一撃で
「アリアとシンの戦い、ねぇ。どっちかが手加減すると思う?」
「どっちもしないでしょ。あの二人よ?」
「でしょうね」
シェリルはため息を吐いて目を細めた。
*****
『スタート!』
「んにゃっ!」
「わ!?」
アリアの跳び蹴りをシンがギリギリで防いだ。そのまま顔を上げて文句を言おうとするが
「遅い!」
「なんで!? なにが!?」
シンの顔面への剣、それを逸らしてカウンターで斬りつける。そのまま連続攻撃を叩き込もうとするが
「にゃっはっは」
「なんでそんなにご機嫌なのさ」
「だってシンと戦うなんて初めてだもん」
「あぁ、そうだね。だからといって僕は負けるつもりはないけどね」
「僕もだよ」
アリアの言葉にシンは苦笑し、《黄昏の剣》と《夜明けの剣》を構えた。対し、アリアは《悪魔龍皇剣》と《天地滅殺》の二本を構える。
どちらも手加減をする気など無い。もっともアリアは全力を尽くすつもりではない。マグナとの時と同等までだ。
「……っ⁉︎」
「甘〜い」
「えっ⁉︎」
アリアの剣がシンの剣を手から弾き飛ばした。一瞬目が動くのをアリアは見逃さない。瞬速の剣がシンの胴体に叩き込まれる
「っ!」
「え⁉︎」
はずだった。シンの剣が閃き、アリアの剣が弾き飛ばされる。驚きの表情のアリアに剣が伸びるも
「やっ!」
「防がれたかぁ……結構上手いタイミングだと思ったんだけどね」
「うん、中々ギリギリだったよ」
「もう少し焦らせたいね」
「酷いなぁ」
アリアは嘯きながらニヤニヤ笑う。シンはそれを見て単純に可愛いけどムカつくと思い、ため息を吐いた。そのまま剣で斬ろうとするが
「遅いよ」
「……あ、そう」
「でも、反応は凄いね。正直避けられるとは思わなかったよ」
背中からの突きを避けて距離を置こうとした。しかしアリアの動きは止まらない。回転を乗せた剣に高速の突き、そのままの切り上げ。
「うーん、なんとかなったかな」
「かなりギリギリだけどね」
シンは肩の傷を無視して、片手で剣を構える。もう一本の剣を拾いに行くには時間がかかり過ぎる。アリアに拾いに行かせてくれる隙は無い。だったら一本で充分だ、と割り切ろう。
「シン」」
「なに?」
「思った以上にシンが強くて嬉しいよ」
「バトルジャンキーみたいだね」
「えへへ」
褒めてないから、シンはそう思いながら剣を振るった。アリアの白く細い首を切り裂こうと迫る剣、その起動に白い閃光が走る、直前で手首を返す。縦切りにシフトしたそれは下からの剣と激突して噛み合った。
「わぉ」
「はっ!」
舐められたままじゃ終われない。いくら恋人だとしてもただの負けで満足はできない。全力を出し切らないと。そう思った瞬間
「あ」
「剣陣糸の型」
シンが動こうとした瞬間、微弱なダメージと行動の阻害が。気づくと大量の剣がばらまかれている。それらの柄から伸びる糸が陣を織っている。それはシンの動きを止めるようだったのだろう。だが
「ん」
シンはアリアの剣を引き抜いてアリアに剣を向けた。そのまま斬りかかったが
「秘剣参の型ーー雷霆」
シンの正中線を通って剣線が走った。そして真っ二つに。
*****
「魔王とマモン、そしてエミ。その三人が戦えば誰が勝つと思う?」
その問いの答えは大きく分かれる。一般的なプレイヤーはマモンだと言い、マモンをよく知る《魔王の傘下》のメンバーはエミだと言うだろう。マモンは楽しむために戦うからだ。
『スタート!』
「喰らえ」
「ち!」
放たれた矢が四本に分かれ、魔王を射貫こうと迫った。しかし魔王は二本のナイフで矢を切り落とした。さらに続けてナイフを投擲したが
