悲哀の騎士
「ほーう、なかなか過激だね」
「ちょっと、人が読んでいる本を覗かないでよ」
「教室でエロ本読む方がおかしいと思うんだけど」
エミの正論にむっとする真白。エミはそのまま本の中を眺めている。世に言うポルノ雑誌だ。ちなみに教室内の視線を集めていることに真白は気づいていなかった。
「そんなの、よく見つけたね」
「私もそう思う……エミ興味深々過ぎ」
「えへへ」
「褒めてないから」
初心な姉二人と違ってエミはそういったのに興味深々、さらに赤面もしない。まぁ、初心な姉二人も興味はあるのだが。
「真白は今日はどうするの?」
「普通にログインすると思うけど」
「私も」
「ふーん……」
二人が同時に思い浮かべたのはエミの姉だろう。あのカーマインの旋風は誰にも止められない。それこそ風のように。
「アレに勝ちたいの?」
「うん、勝つの」
「ふーん……無理じゃね?」
「かもね。でも私は諦めないよ」
*****
「ってことで装備も新調したのでレベリングに行こう!」
「あ、そう言えばクッキー上げたの?」
「一緒に食べたよ」
それで良いのか、アヤはそう呟く。それにアスカは苦笑して
「レベリングは良いのですがどこに行きますか? まだ私たちのレベルは100にも満たないんですよ」
「えっとね、マモンが言うには装備のおかげで千レベ程度だって」
「随分とブーストされたね」
そして移動しながら戦っているんだけど
「レベル、中々上がらないね」
「え?」
「経験値使ってる?」
「あ」
エミの言葉にアスカが問うと動きが止まった。そして動き出したと思えばメニューを開いてーー
「ふぅ」
「忘れてたでしょ」
「え、えへへ……」
「初心者あるあるだな」
実際にプレイを始めてまだ一週間も経っていない。だからあながち間違っていない。しかし
「エミ」
「うん!」
群れで現れた二刀流のゴブリンをエミが剣で、扇でばったばったと薙ぎ払う。その一連の動きは舞のようだった。
「討ち漏らし多いよ」
「ごめーん」
「良いけどさ」
槍が二本の剣の隙間からゴブリンを突く。アヤの剣が剣の防御を崩し、振り下ろした。アスカの魔法がゴブリンを薙ぐ。
「うん、やっぱ私ら強くなってんな」
「アヤ、装備のおかげよ」
「分かってるけどよ……良いじゃん」
アスカの言葉にアヤは苦笑しながら頭を掻く。空いた片手に握っている真紅の剣が太陽の光を浴びて燦爛と輝いている。
《破軍》という北斗七星の一つに名を連ねる剣だ。切り裂けない物は無い……わけじゃ無い、それが制作者の言葉だった。だがアリアはその剣を見てこうも言った。『逆境なら戦える剣だ』、と。その意味は単純明快、レベルで負けていればその分強くなる。ちなみにレベルで勝っていたら本来のステータスだけだ。
「北斗七星、よく知っているよな」
「お姉ちゃんは……変だから」
「違いない」
エミの言葉にアヤは笑う。その様子を見てアスカとピュアホワイトは乾いた笑みを浮かべている。そしてーー
「そろそろお別れ、かな」
「ん?」
「なんで?」
「なんの話ですか?」
「そろそろ私たち四人は分かれるんじゃ無いかなって思って」
エミの言葉に最初に反応したのは意外なことにアヤだった。アヤは笑ってエミの髪をぐしゃぐしゃになで回した。
「今分かれたら絶対感覚狂うって」
「でもさ、お姉ちゃんはソロプレイヤーなんだもん」
「ふむ……お前、アリアの足跡を追いかけるだけなのか?」
「え?」
「アリアはソロプレイヤーで高見まで辿り着いた。だったらエミは違う方法で追いつけば良いんだよ」
「……アヤ」
ってことでエミはあっさりと言葉を撤回した。その後、めちゃくちゃ叱られた。ピュアホワイトとアスカ、そして呼び出されたシェリルに。
*****
「どるぁぁっ!」
「なんだそのかけ声」
