結婚プロデューサー
その日はマグナは学校に行きたいとは言わなかった。何故かきりと馬が合っているのに。
「それじゃ、行ってくるね。一人でも大丈夫?」
『はい、大丈夫です。行ってらっしゃい、アリア』
家を出る。そのまま一人で歩いていると背後から車の音が聞こえた。振り向くと
「直美? どうしたの?」
「アリアちゃんを見かけたらから寄せてみただけだよ」
「そうなんだ。私を連れて行ってくれない?」
「ん? 学校まで?」
「そそ」
いそいそと乗り込んで車が動き出した。そして
「アリアちゃん、学校はどう? 楽しい?」
「さぁ? 卒業したらどうするかで悩んでいるから」
「選択肢はどんな感じなの?」
「就職か進学かお嫁さん」
「へぇ~?」
「就職か進学、どっちでもお嫁さんだけどね」
「ツゲオの?」
「ツゲオの」
「江利アリア?」
「江利アリア」
何度か一人で口にしてにやにやしちゃう素敵な響きだ。そう思っていると直美は大きく苦ため息を吐いて
「アリアちゃん、子供を作るのは少し待ってね」
「んー?」
「ツゲオが高校生で子供がいるってなると中々凄いから」
「可愛いなら良いじゃん」
「アリアちゃんに子育てができるとも思えないからね」
言われてみればそうかも、そう思っていると直美は微笑んで
「私を頼ってくれても良いしシェリちゃんを頼っても良い。きっと亜美も良いって言うわよ」
「かもね」
「アリアちゃんの子供が生まれたらどんな子になるかなぁ……やっぱり負けず嫌いかな?」
「私、負けず嫌いかな?」
「僕の方はね」
それはあるかもしれない、アリアはそう思う。もう一人の私、《最強》の私なら、と。
二重人格に近い彼女は諦めが悪く、上を目指し続けている。《最強》となった今もなお。そして今は彼女にはライバルがいる。毎日のように挑みかかってくる、強くなって挑んでくる彼女がいるからだ。だけど
「人間を越えようとする精神体、それがAIなのかな」
「んー? 哲学ってるね。だったら教えてあげる」
「え?」
「AIには上昇志向が無いはずだよ。本来なら学習機能なんて記憶程度のものなんだよ」
「直美?」
「アリアちゃんが戦っているのはもうAIなんかじゃ無いかもしれない」
直美は呟いて車を止めた。
「降りないの?」
*****
「行きます!」
「Come on!」
アリアの声にマグナは応えないで銃を向けた。そのまま連射しつつ前に出る。アリアの剣が弾丸を受け止めて弾き返す。その弾丸をマグナは銃で払い除けて顔面を狙った。しかしアリアの剣が銃を押さえ込む。銃口を体から逸らして地面を蹴った。マグナが体勢を崩すのを眺めて
「どりゃ!」
「!?」
蹴った。高く吹き飛んだ体を眺めつつアリアは体を丸めた。両腕でもう片腕を抱きしめるように。そしてーー
「フライ」
アリアの背中から純白の翼が生えた。正確には《アストライアーの慈愛と慈悲と尽きぬ愛》だ。だが飛び立ったアリアの頬を弾丸が掠めた。そのまま高速で跳び、弾丸を避け続ける。
この時点でアリアには手加減は無かった。全力でやらねば負ける、それぐらいの強さが彼女にはあるからだ。アリアはマグナに上げた自分の創った銃をやり過ぎたと思っている。だがそれと同時に楽しんでいた。同じくらいの強さをもっているものがエカテリーナしかいないからだ。
「空を駆ける、僕が笑う」
「《アイドル》スキル?」
「僕の翼が空をなぞる」
アリアの飛行の軌跡が空に幾何学模様を描いている。それをマグナが撃ち落とそうとしているが一切当たらない。彼女がマグナを撃とうとしているのを感じ取り、避け続けているからだ。スキルなんて関係ない。アリア自身のセンスだ。
「ん!」
「は!」
