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止めるしか無い

「……ツゲオ?」

「アリア」


痛む顔を押さえながらツゲオは顔を上げた。そのままカーマインの髪の少女に視点を合わせて……微笑んだ。そしてゆっくりと足を進めて


「気分はどう? 乱暴にされてない?」

「うん、大丈夫だよ……でも何でツゲオがいるの?」

「アリアに会いに来たんだよ」


ツゲオはアリアの頭に手を伸ばした。そしてそのまま抱きしめた。


「ツゲオ……」

「アリア」

「……いきなり何なのさ。もの凄く恥ずかしいよ」

「そっか」


アリアはツゲオの胸にぽすぽす、と拳を打ち込んで頬を赤くした。そのまま頭で胸を叩いて


「……」

「……」


二人でそのままの姿勢で抱きしめられていた。しかし


「……ツゲオ、何かあったの?」

「アリアこそ」


アリアはツゲオには何も言っていなかった。自分がどんな環境にいるのかを。先生からも生徒からも頼られる、そんな姉が生徒会長を務めていた。彼女を知る生徒と彼女を知る教師はアリアの評価は低い。優秀すぎる姉を持ったが故に。

実はアリアは大して悪くはないのだが比較対象が悪いのだ。


「……」

「アリア、何があったのか僕は知らない。だけどアリアが話したいのなら聞くしアリアが泣きたいなら慰める。アリアがとても悲しいのなら僕も悲しむよ」

「……なんだか言っていることおかしくない?」

「かもね。でも受け止めてあげることはできる」


大して慰めに聞こえないそれにアリアは目を閉じた。そして拳を振りかぶって


「っ!」

「……」


ツゲオの胸を叩いた。ツゲオは微笑んだままアリアの頭を撫でた。アリアは何度も拳を振り下ろした。ツゲオは何も言わない。


「……僕だって……頑張っているのに……!」

「知っているよ」

「勝手に比べて何も知らないくせに!」

「そうだね」

「何が期待外れだ……! 頑張ってるのに……!」


そのままアリアは泣き続けた。泣き疲れて眠るまでに。


*****


「うわ、鼻水と涙でぐちょぐちょじゃないの」

「仕方ないよ……それよりベッドを借りて良かったの?」

「もちろん。アリアちゃんになら良いのよ」


僕の服をあっさりと取って直美が洗濯機を動かし始めた。それに礼を言って


「どう? アリアちゃんは」

「寝ているよ」

「知ってるよ。それ以外」

「……アリア、何も言わなかったんだね。心配させたくなかったのかな」

「んー、たぶんちょっと違うかな」

「どう違うの?」

「きっと立派になって……釣り合いたいんじゃない?」


絶句した。そんなツゲオを見て直美は躊躇う。後悔もあった。アリアの気持ちが分かっていたとしても言って良いかの判断を間違えたかもしれない、と。


「……ツゲオ、アリアちゃんは好き?」

「うん」

「だったら……お願い。目覚めた時、側にいてあげて」


*****


アリアの苦労に気づいていたのは生徒会メンバーくらいなものだった。しかし誰もそれをどうにもしてあげられなかった。できたのは彼だけだった。


「……ツゲオ」

「どうしたの?」

「ラブー」


ひょーい、と飛びかかって来た小柄な体を抱き留めて


「どうしたの?」

「んにゃなんでも」

「変なの」

「えへへ」


アリアの頭を撫でながら考える。アリアはこんな子だった、と。今まで自分の苦労を口にしなかった理由、それは直美の言う通りだとしても……らしくない。立場だけじゃない、心境に変化があったのだろう。


