表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
205/401

対談

「エミが戻ってこないね」

「でも経験値が入ってくるってことは」

「戦い続けているんだろ」


五人は頷いて細い通路を走り出した。少し広い空間に出たが


「モンスターがいない?」

「リポップしていませんね」

「エミがやったんだろ」


五人で走っていると、背後で物音がした。モンスターはいないはずなのに。


「アーニャ!」

「分かってるっすよ……モンスターのリポップっす! 挟まれる前に倒すっすよ!」


アーニャは一方的に言い切って背中の忍者刀を抜いて駆け出した。そのままモンスター、《ケンタウロス》の足を斬りつけ、すれ違う。そして空いた片手に苦無を握って刺した。


「《蝕毒》」

『《ブラスッ⁉︎』

「動けないっすし毒でチマチマ削るだけっすよ」


麻痺と毒の同時付与、アーニャは落ち着いて《ケンタウロス》を全損させた。


「《アイスランス》24!」


アスカはガトリング砲のような射出をする。それは正面から迫る蜥蜴人間の剣や盾に防がれた。しかし完全じゃない。次第に防御に穴が空く。そこに氷の槍が飛び込んだ。


「おらよ!」

『《アークスラッシュ》!』

「《アークスラッシュ》!」


正面からの激突にアヤと《スカーナイト》が弾かれる。しかし互いにすぐさま体勢を立て直して剣戟が再開された。均衡が取れれその剣戟は


「《スターダストスプラッシュ》!」

『《スターダストスラスト》!』


数で上回る連続攻撃に終わりを迎えた。


「《セイントウォール》、《セイントエンチャント》!」

『《アークスラッシュ》!』


《スカルボーンナイト》の剣を光の壁が阻む。そしてその光の壁から生えた杖で殴られた。光のエンチャントがされたそれはアンデッドモンスターには効果抜群だ。光を眺めながらシアは辺りを見回す。まだいるから。


「ピュアホワイト! 一体受け持ちます!」

「いらない! 私一人で充分!」


三体を相手取っているピュアホワイトが叫び、槍を大きく振るった。それに三体の《ウィンドキーパー》という鳥が後ろに下がる。しかしピュアホワイトの動きは止まっていない。振るった勢いのままに振りかぶって


「《トリシューラ》っ!」


三叉の槍。それは見事に三体の《ウィンドキーパー》を刺し倒した。


「しっかしこの辺りで梃子摺るんならエミはどれくらい進んでんのかね」

「エミの事だし戦い続けているから案外進んでいないに一票」

「ありそでなさそ……って言えねー」


ピュアホワイトの言葉にアヤは苦笑しつつ走る。その手の剣はモンスターと遭遇する度に閃いている。アリアの創り上げた剣、《永遠の栄華》は切り続けている限りダメージが増え続ける。アヤの動きが止まらないのはそれが原因だ。


「コンボゲージ、溜まりそうだ」

「おっけー、仕掛けるよ」


コンボゲージ、先日のアップデートで追加された新要素だ。攻撃を続ける、攻撃を受けることでゲージが満ちていき、逆に攻撃をせずに避けていてもゲージは減る。この新要素により、壁役タンクの存在理由は少なからず増えてきた。


「ゲージ溜まっているってことはエミも戦っているんだろうな」

「パーティ全員で共通だからそういうことだろうね」


アヤは盾を使い、ゲージを溜ながらカウンターを叩き込んだ。


「いた!」

「エミ!」

「《天舞四の型》!」


エミの扇が不定形スライムを一瞬で葬り去った。そしてアヤたちに手を振った。


「遅いよー!」

「偵察って言ったのにガチ攻略しているお前が言うな」


*****


「マグナ、どう?」

「不思議な感覚です、お姉様」

「そう。変な感覚があったら言ってね」

「不思議と変は違うのですか?」

「そうね。人によって差があるわ」


マグナは濡らしたティッシュで埃を拭われるのを感じながら考えた。しかし


「何故人間は均等では無いのでしょうか?」

「人間だからって言ったらどうする?」

「どう、とは?」

「人間は親が創ったの。誰も同じじゃ無い、そんな感じなのよ。マグナには分からないかもしれないけどね」

「……少しは分かります」


マグナは目を閉じた。閉じる目など無いが感覚的に目を閉じた。そのまま大きく息を吐いた。


「お姉様、私は人間ですか?」

「マグナはマグナよ。マグナはアリアちゃんじゃないし私でもない。マグナはマグナでしょ?」

「……そう、ですね。ありがとうございます、お姉様」

「何か助かったのかしらね」


シェリルはマグナを肩に乗せて


「これからバイトなんだけどどうする? 一緒に来る?」

「バイトですか? いったいどのような?」

「マモンって言ったら分かる? あの人の実家よ」

「……」


マグナは実は彼女にかなり興味があった。人間なのに自分に近い存在だと思っているからだ。もっともそれにマグナは気づいていないし直美も気づいていない。


「アリアちゃんを待つ?」

「いえ、マモンに私は興味を持っています」

「そうなの?」

「できるのならば彼女と一対一で話したいです」


マグナは気づいていない。AIは本来望まないものだと。しかしマグナは直美との対話を望んでいる。その矛盾にマグナが気づくのは一時間ぐらい後だった。ちなみにシェリルは気づいていたが自分が気づけるのならマグナが気づかないはずがない、と思ったらしい。


「それじゃマグナ、出るからね」

「はい。その服はとても似合っていますよ」

「そう? ありがと」


十五分後


「あら、シェリちゃん。今日は早いね、何かあったの?」

「あったわよ。それで直美、あなた時間に余裕はあるかしら?」

「ん、ありありだけど? アリアちゃんの結婚式の準備とか?」

「気が早いわよ……マグナ、あなたが口で言いなさい」

「私に口はありません……マモン、少々お時間よろしいでしょうか?」


直美は少しあたりを見回して


「直美よ。リアルでマモンって呼ばないでね」

「分かりました。直美」

「それじゃ今はお客さんもいないから座ってて。シェリちゃんは何か飲む?」

「そうね。桃系お願い」

「ネクターティーで良い?」


直美が二つ返事で作り出した。そして何故かその手元をマグナはのぞき込んでいる。直美がいつの間にか私から取っていたようだ。

その頃、マグナたちは


「直美、その動作には何が必要なのですか?」

「んー、リズム?」

「何故?」

「なんとなーく、だよ。マグナには分かり辛いかもしれないけどね」

「分かりません」


マグナの言葉に直美は目を閉じて


「分かるものを分かりたいのは人間もAIも同じ、かぁ。だったら何の差違もないわよね」

「……直美……」

「まぁ、マグナの中には達也たちがいるもんね」

「……アリアも、シェリルもいますよ」

「あぁ、一緒に暮らしているんだったね」


直美は頷きながら紅茶の葉を蒸らしてーー桃の絞り汁へ紅茶が注がれた。そしてそこに砂糖を少し溶かして


「お待たせ、シェリちゃん」

「ありがと。バイト代から引いといて」

「良いよ、奢り」

「そう。ありがと……マグナ、どうだった?」

「楽しかったです。もっと話していたいです」

「え、そんなに?」


驚いている直美を見てマグナは満足している。アリアのようにだ。そして


「マグナ、今日は直美の家に泊まっていったら? こんなこともあろうかと充電器は持ってきているわよ」


まだこの時のシェリルは後に訪れたアリアがマグナと一緒に直美の家に泊まりたいと駄々を捏ねるのを知らないのだ。

大学面倒

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