爆ぜろツゲオ
「女性に手を上げるのはどうかと思うよ」
「んだよてめえ……英雄願望でもあんのかよ」
「まさか。だが見過ごせないだけだ」
ツゲオくんが大柄な男の人の前に立ち塞がっている。その背中が守っているのは見知らぬ……ううん、知っている顔だ。そう思った瞬間、男はツゲオくんに向かって拳を振り上げた。殴る気だ。しかし
「わぉ」
「っな!?」
「……」
ツゲオくんはその拳を軽々と受け止めている。さらに続けての蹴りを避けて
「暴力はあんまり勧められないよ」
「五月蠅い!」
その後、警備員が来るまでツゲオくんは全てを防ぎ、避けきった。そして男が連行されたのを確認して
「大丈夫ですか?」
物語の英雄のように語りかけた。そしてその言葉の答えはキスだった。それに周りは絶句し、ツゲオくんの脳内はショートしたのか動きが固まっていた。
*****
「シェリル!」
「ツゲオくん!」
抱き合う。そのまま耳元に口を寄せて
「どういうこと? 何があったの?」
「分からないよ。助けただけなんだけど……どうもキス魔なのかビッ……淫乱なのか分からないよ」
「アリアちゃんには黙っておいてあげる」
「ありがとう」
そのまま一歩下がって
「人の彼にキスしないでくれます?」
「あなたの彼? 恋人って雰囲気には見えないのだけど?」
「あなたにはそうかもね。でも私たちは愛し合っているのよ」
嘘だ。アリアちゃんがいないツゲオくんが言い寄られないように、という周りへの演技だ。だから腕と腕を絡めて
「次やったら全力でぼこしますから」
直美のしごきのおかげで瓦三枚までなら割れる。そこまでする気は無いけど。せいぜい痕が残らない痛めつけ方をするだけだから。
「でも彼女さんがいたとしても引く理由にはなりませんよ?」
「っ、引きなさい!」
「嫌ですよ」
彼女の手がツゲオくんに伸ばされる。その手を取って関節を極める。そのまま床に倒して
「折られたくなかったら立ち去りなさい」
「……脅し、ですか。自分にそこまで自信がありま
ポキッ
「あ」
「痛い……けど折れてはいませんね」
「なら良し」
*****
「あのさ、ツゲオ」
「うん」
「何そのキスマーク!? 女なの!? それとも男!?」
動揺しているのか支離滅裂なアリア、それにツゲオは苦笑して
「唇にキスはされてないよ」
「や、そこじゃないから。なんでキスマークがついているのさ」
「……うん」
「うんじゃなーい!」
アリアは叫んでテーブルをひっくり返そうとするが思いの外重く、涙目になってやめた。ちなみにひっくり返そうとする前に乗っているものはアリアが移動させていた。
「……なんでさー」
「なんでって僕に言われてもね……」
「ラブってるんじゃなかったの?」
「ラブってるよ」
「ならなんでー?」
「避けられなかった、からかな」
「避けなかったじゃなくて?」
「うん」
アリアはツゲオの目を正面から見つめて
「信じよう」
「ありがとう」
ツゲオの肩に手を置いてアリアは頷いた。それにツゲオは安堵する。しかし
「もしもそっちが好きになったなら言ってよね」
「え?」
アリアは聞こえているはずなのに答えなかった。そして何故かツゲオに背中を向けた。そのまま
「そのときは……僕が離れるから」
そう言ってツゲオの部屋から出ようとした。しかし何故かその扉は開かなかった。まるで外側から押さえられているかのように。
「亜美? 開けてよ」
「……」
扉の向こうにいるであろう彼女は何も言わない。そしてアリアは抱きしめられた。何が起きたか分からない、アリアの目は白黒としていた。
ツゲオは目を閉じてアリアを無言で抱きしめていた。アリアも目を閉じていた。しかしそのままアリアは振り向いてツゲオの肩に顎を乗せた。この瞬間、作者はツゲオ爆ぜろ、と願った。
「……」
「僕が好きなのはツゲオだけだよ」
「僕もだよ」
「……そう、かな。本当に?」
「うん、当然だよ」
アリアは目を閉じたまま笑顔になった。そして
「今度、デートしない?」
「そうだね。どこ行く?」
「んー、バスターミナルとか?」
「博多ね。そうだね」
アリアとツゲオは抱き合って自然とキスした。何故か二人ともいまだに目を閉じていたが。
*****
「で? 先輩は何で私の恋人との甘い時間を邪魔しに来たんですか?」
「何故そんな剣呑なの……とりあえず江利くんを貸してくれないかしら?」
「屋上から落として良いですか?」
シェリルの言葉に女は顔を引き攣らせた。しかしそれをシェリルは無視して蹴りを放った。だが女も然る者ながらその蹴りを避け、カウンターのように拳を放った。だがシェリルはそれを逸らして顔面へ回し蹴りをたたき込もうとしたが
「落ち着きなよ」
「ごめん、ツゲオくん。その女を適度に痛めつけるまで待ってて」
「江利くん、その女を痛めつけないとダメなので待ってください」
左右からの攻撃を受け止めたツゲオはため息を吐いた。そして
「仕方が無い……目を潰れるのもここまでだよ」
ツゲオは二人の動きを止めたまま器用に時計型デバイスを起動して
「もしもし、風紀委員ですか?」
「「ちっ」」
舌打ちが聞こえ、二人の目から戦意が消えた。しかしどちらも相手への嫌悪感を消していない。
「次は仕留める」
「こっちの台詞ですよ」
「一般高校生の言葉じゃないよね……とりあえず喧嘩はしないでくれると僕は嬉しいな。それに」
僕は一応言っておいて、とアリアに言われたので
「僕にはもう婚約者がいるんだ。だから君なんて相手にしている時間は無い」
「……婚約者? そこの子は……あぁ、愛人?」
「違う」
「でも婚約者って雰囲気じゃない……代理、いや護衛?」
「さぁね」
今にでも蹴りを放ちそうなシェリルにため息を吐いて
「シェリルも。これ以上するって言うのなら僕は止めるよ。そっちのも」
出来るだけ距離を置いた呼び方をする。まぁ、先輩呼びから変わる程度だが。
*****
「えー? ツゲオくんと本当に婚約していたの?」
「うん、そうだよ。シェリ姉は知らなかったの?」
「知らなかったわよ」
あはは、と笑う妹のおでこを指で弾いてため息を吐く。
「中学生から婚約なんて……」
「シェリ姉には好きな人はいないの?」
「いるはずないでしょ。その辺りは言ったはずよ」
「ま、ねー」
シェリルは人が好きという気持ちが分からない。だから妹のアリアとツゲオくんが交際している、恋人関係なのも分からない。だから今までに彼氏がいたこともないし好きだと思ったこともない。
「アリアちゃんは進路とか決めた?」
「ん……まだ、何も考えてないよ」
「そっか。私は大学までは行って欲しいな」
「でも今じゃ資格とかの方が重要視されているじゃん」
「そうだね」
妹の髪をわしゃわしゃ、とシャンプーの泡で包み隠した。そのまま流したりリンス使ったりしていると
「あ」
「どうしたの?」
「達也からメール……ふぇ?」
「どうしたの、そんな萌えキャラみたいな声出して」
「……達也から勧誘、なのかな」
そう言って妹が見せてくれたメールには会社への就職をしてくれないか、と言うお願いのような物だった。
爆ぜろツゲオ爆ぜろツゲオ爆ぜろツゲオ爆ぜろツゲオ
娘が婚約していると思うとツゲオ爆ぜろとしか言えなくなりました
タイトルにまで入ってくる程度には




