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200話記念 魔王の傘下の始まり

うぼぁ!

それはVRMMOが一般的になって2、3年が過ぎた頃だった。とあるVRMMOで行われたイベントにあるクエスト、それには2パーティがクエストの受注に必要だった。そしてそのクエストが貼り付けてある掲示板を見て9人のトッププレイヤーため息を吐いた。ソロプレイがメインだったからである。


「……つまり俺一人じゃクエスト自体が始められないのか」


MAOマオと言う名のプレイヤーがクエスト受注所の椅子に座ってため息を吐いた。そのまま辺りを見回す。

マオは初めてのVRMMOで初めての経験をした。しかし彼自身は大した強さはなかった。


「……おや」


このクエストについて調べてみるとどうにもならないということだけが分かった。もはや挑むプレイヤーが少ないくらいだ。それもそのはず2パーティで何かをするなんて得が無いからだ。その影響で多くても5人での連携となり、パーティ間で混乱する。そしてもう一つの要因が


「単純に難しい、か」


どうもイベントボスを倒すのがクリア条件らしいがそこまで行くためにモンスターの群れを狩らないといけないらしい。さらには特殊エリアに移動だから何かに期待も出来ない。何に期待するのか分からないが。

そこまで考えてため息を吐く。するとその瞬間深緑色の髪が目の前を横切った。その髪の色は


「《魔弓》だ」

「目をつけられると射抜かれるぞ」

「でもあの美貌……射抜かれたい」

「「レベル高え!?」」


彼女は確かNAOナオというトッププレイヤーだったはずだ。思わず見つめていると


「この世界だと見ているってのは分かりやすいの。喧嘩の原因にもなるから注意した方が良いよ」

「え……あ、悪い」

「それで? 何か用なの?」

「あ、ああ……あそこにある例のクエストを受けたくてな」

「悪いことは言わない。私だって無理だったんだから」

「そうなのか」

「正確には野良パーティに参加したんだけどね。連携がぐちゃぐちゃで……ホント何なのって感じだったよ」


ナオはそう言ってテーブルに突っ伏した。お世辞にも行儀が良いとは言えなかったが……なんとなく同情する。


「で、結局そのクエストを頑張るの?」

「そのつもりだ」

「ふーん、頑張ってね」

「手を貸してくれないのか?」

「うん。話しかけたのは単純興味だからね」

「そうか」

「でも……うん、手伝ってみるのもありかな」

「ん?」

「ソロプレイヤーでパーティを占めればワンチャンあるかもって」

「心当たりがあるのか?」


確か彼女もソロプレイヤーだったはずだ、そう思っていると


「私はみんなと繋がりはあるからね」

「……みんな?」

「そうそう」


そう言ってナオは席を立って


「それじゃ、呼び出してみるね」


五分もしただろうか、そのプレイヤーが姿を見せたのは。


「ナオ、何の用なの?」

「ラピス、とりあえず座って座って」

「……誰よこのプレイヤー」

「マオー」

「魔王?」

「そーよ」

「それで? この魔王が何か関係あるの?」


ナオはウンウン、と頷いて


「私たちであのクエストに挑もうかなって思って」

「……私たちのたちって誰よ。まさかとは思うけどあいつら?」

「そうそう、そいつら」

「無理でしょ。連携からは最も遠い9人じゃないの」

「でもあの2人なら」

「そうかもね。でも8人。私とナオなら何とかなっても他が無理よ。それにそんな足手まといを抱えているとね」

「足手まといって言い方は無いと思うなぁ」


ナオはため息を吐いて


「一回騙されたと思って強力して」

「……仕方ないわね」


*****


「……それで? 誰を勧誘するの?」

「まずは……そうね、アリアで良いんじゃない?」

「アリア……? あの二刀流の?」

「詳しいのね。でもあの子にあったら何もしないこと、敵対する理由を与えないようにね」


え、と魔王が驚いているのを眺めながらあの子がどこにいるのかを調べる。どうも今は『深緑の森』のボスをソロで狩り続けているみたいだ。確か巨大な鬼だったはずだ。一刀流の。