「ごめんね」

「んー?」


猫のように甘えてくるアリア、今は僕の胡座の上で丸くなっている。その背中に手を置きながら


「一人にさせて」

「……大丈夫だって言いたかったなぁ」

「……」

「心配させたくなかったなぁ……」


悲しそうな口振りは僕の心を打つ。残れれば、そうも思えた。しかし


「ツゲオが高三にならないと私は入学できないもんなー。遠いなー」

「待とうか?」

「ダメー」

「そっか」

「ツゲオの後輩だから良いんだもん」


んにゃー、と鳴くアリア。猫だ。


「ねー、ツゲオ」

「なに?」

「結婚って何歳からできるの?」

「さぁ?」

「それには私が答えるわ!」


ドアがいきなり開いて直美が仁王立ち。それに二人して絶句していると


「男は18、女は16からよ。もっとも未成年なら親の同意も必要だけどね」

「ふーん。なら直美は結婚できるんだね」


アリアのなんのことはない呟きが直美に大ダメージを与えた。胸を押さえ、息を荒くしている直美から目を逸らしていると


「つまりアリアちゃんが入学して誕生日を迎えたら結婚できるのよ」

「ツゲオはいつが誕生日なの?」

「六月だよ」

「近いじゃん⁉︎」


今は五月一日。ゴールデンウイーク目前だ。


「流沙も積極性を持ってくれれば……」


その呟きは聞かなかったことにした。


*****


「アリア、何か良いことあったの?」

「んー? まぁねー」

「おめでとさん。それじゃ仕事してね」

「きりの意地悪」

「巻き込んだのはアリアでしょ」


アリアの言葉にきりは深くため息を吐き


(元通りっぽいね)


江利先輩に感謝しつつ、アリアの頬っぺたを引っ張った。


「むぃーん」

「地味に痛い」

「そうなんだ」


驚きながら頬っぺたを弄んだ。アリアがむがーっ! と、言って手を振り払うまで。


「才人にゃん才人にゃん、仕事終わった?」

「にゃん……まだ。きりは?」

「終わったよーだ。朝日にょるは?」

「もう少し。アリアは終わったの?」

「えっへん」


まじか、と才人が呟き、朝日が驚く。しかしアリアは自慢気に薄い胸を張って


「私だって成長しないわけじゃないのよ」

「「「……」」」


三人が一箇所を見つめ、顔を見合わせて頷き


「そうだな、アリアも成長するよな」

「まったくもってその通り!」

「さっすがアリア!」


三人はアリアの扱い方をよく心得ていた。


*****


「ツゲオくん、バイトするの?」

「そんなところ……でシェリルはどこに行く気なの?」

「中洲川端よ」


あの辺りは……控えめに言って夜が盛んな街だ。十八歳未満立ち入り禁止な店もある。ついでに三十歳童貞以外立ち入り禁止の魔法研究会という店もある。何なのあの店、逆に気になる。


「ツゲオくんは?」

「中洲川端」

「まさか……江利くん、エッチいお店に行くの?」

「まさか」


距離感ある呼び方に苦笑しながら地下鉄を降りる。そのまま歩いて商店街を通っていると


「あ、これとかアリアちゃん好きそうじゃない?」

「ん? 綺麗だね」

「でしょでしょ」

「でもアリアならこっちの青っぽい色が良いんじゃない?」

「あ、かもね」


二人でそうやって店先を眺めていると


「デートかい?」


気の良さそうなおばちゃんに話しかけられた。


「いえ、私たちは友達ですよ」

「そうですよ」

「そうかい?」


おばちゃんと別れてキャナルシティまで向かって、中を色々歩いて見回っていると


「喧嘩、かな」

「そうみたいね」


このビッチが、なんて声が聞こえてきた。世界が進歩したとしても人間が進歩できるわけじゃない、そう思いながら近づいていく。


「止めるの?」

「うん」


騒ぎの中心に向かっていくと一人のどこかで見覚えのある女の人とそれを殴りつけたと思しき男が立っていた。そして拳を振り上げたから


「そこまでにすると良い」


止めるしか無いな、そう思った。

総合評価が七百越えたよ

驚きのあまり大学でもぴょ、と呟きました何語だよ


次回、ツゲオに新たな出会いが!

アリアと別れてしまえこの野郎

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