剣と銃口が激突した。そのまま放たれた弾丸が真っ二つになり、アリアの顔の皮膚を弾き飛ばす。決して少なくないダメージがアリアには通るが……アリアは倒れていない。そしてマグナの首をアリアは切り飛ばした。
それから十五分後
「また、勝てませんでした」
「だって僕は《最強》なんだからね。そうそう勝たれてもらっても困るよ」
「明日こそは勝ちます」
「あはは、負けないよ」
マグナはラーメンを啜りながら微笑んだ。すでにレベルはアリアと同じ、4999《カンスト》だ。つまりカンストしているプレイヤーの数がまた一人、増えたのだ。ちなみに九州サーバーでのカンストはアリア、マモン、魔王、アリスだけだった。これでカンストは五人になった。
「アリアちゃん、少しマグナちゃんを借りて良い?」
「マグナに聞いてよ」
「構いませんがちゃんはやめてください」
「ん、マグナさん? で良いかな」
「構いません」
マモンは頷いてマグナを眺める。そして頷いて
「私と結婚して」
「お断りします」
「残念」
一瞬の会話が正気を疑うレベルだった。とりあえず紅ショウガの味を楽しみつつスープを飲む。しかし
「マモンってさ、意外と結婚願望あるよね」
「婚約者がいるアリアちゃんに言われたくありませーん」
「別に良いじゃん、結婚しても。むしろ応援しているんだけど」
「流沙に結婚を迫ろうかしら」
「良いと思うよ」
三日後、アリアへ抗議のメールが来るのを今のアリアが予想していなかったのは当然だ。
「それじゃマグナさん、私と戦わない?」
「マモンとですか?」
「そう」
「……嫌です」
「がーん」
この反応はジャックと達也だ。分かりやすいそれに笑っていると
「あ、セスタス」
「どーも……そちらさんは?」
「マグナ、仲間だよ」
「《魔王の傘下》の?」
「んー?」
そう言われると違う気がした。だからそこのじゃない、と言った。とりあえず注文されたちゃんぽんを作って
「アリアに剣を創って欲「お邪魔しますわ!」
ばーん、とドアを開け放ってその少女が入ってきた。金髪ツインテールの彼女は
「エカテリーナ?」
「久しぶりですわね! アリア!」
「エカテリーナ!」
ぎゅーって抱き合う。そのままぐるぐると回転して
「そぉい!」
「なんで!?」
投げられた。仕方なく天井に着地してつま先を梁に引っかける。そのまま逆さまの状態でエカテリーナを見下ろすと
「借りを返しに来ましたわ」
「借り?」
アリアが何かあったっけ、と悩んでいると
「咲かせましょう、愛の華。飾りましょう、その愛を」
「へ?」
「結婚プロデューサーエカテリーナただいま参上!」
「何に影響されたの?」
「メダロット○?」
マモンの呟きに怪盗レトルト○が浮かんだ。それを流して
「あ、私が呼んだのよ」
「マモン?」
「アリアちゃんの結婚式は本気で頑張らないとね」
「ええ。それを黙っているなんて水臭いですわ」
「ごめん」
「良いですわよ。結婚式には呼んでくれる予定だったのでしょう?」
エカテリーナは分かっているようだ。それにアリアはほう、と感嘆の息を漏らした。だがしかし
「僕たちが結婚するのは最低でも来年だよ?」
気が早い、そう言ったら
「こんの大馬鹿者!」
「ええ!? 何で怒鳴られたの!?」
「アリアは馬鹿ですわね! 結婚式の準備はいくらしても足りませんわよ!」
良く分かった。エカテリーナは謎の理屈で動いているんだ、そう思ってアリアはため息を吐いた。
ちなみにそれはみんながアリアに思っていることだった。アリアはそれを知らないが。
エカテリーナ再登場
地味に気に入っているキャラ筆頭
ちなみに次点がマリアです(出番ないけど)
派手に好きなのはアリアとマモン
次回予定無し!




