二人きり
「アーニャと二人きりだね」
「そうっすね」
エミの言葉にアーニャは動揺を隠せない。ログインした瞬間目の前にいたのだから。しかも他の四人はいない。実はコミュニケーションを上手く取れない系女子のアーニャは困っていた。
ついでに言えばまともに会話が成り立たないエミというプレイヤーについては珍妙な生物としか認識できないと思っていた。しかし正面から言葉を交わせる、それにかなり驚いていた。
「アーニャは今日、どうする?」
「どうって言われても……何も考えてないっすよ」
「そっか、私も一緒」
それでどうして笑えるんだ、アーニャは完全に理解を諦めた。
*****
「アーニャ! 前のお願い!」
「後ろの全て相手にするんすか!?」
「うん!」
「無理っすよ!?」
二人で洞窟系ダンジョンに入り、運悪く大量のモンスターに見つかった。だからそれから逃げているとあら不思議、前からもモンスターが来ちゃったよ。
「死んだら文句言うっすからね!」
「大丈夫、まだ私のレベル50もないから」
「私100近いんすけど!?」
「あはは」
「笑い事じゃないっすよ! 先死んだらキチンと回収してくださいっすよ⁉︎」
投げた苦無と手裏剣は手元に戻ってくる。どんな原理か分からない。ちなみにこれはエミの投擲スキルでも同じ現象が起きている。
「前方の《ゴブリンダブルソードマン》と《ゴブリンハイシャーマン》」
「後門の《ゴブリン突撃部隊》」
「攻撃したら守備に回りそうっすねぇ⁉︎」
エミはそれに応えずに突貫を図った。剣を扇で受け止め、空いた腹部を剣で斬りつけた。そのまま光となって消えるのを無視して次のに攻撃を仕掛ける。その姿はアリアを彷彿させるものであったが
「っ、《影縫い》!」
余裕が無いのでアーニャは気付けなかった。そしてーー
「……終わりっすか」
「終わったねー」
「終わるもんなんすね……」
二人で同時に安堵の息を吐く。そのままため息を吐いて
「とりあえずもう帰ろうか」
「そうっすね……帰るっすよ」
そして二人でなんとか街に帰って……そこでモンスターを連れているプレイヤーがいた。それを見てエミは頷いた。そしてさっぱり分かっていないアーニャの腰を指で突いて
「モンスターをテイムしようよ!」
*****
『にゃ?』
「にゃにゃ」
『んにゃにゃ』
「んなー」
猫語で会話している妹を遠目に眺めているアリアは大きなため息を吐いた。そして
「マモン」
「んー、もう止めた方が良いと思うけどなー」
「そう?」
「エミちゃんもそろそろアリアちゃんに頼りたくないでしょ。アリアちゃんだってシェリちゃんに頼りたくはないでしょ」
「あー、うん。なるほどね……でも心配なんだよね」
「シェリちゃんも同じ気持ちだと思うけど」
そっかー、とアリアは目を細くして
「あのアーニャってプレイヤーに変な噂はない?」
「無いわよ。あるとすればシアってプレイヤーの方」
「んー?」
「あのプレイヤー、ストーカーに狙われているんだってさ」
「へぇ」
アリアは頬を歪めた。そしてひよちゃんに飛び乗って高い位置から街を見下ろした。
「……どうもログインしていないみたいね。でも……いるわよ」
「え?」
「あそこの物陰のプレイヤー、分かる?」
「……うん」
「どうやら昨日のログアウト位置からログインするってのを知っているから見張っているみたいね」
「……なるほどね。でも僕みたいに家を買っているかもよ」
「アリアちゃん、普通は家を買わないからね。お店でも開かない限り」
そうなの、と思っているとマモンは微笑んで
「休むのならリアル、でなくても宿屋で十分だし」
「そうなのかな。倉庫とか必要じゃないの?」
「倉庫は倉庫であるのよ。でもカーマインブラックスミスにはみんな倉庫があるしね」
「そうだね……あ」
「うん、動いたね」
男が動いた。そう思った瞬間、シアがログインしたようだ。そして辺りを見回してーー大きなため息を吐いた。しかし
「シア-!」
『んにゃー!』
「え、エミ……と猫さん?」
「にゃー!」
『にゃー!』
妹がすいません、アリアの脳内はそれに満たされた。しかしマモンは微笑ましくそれを眺めていて……目を閉じた。そして
「まずいわよ」
「え?」
「動いたわ、本格的に」
ストーカーがシアの背後に近づいている。しかしそれに誰も気づいていない。遠くから見ている二人を覗いて、誰も気づいていない。
「やっちゃえ、マモン」
「うん、言われずとも」
マモンの矢がダメージを与えない。しかし衝撃と派手なエフェクトが周りの目を集める。ストーカーに気づいたシアが叫んだ。それにエミが駆け出し、剣と扇で攻撃し始めた。
「あれで良かったの?」
「うん、あれで良かったの」
「めっさリンチされているけど?」
「女の敵だからね、精神的にもずたぼろにしないと」
「アリアちゃん闇堕ちしてない?」
してないよ、と言いながら双眼鏡を目から離して
「そろそろ帰るよ」
「はーい」
過保護な姉二人は帰っていった。その後、三人は誰の攻撃がと五分ぐらい議論していたのを姉二人は知らない。自称姉もリアル姉も知らないのだ!
*****
「けっ」
真白は地面に落ちていた空き缶をゴミ箱に勢いよくたたき込んで呆れた。友人二人が部活や生徒会に所属してしまったため、やることがないのだ。
「いらっしゃいませー。あ、エミの友達だね」
「ちぃっす。なんかお勧めお願いします」
「んー、ローラースケートプリン?」
「なんすかそれ」
「チョコバナナパフェ」
なんなんだよ、真白はそう思いながらそれを注文した。そのまま時計型デバイスでソーニョについて色々調べていると
「アリアの戦う動画……?」
たくさんあったそれに驚きつつも再生してみると
「それはエカテリーナとの試合だね」
「エカテリーナ?」
「アリアちゃんのライバルにして親友よ。ロシア人ね」
「はぁ……」
そうなんだ、と思いながら再生していると
「……何なんですかこれ」
「アリアちゃんたちの天辺争いよ」
「こんなのが……出来るんですか?」
「うん、できるよ。私たちも、エミちゃんたちも。もちろん真白ちゃんもね」
「私にも……?」
「うん」
アリアに届く、そう思っていると
「勝ちたいですね」
「そう? だったらレベリング手伝おうか?」
「良いんですか?」
「うん、初心者育成も私の仕事だからね」
*****
「ってことでしばらくよろしくね」
「よろしくお願いします」
何故か私、ピュアホワイトはマモンさん、レヴィさん、シンさん、エミリアさん、アリアさんと共にダンジョンに行くことになっていた。そして
「ここのダンジョンには何がいるんですか?」
「えっとね、レアアイテムをドロップする《スネークドラゴンエンペラー》がいるんだ」
「蛇の龍の皇帝?」
疑問を口にしていると先頭を歩くアリアさんとレヴィさんの手が動いた。そして私に経験値とアイテムが。今のでモンスターを倒したの……!?
「今の、見えた?」
「い、いえ……」
「見えなくて当然よ。あれに勝てる方が異常なのよ」
呆れているような口調のエミリアさんに同意するほか無かった。そう思っていると洞窟の奥で二つの赤い光が灯ったように見えた。
二人きりだからっていちゃつく系じゃないのもあるのだよ
次回、初心者を振り回すトッププレイヤーたちが!




