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エミはへこたれない

「ダンジョンの深層まで辿り着けると思いますか?」

「時間的な問題で無理だろうな。今日はそろそろログアウトしても良いかもしれん」

「そうだねー」

「そうね。エカテリーナはいつまでこっちにいるの?」

「来週の日曜日、6月7日までですわね」

「6月7日まで12日、現在のペースなら無理がないと思います」


マグナの言葉に頷いて


「それではまた明日」


みんなでログアウトした。そのままマグナはUSBを通してデバイスから抜け出す。そのまま人間であればため息を吐いた。思えば随分と楽しんでいた、と。

かつては自分自身と戦うのを忌避していた。しかし越えたい対象が、アリアがいた。だから戦う理由となった。越えたい、と言う渇望があった。だから


「アリアは早く戻ってこないでしょうか」


わくわくしていた。アリアの創ったダンジョンを攻略していた、その感想を聞きたかったから。すでにAIの範疇に収まらないその思考は人間と同等の者だったがマグナ自身には創られたものという想いがあったため、気づくことはなかった。


「ん……」

「お帰りなさい、アリア」

「あ、マグナ。そっか、先にログアウトしたもんね」

「はい。アリアはダンジョンでどう思いました?」

「どうって言われてもね……もっと難しくしないといけないなーって思ったよ」


ダンジョンから出るための道具、それは階段の近くにある。それを使って外に出れば次回ダンジョンに着た際にそこから再開できる。だからと明日は今日進んだ400層の途中からだ。


「でもあれはマグナたちだからっても言えるよね」

「そうですね。私たちが強いだけです」

「んー、大分ヤバげ?」

「はい」


自信満々なマグナにアリアは少し嬉しくなる。競える相手がいるのだから。

この時点で大半のプレイヤーはアウトオブ眼中なのだがアリアはそれに気づいていなかった。


「明日こそ勝ちます」

「負けないよー」


明日の学校の用意をしてアリアはパジャマに着替えて


「おやすみ、マグナ」

「おやすみなさい、アリア」


アリアが寝る。それと同時にマグナも睡眠という名のシャットダウンを行う。次に目覚めるのはアリアと同時で。


*****


マグナは一人で目を覚ました。アラームが鳴っているのに目を覚まさないアリアに嘆息して


「朝ですよ」

「zzz」

「朝ですよーっ!」


起こさないといけない。仕方なく叫んでいると扉が開いて


「おはようございます、シェリルさん」

「おはよう、マグナ。ごめんね、毎日」

「お気になさらず。疲れませんから」

「ん……起きなさい!」


シェリルの手がアリアの唇と鼻をつまむ。穏やかな寝息が止まり……噴き出すようにしてアリアは目覚めた。そのままのそのそとベッドから這い出して


「おぁよ……」

「はい、おはよう。顔洗って来なさい」

「はぁい……」


シェリルは短く嘆息した。そしてマグナに顔を向けた。


「マグナ? 何か変だった?」

「いえ、特には。しかし私も腕が欲しいです」

「そうだね……達也さんたちにお願いしてみたら?」

「……時折向こうのマグナが羨ましくなります」

「……私も、かな」


なんだって出来てしまいそうな彼女たちに憧れ、嫉妬する。そうマグナが自分に対して呆れていると


「今日は私の方に来る?」

「良いのですか?」

「うん。アリアちゃんとは違った何かが得られるかもよ」

「ではよろしくお願いします」

「お姉様、と呼んでね」

「え」


AIである自分が戸惑っている。それがマグナの脳内を混乱へと導いた。しかしシェリルはそれに構うことなくUSBを繋いで自分の時計型デバイスにマグナを移動させた。


「どう? 問題無いかな?」

「大丈夫です、お姉様」

「よろしい」

「ですがお姉様、私を学校に連れて行っても大丈夫なのですか?」


マグナが懸念を口にするとシェリルは微笑んで


「今の私たちの研究テーマがAI関連なの」


*****


「ツゲオさん」

「ん、どうしたの?」

「その手の指輪、アリアとお揃いですね」


ツゲオが微笑んでいるのにマグナは疑問を抱く。何故身につける必要があるのか、と。しかしアリアも着けているのならば当然理由もあるのだろう。その疑問を飲み込んで


「素敵な指輪ですね」

「アリアが選んだんだよ」

「エ”」


マグナが自分のものだと認識できないような声を漏らした。鈍いその声はツゲオとシェリル、そしてもう一人の女性を驚かせた。


「マグナ?」

「大丈夫?」

「どこかおかしくなったのかしら」

「……失礼、あまりの事態で思考回路にエラーが発生しました」


聞き間違いであって欲しい、そんな願いは自らの記録の中にある事実が助走をつけて殴り飛ばした。マグナが愕然としているのをシェリルはおかしそうに眺めて


「マグナって本当に人間みたいよね」

「それは褒め言葉ですか?」

「人間が優れているのならね」


シェリルの煙に巻くような言葉にマグナは少し考えた。本来ならそんな機能はないはずなのに。しかしその思考の結果


「人それぞれですね」

「そうよ」


そんな答えを出した。それに女性は目を見開いて


「これ、本当にAIなの? 人間が通話しているって言っても信じられるんだけど」

「マグナはAIですよ。アリアのおかげで随分と人間らしくなりましたけどね」

「あぁ、ツゲオくんの婚約者」


女性は頷きながら時計型デバイスを見つめる。その内部で何が起きているかを見透かそうとしているかのように。マグナはそれを無視して


「シェリル、次の授業はいったい何をするのですか?」

「古典よ。昔の本を読むの」

「何故? データとして存在していれば良いのでは?」

「うん、だね。でもそれじゃ人間としての知識や教養が無いからね」


マグナは疑問を感じた。何故そんなものが必要なのか、と。だからそう口にすると三人は何も言わなかった。まるで答えは無いとでも言うかのように。


*****


「ダンジョンを創りたいよね」

「ん、そりゃ同感だ。でもアレってもんの凄く金がかかるんだろ?」

「そうですよ」

「金の出所はどうするっすか?」


エミはんー、と悩んで


「お金はもう稼げるから良いじゃん」

「稼げないから言ってんだよ」

「え、そうかな?」

「現実を見なさい。今の私たちにそんな余裕があるように見えますか?」

「あるよ」


エミを囲んで五人が説教をする。そういったところは姉とそっくりだ。しかしエミはへこたれない。どうしたものか、と考えて


「他人が創ったダンジョンに行けば良いんだ!」


そんな愚かな一攫千金を夢見た。そしてその意見は何故か通ってしまった。それについてアヤはこう語る。『なんとなくで流していたらいつの間にか後戻りできないところにいた』、と。


*****


「エミ、偵察に行ってきて。倒せそうなら倒しても良いから」

「はーい」


エミはシアの指示に従って駆ける。そのまま細い通路を抜け、やや広い部屋に出た瞬間


「んん!?」


矢が飛んできた。咄嗟の判断により扇で打ち払った。さらにその回転運動を利用して剣を振るった。さらに打ち払われる矢を目で追わず、エミは低い体勢で駆け出した。


『《スプレッドアロー》!』

「《ソードパリィ》! 《扇華絢爛》!」


投げた扇は矢を放ったモンスターを倒した。

疲れた眠い

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