「気合いが入るから良いじゃ無い」
「謎だから気になるんだよ……」
「良いじゃ無い、魔王。エミの好きにさせてあげようよ」
夫婦っぽい会話をしている二人をみてアヤとピュアホワイトが呆れている。そしてエミが扇で剣を防いで剣で斬りつけている。さらに続けて扇での殴打。
「でさ、あれってボスじゃないの?」
「ああ、一応そうだな」
「強いのかしら?」
「……俺基準だとな……」
カンストの言葉など当てにならん、そう言外に魔王が告げると
「ではあなただとどれくらいかかりますか?」
「ふむ……戦ってみないと分からないな」
「ではお願いします」
「エミ、そういうわけだ」
「分かったよ!」
低い体勢で魔王が駆けた。その手には二本のナイフが握られていた。そして速攻で《クルーエルナイト》を斬りつけた。さらに続けて
「邪魔!」
「っ、分かったはずだろう!?」
「分かってても邪魔だよ!」
足場にされた魔王が愚痴を吐きながら剣をナイフで受け止めた。腰を落として剣身を逃がさない交差の防御、それは確実に《クルーエルナイト》の剣を受け止めた。さらに手首を器用に動かして
「剣を奪った!?」
「ふん」
さらに続けて手を細切れにしていく。それが肘を越えるや否やさらに加速した。同時としか思えない斬撃が《 悲哀の騎士》を切り倒した。
「この程度なのか……?」
何故か困惑した様子の魔王を尻目に《クルーエルナイト》は光となって消滅した。そして魔王は大きくため息を吐いて
「《 魔王の傘下》を相手するには物足りないかもな」
「そう、さすがね」
「……あのよ、今のに今度は四人で挑んで良いか?」
「え、私一人で大丈夫だよ」
エミの言葉にピュアホワイトが説教を始める。そして
「構わないが……大丈夫か?」
「私らの装備はレベル含めりゃ1000くらいあるらしいぜ」
「……」
「魔王にとっちゃ低いかもしれねぇけどよ」
「……アリアがポーションを渡していたはずだ。出し惜しみするな」
*****
「あのだな、前三人じゃバランスが悪いだろ。せめて後ろもう一人増やして同時攻撃は止めておけ」
「えー」
「えーじゃない。後衛が充実していないのならボスに挑むのは止めた方が良い」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃジャジャーン!」
「帰れ」
魔王の言葉にマモンは頬を膨らませて
「聞いた? アスカの旦那様がこんなこと言ってきたんだけど」
「あ、あはは……」
「お前だと前衛の存在意義が無くなる。それに前あれを素手で弄んでいただろ」
「だって弱っちいんだし」
マモンの言葉にマモンは目を閉じて
「他にプレイヤーを誘え、マモンじゃダメだ」
「えー!?」
「お前がいたら他の四人が育たん。お前は《始まりの街》でチュートリアルしていろ」
「はーい」
初心者を育てているマモンは魔王の言葉にあっさりと頷いてアイテムを使った。そしてーー
「いったーい!?」
「室内で転移アイテムを使えばそうなるって分かっていただろう」
「ポケモソしかりドラクェしかりね」
マモンはさっさと出て行った。それを見送って
「どこかの街に行ってプレイヤーを誘ってこい。ソロプレイヤーなら無理だと思うが……」
ってことを魔王が言ったので
「誰か遠距離系のプレイヤーいませんか?」
そう街で勧誘していると
「遠距離系?」
「お前はお呼びじゃない」
何故かいたベルはあっさりと魔王が追い返した。
次回メンバー補給予定
レベリングまでいけるかな?
186話、結構長続きしているけどなんだか書く内容が思いつかなくなってきました
はい、安心と信頼のネタ切れです
そして安定と定番のネタ募集です
誰か何かアイデアちょうだい
19歳までのカウントダウンが始まる……残り10日




