「よし分かった表出ろ」
アリアは満面の笑みで拳を握り固めている。それをマグナは眺めて
「アリア、妹の前で喧嘩をするのですか?」
「その妹を斬ったんだけど?」
「あぁ、そう言えばそうでしたね」
マグナは北京ダックを小さく切り分けてフォークに刺して
「アリア、あーん」
「え? 良いの?」
「良いですよ」
「なら遠慮無く」
アリアがうまうま、と食べている。そしてマグナはエミにも同じことをして三人でうまうま。すると
「あら、エミじゃない。もうここまで来たの?」
「あ、レヴィさん。こんにちは」
「さんはいらないわ」
レヴィはカウンターの椅子に座って
「アリア、何か辛い物をお願い」
「ん、山葵系? 唐辛子系?」
「唐辛子系」
「うどんに七味唐辛子は唐辛子系と判断しても良いですか?」
「許可する、やりたまえ」
偉そうなレヴィの言葉に苦笑しつつ作り置きのうどんの素を取り出す。そのまま《真天魔包丁》と《悪魔龍皇剣》の二本で麺を細く切り続けていると
「凄い……」
「エミ?」
「剣をそんな風に使うなんて……」
何かに驚いている妹をガンスルーして
「レヴィ、出汁は?」
「ん、鰹」
「ほいほい」
海エリアで釣れる高級魚、《カトゥーヲ》の通称だ。ちなみにレヴィは七味唐辛子をいっぱいかける派だ。
「ところでエミ」
「なに?」
「どうやってここまで来たの?」
「今さら!?」
読者の皆様、もう一話ありますよ
月曜日という憂鬱を増やしてくれること間違い無しです
誰が満足したのか、分かった人は感想ください