「よっと、えい」
「むっ!?」
投げたナイフがキャッチされ、矢と共に放たれた。現実ならば飛ばないがここはVR、そのおかげで魔王に向かってナイフが放たれた。しかし魔王も然る者ながらナイフをナイフで受け止め、そのまま取った。
「やるじゃん」
「一応リーダーだからな……おっと」
魔王の背後からエミが斬りかかった。しかしそれは軽々と魔王が受け止めて
「確かに速いな」
「おお、魔王もそう思う?」
「エミのレベルゾーンを知らないがな」
現在のエミのレベルは2000を越えている。格上とばかり戦い続けた結果だろう。その中でもレベルカンストのアジアンを倒したのは大きいだろう。
「エミ、強くなったね」
「まだまだ、マモンたちには敵いません」
「そうだね。でも夏にはアリアを越えられるんじゃない?」
「そうだな。今の成長率ならいけるかもな」
エミは嬉しかった。トッププレイヤーである二人にそう言われたのだから。だから照れ隠しも含めて
「そのためには二人を斬らないといけません」
「ああ、そうだな」
「でもね、エミちゃん。私たちはそう簡単に負けてやらないよ?」
マモンはそう微笑んでエミに弓矢を向けた。そしてそのまま矢を放った。
「《零舞》!」
「おお? 受け止められたんだ」
「STR? いやもっと何かあるな。装備と経験か」
「それだけじゃない、向上心だよ」
なるほどな、と魔王が呟いてマモンに目を向けた。そしてナイフ二本のうち、一本を鞘に収めた。
「マモン」
「はいはい。ほんと、魔王はお節介だね」
「五月蠅い」
状況把握ができていないエミは戸惑っている。そしてマモンの矢が魔王の両手両足を射貫く、投げられたナイフがマモンの太ももに刺さった。
そこから状況が読めていないエミにマモンが説明し、魔王とマモンがエミに斬られるまでそう時間はかからなかった。
*****
『いよいよ待ちに待った決勝! 生ける伝説にして堂々たる世界一、《最強》、アリア! そして対するはその妹! 立ちはだかるトッププレイヤーたちに一歩も引かず、勝ち続けた、《最強の妹、エミ!』
僕は自他共に認める最強の剣を握り、段上へと躍り出る。そのままエミを見つめて
「エミ」
「お姉ちゃん?」
「正直驚いたよ。エミがここまで上がってくるなんてね」
「……勝ってないよ? 譲ってもらっただけだよ?」
「うん、そうだね。だからといっても卑下しないで良いよ。僕に勝てば誰も何も言わないんだから」
アリアは手加減をする気が無い。エミを一撃で終わらせようとしているが
「エミ」
「え?」
「一撃でエミを斬り倒す。防げるものなら防いでみてよ」
「……」
エミは真剣な表情で頷いて剣と扇を構えた。
『スタート!』
「っ!」
アリアは一瞬で剣を振り切った。そしてエミが高速の砲弾のように射出され、コロシアムの壁に叩きつけられた。まごうことなくアリアの勝ちだ。だがアリアは釈然としないものを感じていた。
(受け止められた?)
エミの体力は間違いなく0だ。だがあのタイミングで、もっと強い装備で、ステータスが高かったのなら……カウンターでやられていたのは僕だった。
アリアは自分が負けていたかもしれない、そう思うと不思議な感覚に襲われた。マグナにもエカテリーナにも感じた強者の鱗片を感じたのだ。
「……」
アリアは考える。まだ五月だ。だが七月を、そして夏休みを越えて世界大会の予選が始まったのなら……その時はエミに勝てるのだろうか? アリアの脳内は底知れない恐怖に満たされていた。
一撃でー突き破るのさー
風邪引いたで御座る
今も意識が朦朧としている
お休みまdし




