別れの日
「マグナ、おはよう」
「おはよう、アリア。もう朝ご飯はできる頃だと思います」
「あ、ありがと……今日って何かあったっけ?」
「私が達也たちのところに帰る日です」
「え、もう?」
楽しかった時間が過ぎるのは速い。アリアはそう思いながら着替える。ワンピースだ。
「今日も可愛いですよ」
「ありがと」
「直美風に言うとプリチーです」
「あ、そう」
*****
「アリアちゃん、今日は何かあるの?」
「ん、ちょっと達也たちのところに行くよ。シェリ姉は?」
「なんも無し。言うなれば散歩ぐらい?」
「ほーぅ」
アリアはパンを囓りながら頷く。そして顔を上げて
「マグナは今日でお別れなんだよ」
「知っているわよ。だから予定は無いのよ」
シェリ姉はそう言いながら私の肩に乗っているマグナに手を伸ばして
「マグナは今日行きたいところある? あったら一緒に行かない?」
「あることにはあるのですが遠いので不可能かと思います」
「どこ? 名前だけでも言ってみてよ」
「太陽です」
遠いというか行けないというか。アリアとシェリルは苦笑しながら麦茶を飲み干して
「さてと。それじゃ行こうか」
「もうお別れなのですか?」
「大丈夫だよ。寄り道するし」
「寄り道は良いことじゃありませんよ」
「悪いことでもないよ」
アリアの言葉にマグナが微笑んだ気がした。そのままマグナはアリアと談笑しながら家を出た。行く先は唐人町だ。天神は最後に行く。
「行ってきます」
「はーい」
シェリ姉の声に頷いて家を出る。そのまま最寄り駅である藤崎駅まで歩こうとすると
「アリア、昨日の大会を覚えていますか?」
「どの試合かにもよるけどね」
「なら話は早いです。アリアとエミの戦いです」
「ぁあ……アレか。何が聞きたいの? 一撃で終わったけど」
「終わった? レベルとステータス、装備の差であって実際はーーアリアが負けていてもおかしくなかった」
「だね。でも結果論、僕は勝った、それで良いのさ」
マグナは嘆息して
「アリアのお気楽さを見習いたいです」
「おうおう、見習いなさい。そして先生と呼びなさい」
「嫌です」
にべもない言葉にアリアは苦笑しつつ、地下鉄に乗る。そのまま発車した電車は程なくして唐人町に着いた。とりあえず地下から出て
「マグナ」
「はい、なんでしょう?」
「また、ログインするよね?」
「さて」
「え!?」
マグナはアリアをからかいつつ、肩の上から辺りを見回す。道行く人々が焦っていたり笑っていたりと様々だ。人間とはげに不思議な生き物ですね。
マグナがそんな結論を出している中、アリアは歩き続けて扉を開けた。
「いらっしゃい、アリアちゃん、マグナちゃん。今日はどうしたの?」
「今日はマグナが帰っちゃう日だからね」
「ふむふむ。エカテリーナは明日だっけ?」
「うん」
アリアはカウンターの椅子に座ってマグナをカウンターに降ろした。そしてスムーズな動きで直美はマグナを肩に乗せた。
「ふっふっふ、マグナはいただいた!」
「ええ!?」
「ばいばい、アリア。あなたのことは忘れません」
「えええ!?」
五分後
「マグナ、あなたってコピーできないの?」
「データ自体はコピーできたとしても私の人間としての心は……」
「あぁ、そう。とりあえずアリアちゃんと一緒に行くのよね?」
「はい、そのつもりです。達也にデバイスの返却を忘れていますが」
「あ”」
アリアの表情が変わった。そしてカウンターの椅子から飛び降りて
「直美、少し預かってて!」
「はーい」
ちなみに余談だがアリアの身長ではカウンターの椅子に座ると足が届かないのだ。
*****
「マグナ、寂しい?」
「はい、アリアには言えませんが凄く寂しいです」
「また会えるよね?」
マグナは直美の質問に目を閉じた。そして頷いて
「また会いましょう」
「そっか。だったらあんまり悲しむ必要は無いかな」
「はい、そうでしょう」
「達也たちに連絡はしたの?」
「はい」
マグナは鼻歌を歌いながらアリアを待つ。体があれば椅子に座りながら体を揺らしている気分だ。
「その歌、アリアちゃんの?」
「はい。アリアが創った歌です」
「名前は?」
「ありません。歌詞もありません」
「じゃあリズムだけ?」
「はい。音階も適当です」
ただ歌いたい感じで、というのがアリアちゃんらしい。直美とマグナは同意見に至った。そしてぜぇぜぇ、と息を切らしたアリアが帰ってきた。
*****
「あ、アリアさん、こんにちは。今日はどんな用件ですか?」
「達也にアリアが来たって伝えてください」
「分かりました。四階の応接室でお待ちください」
「はーい」
いつもの真面目な話をする部屋だ。とりあえずそこまで移動していると
「あら、アリアさん。こんにちは」
「こんにちは、優さん」
「達也と一緒に応接室に行くんですがちょうど良かったですね」
「あれ? その達也はどこに?」
辺りを見回しても達也の姿は無い。だからアリアが疑問の声を出すと
「達也は少し遅れてくるそうです」
「あ、そうなんだ」
「先に入っていましょう」
そのまま部屋に入って部屋に設置されているサーバーから冷たい麦茶を注いで
「アリアさん、最近どうですか?」
「リアルだともうすぐ六月だから憂鬱だよ。優さんは?」
「私も洗濯物が乾かなくなるので憂鬱ですね。ではソーニョの方では?」
「ん、みんなで大会をしたよ……って知ってるかな?」
「はい、見ていましたよ」
アリアは何があったかな、と思っていると
「お待たせしました……アリア一人か?」
「いえ、私もいますよ」
アリアの手の中でマグナが自己主張する。それに達也は驚いて
「マグナもいたか。それで、今日が期限だったな」
「うん、だから連れてきたんだ」
「そうか。マグナ」
「はい」
「データを解析するためにコピーする。その後は好きにしろ」
「好きに?」
マグナは達也の言葉に目を丸くした(つもりだ)。そしてアリアをちらりと見て
「……アリアと一緒が良いです」
「え?」
「……優、自我の芽生えは確実のようだな」
「はい。というかそもそも疑っていませんよ」
「そうか」
*****
「と、言うわけで改めましてよろしくお願いします、お母様」
「まぁまぁ、素敵ねぇ」
お母さんとマグナの会話を聞きながらアリアはテレビを付けた。そしてチャンネルを変えていると
「あ、あったあった」
目的のチャンネル、ゲームなどに関することばかりが放映されているチャンネルだ。そしてお目当ての番組が放映されるまで二分ぐらいある。そう思っていると
「アリアちゃん、マグナちゃんって何を食べるのかしら?」
「料理は食べないよ!?」
お母さんの創った謎料理を食べさせるわけにはいかない、アリアはそう心に決めた。
「あ、お母さん観て観て。あの子がマグナだよ」
「あら、綺麗な子ね」
「ありがとう御座います」
「えと……エミちゃんとシェリちゃんも映っているの?」
「うん」
お母さんは家族の過半数が同じゲームでテレビに出演していると知り、驚いていた。その結果
「アリアちゃん、エミちゃんを真っ二つにしたのは良いけどね、未来の旦那様を斬るのはどうかと思うよ?」
「私なら良いのね……」
エミは悲しげに呟いた。
別れの日(別れるとは言っていない)
とりあえず明日には劇場版などとほざいたのを投稿します
明日月曜日だ、という憂鬱な気分をさらに高めてくれるでしょう




