影に潜んでいた者たち
「エミリアはお姉ちゃんとどういう関係なの?」
「友だちで義姉よ」
「ぎし?」
「義理の姉よ。そういう意味だとエミちゃんからもそうなるけどね」
「えっと?」
よく分からない。とりあえずマモンさんの作った豚カツを食べる。美味しい。美味しかったから分からなくても良くなった。
*****
「それじゃよろしくお願いします!」
「うん、こちらこそ。でも本当に良いの? レベリングの方が良いんじゃない?」
「ううん、こっちが良いんです」
エミはそう言って剣と扇を構えた。その姿はアリアに近いものがある。もっともアリアは構えなんて必要ないけど。
「それじゃ、付き合わせてもらうわね」
「はい!」
エミが地面を蹴り、接近してきた。レベル差は4500を越えている。確かようやく120を越えたと聞いた。つまり手加減をしたとしても手が掠った程度で死なせてしまうだろう。つまり
(刀を抜くのはダメなのにね……)
プレイヤースキルを高めたいというエミの言葉に嘆息する。仕方が無いのでアリアに作ってもらった最弱の刀、《永遠の1》を抜く。攻撃力、与えるダメージ共に1の刀だ。しかしスキルを含めるとダメージは馬鹿にならない。
「エミちゃん、私が攻めたらあなたはおそらくあっさりと全損してしまう。だから私に攻めてきて」
「分かりました!」
刀で頭への剣を逸らす。そのまま反対側の手に握られた扇を刀の柄で受け止めて一歩下がる。そのまま隙があるので攻めたくなる。しかしダメだ。
「やっ!」
「おっとっと」
避ける、受けるに専念しないといけない。そう思っていると突きが顔をめがけて伸びてきた。それを真下から切り上げることで逸らして……直後に振られた扇を腰の鞘で受け止める。そのまま剣を避けて
「中々惜しかった」
「惜しい?」
「アリアを目指さなければ良い。アレは目指して良い者じゃない」
「……?」
エミの戸惑いにエミリアは頷いて
「アリアは頂点であろうとし、それが成功した者。彼女を越えた瞬間、あなたが越えられる対象となる。それはアリアだけにじゃない。もっと多くの人に狙われる」
「……お姉ちゃんはそれを?」
「アリアはその全てを振り払える。あなたにそれが出来る?」
*****
エミリアの刀技は圧倒的なものだった。全ての攻勢を受けられ、エミは悟った。お姉ちゃんの高みに近い者だ、と。だから
「っ!」
「ん」
エミリアの居合いをお姉ちゃんは跳び越える。一瞬を超える刹那を見極め、刀の腹を剣の柄で突き、体を浮かしたのだ。さらにそこから体を空中で回転させての斬撃。エミリアは苦も無くそれを避けた。
(……)
エミリアは分かっている。アリアは手加減をしている、と。だからこそ負けられないし、負けたくない。ならばこそ攻める。
「《居合い・雷斬り》!」
瞬間的納刀と同時にスキルを発動する。一瞬のタイムラグをも発生させないそれはアリアの剣に受けられた。
現在のアリアは本来の戦い方を放棄した《片手長剣》のみ。防御に優れた《二刀流》に劣るその放棄すら突き崩せない!