「迎えに行こうか」

「そうね」

「行くの……? アリアのことだから呼べば来そうだけど」

「この前負けていたからね、多分来てくれないと思うんだ。無茶なレベリングしているんじゃないの?」


負けた? 誰に、と聞こうとするが一人だけ心当たりがあった。


「《最強》に負けたのか?」

「正解」

「よく知っているのね」


呆れたようなラピスラズリの言葉に苦笑していると


「このエリア、来たことある?」

「……まだだな」

「それじゃ少し注意しておいてね。一応最前線だから」

「ま、私たちがいるから問題ないと思うけど」


2人が弓と銃をいつの間にか握っていた。一応俺も剣を抜く。


「何それ」

「短剣……にしては長いわね。片手剣よりは短いけど」

「この剣は片手剣だぞ?」

「そうなの?」

「アリアのよりはかなり短いけどね」


そのアリア、というプレイヤーに興味を持っていると金属同士が激突したような音が聞こえた。それに2人が頷いて


「急ぐわよ」

「そうね」

「あ、ああ」


2人はとても早く、追いつけなかった。2人が足を止め、それに追いついたら


「《スターダストストーム》!」


高速の連続切りが鬼の体を切り裂き、光となって消し飛ばしていた。そしてそれをなした洋紅色の髪の少女が俺たちを見て


「何の用」

「やっほ、アリアちゃん」

「ナオ……それにラピス? 一体どういう組み合わせなの」

「アリアちゃんを勧誘に来たの」

「……今忙しいから」

「ジャックも勧誘するよ」

「よし分かった」


一瞬で意見が翻った。それに驚いていると


「そこのは?」

「かくかくしかじか」

「説明する気が無いってのが分かったよ」


アリアはため息をついて二本の剣を背中の鞘に収めた。そして


「早く行くよ」

「はいはい」

「何でアリアが仕切るのよ……」

「何か文句でもあるの?」


怖い雰囲気の少女は俺たちを率いてどこかに歩き出した。しかし


「そっちにジャックはいないよ?」

「分かっているよそんなこと!」


恥ずかしいのか顔を赤くしながら方向転換をした。


*****


「ナオが言うなら良いけどよ……足手纏いがいるんなら難易度が跳ね上がるんじゃないか?」

「いざとなれば肉盾にできるし」

「相変わらずおっかないな」


鎌を握るジャック、彼が確か最強プレイヤーだったはずだ。するとナオは


「後の5人にはメッセージを送ったからそろそろ戻ろうか」


そして戻ったら


「何の用だ?」

「うん、みんなであのクエストに挑もうって思って」

「……」


二本の槍使い《humi》、兄弟の剣槍使い《you》《jin》、魔法剣士《taishi》、魔法使い《ryuu》がそこにいた。誰もがトッププレイヤーだ。


「このメンバーで、か。トッププレイヤーを集めれば突破できる程度の緩いクエストだったか?」

「ううん、そうは思わないよ。だから不確定要素を入れてみたの」

「……マオ、だったか?」

「俺を知っているのか?」

「中途半端な剣を使うのが印象的だったからな」


タイシの言葉に驚いていると


「それじゃ、まずは一回挑んでみようか?」


ナオの言葉に全員が頷いて……クエストを始めた。


*****


「ナオ!」

「分かっているよ!」


ナオの矢が《ケンタウロス》の群れに降り注ぐ。しかし


「ラピス!」

「五月蝿い!」


ラピスは両手の銃で一体ずつを撃ち抜きながら群れの中に飛び込む。そのまま安全圏を作り上げながら戦っているが


「貫通してくるだろうが!」

「っち、危ないな!」

「貫通じゃないとダメージが少ないのよ!」


なんと言うか……連携というよりは全力で他人を妨害していた。他も他で攻撃範囲に入り込んで口論になっている。


「マオ、危ない!」

「っつ!?」


《ケンタウロス》に轢かれそうになる。慌てて地面を転がって距離を取ろうとするが


「ぐ」

「薙ぎ払え、《ダークホール》!」

「馬鹿野郎!?」

「俺たちまで巻き込むつもりか!?」


闇の玉がその大きさを増していく。そこに《ケンタウロス》たちが吸い込まれていく。そしてまるで重力でも持っているかのように俺たちを吸い込む始めた。


「カーディかよ!?」

「星のって古いな!?」


懐かしいゲーム名に反応していると結局全員が闇の玉に吸い込まれ、全損した。


*****


「やっぱり作戦を立てたほうが良いと思うんだ」

「立ててもさっきみたいに終わるだろうよ」

「やっぱ無理なんだってば」

「兄さんの言うとおり無理だと思うよ」

「諦めようぜ」


一人を除いてそんな感じのことを言って去って行った。そして


「ごめんね、みんなの仲があんまり良くないのを忘れていたよ」

「気にしないで良い……が、作戦程度なら思いついたが?」

「え?」

「それで良いのなら出来るが……もうダメかもな」


俺とナオしかいない。それにため息を吐いて


「今度こそ突破できる、と言って説得してみるか?」

「それで聞いてくれるかなぁ……」


ナオは苦笑しながらメッセージを送った。そして


「お」

「ん?」

「意外、みんな負けず嫌いってのは知ってたけど乗ってきたよ」

「へぇ。ちなみにどんな文面なんだ?」

「負け犬諸君、もう一度チャレンジしよう、ってね」

「喧嘩売ってるレベルじゃないか」


とりあえず呼び出して作戦を説明するが


「それ、作戦か?」

「正気の沙汰じゃないだろ」

「作戦の意味ってなんだっけ」

「兄さん、言い過ぎだよ」


*****


「さてと」


剣を抜いて構える。そのまま


「前に出るのはアリアとジャック。リュウとナオ、ラピスの警護をフミ、ユウ、ジン、タイシの四人で」

「お前はどうするんだよ?」

「指示を出す」

「本気か?」


それには応えずに


「来るぞ、行け」

「あ、ああ」

「……」


頷いて駆け出すジャック、無言で突っ込むアリア。その二人の逝く手を阻もうとした100体の《ケンタウロス》が切り刻まれる。嵐のような剣戟で次々と消えていく《ケンタウロス》たち。そして


「射抜け、《スパイクアロー》!」

「穿て、《グラビティバレット》!」

「《バーストレイン》!」


降り注ぐ遠距離攻撃がアリアたちごと《ケンタウロス》を吹き飛ばそうとする。しかしアリアとジャックは恐るべき反射神経でそれを防いだ。そして程無くして《ケンタウロス》の群れはいなくなった。しかし


「次が来るぞ」

「次は……一体何が来るのかな」

「さぁな。だが安心するのはまだ早そうだ」


扉が出現した。そしてそれが開いて俺たちを迎え入れようとしている。


「マオ、任せるわ」

「……先頭にアリアとジャックが突っ込んでくれ」

「分かったよ」

「あいよ」


二人が入り、何も聞こえてこないのを確認して全員で突入する。するとそこにはとぐろを巻き、俺たちを見下ろしている蛇がいた。


「っ!?」

「大きいねぇ」

「銃弾じゃきつそうね……」

「っ!」

「っ!」


兄弟が剣と槍を手に駆け出した。そしてまるで一人のプレイヤーのように動く。


「炎を吐いて鱗と牙を飛ばす……か。既存の生き物なら無いだろうな」

「さて。毒も吐くって予想できるな」


頬が緩むのを抑えられない。彼らのようなトッププレイヤーが一同に揃って戦っているのは。


「だがまだだ、まだ安心するには早いな」

「マオ?」

「蛇という特性上……コブラのような威圧か? アナコンダのような丸呑みか?」


それとも


「ブラックマンダ、村一つを滅ぼしたこともある蛇か?」

「ブラックマンダ……? それって危険な蛇だよね」

「ああ。毒に注意しろ! 噛まれたら即死だと思え!」

「それはかなり危険ね……仕方ないか」


ナオはそう呟いて弓を新しく取り出した。今までの黒い弓とは違って純白の、見る者を圧倒する弓だ。


「ナオ?」

「ちょっと黙ってて……ん、見えた! 《九十九万里ツクモバンリ破魔矢ハマヤ》!」


放たれた矢は真っ直ぐに飛んだ。そして今まさに噛み付こうと開かれた口の中に飛び込んだ。そして


「貫通した!?」

「それだけじゃないよ。これで毒は解毒される」

「凄いな……だが」

「うん、分かっているよ」


蛇の両目からいきなり何かが噴き出した。そして蛇は悶え苦しんでいる。


「狙撃成功、ね」

「ラピスはそのまま口腔内とか柔らかそうな場所を狙撃してくれ。ナオは鱗を貫通できるなら射続けてくれ。兄弟は持ち場に戻れ!」

「出来なかったんだけど」

「肉体が変質するかもしれないからね。マオの言う通りにしたら?」

「兄さん空気呼んで」


2人が飛んできている鱗を打ち落としながら戻ってきた。


「ジャックとアリアの2人で支えられているようだな」


薙ぎ払われる尻尾、押し潰そうとする胴体、噛み付こうとする口を二人は軽々と避けて反撃を叩き込んでいる。しかし


「この程度なのか?」


たかだかこの程度で突破できるようなクエストなのか? そう思っていると蛇の体力が無くなった。そして


「ここまでは来た事があるけど……ここから先は未知数だよ」

「そうなのか?」

「うん……でもここが最後だって私は思うよ」


ナオはそう言うなり矢を番えて放った。それは出現した四速歩行の巨龍の鼻先に当たり、爆発した。その結果を確認して


「さっきみたいに硬いと思う。だからラピス!」

「分かっているわよ! アリアとジャックは様子見に徹しなさい!」

「嫌だ!」

「断る!」

「相変わらず似た者同士ねぇ……」


ナオの呟き、そしてナオがその場から急いで飛びずさった。直後、そこに巨龍の足が振り下ろされた。そしてその足を駆け上がる二つの影。アリアとジャックは自重せずに巨龍を攻撃し続けている。


「っ、防御しなさい!」

「え?」


ラピスの言葉に驚いた瞬間、巨龍の全身が輝いて……衝撃が走った。それは俺の体力をごっそりと持っていった。ギリギリで死なない程度に持っていった。


「マオ!?」

「回復させる! その間守れ!」

「分かったわ!」

「了解!」


俺を守ろうとしている二人に、そして回復させようとしている奴に苦笑する。


「俺に構わずさっさとやれ!」

「え」

「全員突撃だ! 攻撃パターンをアリアたちから共有しろ!」


叫んだ。するとアリアたちが一瞬顔を見合わせて


「分かったぜ!」


そして3分もしなかっただろう。


「結果論でお前がやったのは間違ってないんだがな……もう少し自分の身を大事にしろよ」


ジャックに説教された。


*****


出した作戦は二つ。俺と遠距離攻撃部隊を守れ。そして何も気にせずに攻めろ。

どうせ邪魔をし合うんならライバル視しているアリアとジャックが良い。邪魔な2人以外は引っ込んでいろ。そんな粗雑な作戦だった。


*****


「ま、クリアできたから良いか」

「だね」

「でしょ」


10人でギルド内で小さな宴会じみたことをしていると


「もういっそここの10人でギルド作ろうよ」

「「「「「はぁ?」」」」」


ナオの唐突とも言える提案に驚いていると


「良いけどギルマスは?」

「私」

「却下」


ナオの言葉にラピスが突っ込んだ、そう思っていると


「なら俺」

「いや、僕」


なんだか言い争いになってきている。すると


「もう収拾がつかないからじゃんけんで決めよう」

「え?」

「じゃんけんで負けた一人がギルマスで良いでしょ」


ギルマスの座に興味の無いラピスの提案にみんなが思案して


「ま、良いか」


そんな感じでじゃんけんをすることになった。その結果


「よし、一抜けだな」

「ちっ」

「もう一人勝ちだから魔王で良いんじゃない?」

「ああ、それが良いよ」

「そうだね」

「おい待てお前ら」


思わず突っ込んでしまった。しかし9人は俺の言葉を取り合わなかった。そして


「ギルマスが魔王なら俺たちもそれに因んだ方が良くないか?」

「そうねぇ」

「んー、だったら私は……リアルネームもじってマモンで」


そんな感じで全員がノリと勢いだけで名前を決めて行って……俺の意見はいつまでも聞かれなかった。そして


「んじゃ《魔王の庇護下》で」

「ださくね? 《魔王の仲間たち》で良くね」

「兄さん、それはない」

「「「ないわー」」」


そんなこんなのノリでじゃんけんやサイコロ、果てにはババ抜きで決めようと言う話になり


「《魔王の傘下》で決定ね」


そういう事になり、《魔王の傘下》というギルドが出来上がった。

ぬぼぁ!


いつか過去を語るシーンを書こうとして中々機会が無かったのでこんな感じで出しました


特別編でも出番の無いアスモブブルシセブンスドラゴニックライオネルソードェ……

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