「アリア、本気出してよ」
「やーだよ。僕は全力を尽くすかどうかは自分で決めるもん」
「あっそ」
エミリアの高速の突きがアリアの剣に逸らされる。手首を返し、アリアの首を薙ごうとするが
「どーん!」
「っ、危ないわね」
「えへへ」
蹴りに刀が折られそうになった。今の脚の光り方は体術スキルの《蹴撃破》、名前の通り破壊しようとする蹴りだ。当たれば耐久を一気に削る上に一定確率で武具を破壊する。確率はレベルと熟練度、スキルレベルに左右される。
「アリアの場合なら確殺でしょうね」
「そうだよ。避けられなければね」
「ほんっと、ムカつくわね」
アリアは笑みを深める。それにため息を吐いて刀を、《月天裂刃炎天恋々》を構える。不幸か幸いかアリアによってその名前を変えられないようにされた。ちなみにそのネーミングセンスは中二病と言うことで片付けられた。ちなみに名前に意味など無い。アリアだから。
「アリア、構えなさい」
「んー? そう、だね」
アリアは真剣な表情になり、剣を抜いた。計二十五本だった剣はすでに数を倍以上にしている。それら全てをアリアは構える。
「『剣陣』、突破できるかな?」
「突破してみせる」
エミのためにも、アリアに手が届くという可能性を見せないといけないから。
「っ!」
低い姿勢で駆ける。そのまま抜かれた剣が降り注ぎ、地面に幾何学な方陣へと化したそこに足を踏み入れた。瞬間、高速で何かが動いて背後に回り込んだ。そして剣を掴んでエミリアの背中へ斬りつけた。しかし
「わぉ」
「ふん!」
逆手に持った刀でアリアを貫こうとする。しかしアリアは恐るべき瞬発力でそれを避けた。そして剣を投擲し、地面を蹴った。高速でエミリアを追い越して違う剣を掴む。減速と同時に剣を抜いてエミリアへ斬りつけた。そして斬り結ばずに手放し、新しい剣を抜いた。
「お姉ちゃん……」
「エミ、よく見ていなさい。これが《最強》よ。何者も越えるに能わない絶対無敵の無窮の壁。あなたが越えるべき壁」
「エミリア?」
「私には越えられない壁。でも諦めはしない」
刀を振り、剣と打ち合う。衝撃で体の軸がずれる。その隙をアリアは見逃さない。剣が脇腹を掠るのを眺めながら蹴りつける。しかしアリアは蹴りを足場に跳び上がった。そして飛んだ。胴装備と靴装備の効果だろう。
「空を……飛んでる」
「フライ」
アリアの作り上げた装備、《アンチグラビトンシューズ》で地面を蹴り、飛ぶ。そのまま勢いを乗せて突いた。しかしアリアはこの程度じゃ崩れない。軽々と刀の背に手を合わせてエミリアの手首を掴んだ。そしてエミリアが何かをする前に地面へと投げた。そこでエミリアが笑みを浮かべているのに気づいた。まるで罠にかけた、とでも言いたいかのように。
「《居合い・神薙ぎ》!」
落下しながらのスキルは勝手に体を動かす。掴んでいるアリアの手を巻き込んだ居合い斬りはアリアを掠めた。そしてアリアの表情は変化した。今までの様々な感情たっぷりの表情が一辺倒になった。満面の笑みになった。
「良いね」
「どーも」
アリアはバク転バク宙をして剣を構えた。そのまま斬りかかってきた。打ち合いをする、そう思った瞬間背後から斬りつけられた。前方から斬られた。真下から蹴られた。左から殴られた。右から刺された。どれにも反応できない。あまりの速さに私の目は追いつかない。そしてーー
私は全損した。装備は後に返してもらった。
*****
その日、アリアはカーマインブラックスミスで武器を創っていた。妹といずれ敵対する、それは別にどうでも良い。姉とも戦ったからアリアには楽しみという感情だけがあった。だが
「私はそれは間違っていると思うわよ」
「レヴィ?」
「情けをかける、それがあの子のためになると思ったら大間違いよ」
「……」
レヴィが嘆息した瞬間、アリアはメールが届いたと知った。それを開いた瞬間、アリアの表情から感情という感情が全て消失した。それをレヴィが訝しんだ。
「アリア?」
問いかけるが返事はない。アリアが眺めているメールはそれほど衝撃的だったのだから。
『シリアルキラーズって知ってる?』
懐かしい名前登場
でもどんなのがいたか忘れた
誰か教えて
とりあえず次回は懐かしいあの男が登場、誰が望んでいるか分からないけど
誕生日って言っても嬉しいかどうかは年齢によって変わるよね
エロゲできる年齢だし酒とたばこはダメな年齢19って微妙過ぎる
もう少しで200話と思うと感慨深い




