遺志を継ぐ
「もう充分ね」
「そうだね」
「それじゃ帰ります?」
「そうしましょう」
「んー、私はちょっと残るね」
「私もそうするわね」
一発打ち込み、マモンとレヴィを残して四人が《天高く聳える塔群》へ転移した。そして2人が牛を見る。《エウローペー》だ。
「確かゼウス関連だっけ?」
「そう。独占欲から牛にされた女よ。人の姿に戻してもらえたみたいだけどね」
「神様ってのも大概だなぁ」
気楽に話しながら、《エウローペー》の攻撃を避け続けている。さすがにアリアやシンみたいに受け止めるのは無理だからだ。
「お」
「アレがアリアとシェリルの妹? そっくりね」
「髪の色で判断したでしょ?」
「それが?」
「なーんにも」
そう話している2人の目の前を斧がくるくると回転していった。
*****
「アヤ、ピュアホワイト! 上よ!」
「っ⁉︎」
「速い⁉︎」
2人が驚いている。それを眺めながらアスカは杖を正面に向けて
「《ファイアー》!」
極々微量のダメージ表示に呆れる。前衛の2人が手を抜きながら、それでも言葉通りに桁違いのダメージを叩き出しているのだから。
「LAとうする? 譲る?」
「ボーナスあったっけ?」
「んー? 分かんない」
「そっか。あ、エミ、危ないよ」
「え」
なんのことは無く、シンが斧を逸らし、アリアが盾を弾き返す。その2人の隙間でエミはしゃがみ込むようにしていた。やはり怖いのだろう。
しかしそんなエミに姉は何も言わなかった。ちなみに片方の姉はさっさと立ち去った。
「アヤ、一撃離脱よ!」
「分かってる! 連続攻撃スキルは使わねえよ!」
「《ファイアー》!」
アヤとピュアホワイト、そしてアスカの三人は安全を第一……とは言い切れないが第三くらいに戦っていた。唯一戦えていないのがエミだ。
「アリア」
「うん、そろそろ三割だね」
「そう言えば斧投げ? アレ即死効果あるみたい」
「えー? そんな危険なの?」
「うん、さっき防御高いって自慢していたプレイヤーが触れた瞬間に消えたからね」
「全損じゃなくて?」
「うん」
2人の会話は気楽なままだ。そう思い、アスカがため息を吐こうとしたその瞬間だった。
「エミ」
「……え?」
「いつまで小さくなっているつもりなのさ? さっさと立ってよ」
辛辣な言葉が聞こえたのは。
「やれやれ、かな。幸い周りにいたプレイヤーたちもいないし」
「幸いっていうか一気に全損したんだけどね」
「ははは」
シンとアリアに危機感なんてものはない。それに対してアスカやアヤ、ピュアホワイトは危機感しかなかった。楽しむなんてもってのほか、といった具合だ。
「エミ、最強を目指すんだったらこの程度、乗り越えなよ」
「……お姉ちゃん……」
「それとも僕の真似事はまだ無理かな?」
カチリ、と歯車が噛み合うような音がした。そしてゆらり、と幽鬼のように立ち上がるエミ。その手にはいつの間にか細剣が握られていた。そして
「お姉ちゃんの真似なんてしないよ」
「ふーん? じゃあ何ができるの?」
エミは姉の問いに答えず、手に持った細剣を大きく振りかぶった。その剣の名は《エスカリボール》、姉の手作りの剣だ。
「っ!」
「ん、なるなる」
アリアはその剣の先を見て笑みを深める。そして何を思ったのか剣を二本とも背中の鞘に収めた。そのまま《エウローペー》の背後に回り込んで
「てりゃっ!」
「えっ⁉︎」
「アリア……」
足を蹴り払われた《エウローペー》が体勢を崩す。そして容赦なくその顔面を踏みつけて跳び上がった。さらに
「《アストライアー》!」
翼が生えた。そしてそのままぐんぐんと上昇する。
「何をする気なんですか⁉︎」
「何か嫌な予感が……」
「アリアだからな……派手そうだな」
アヤの言葉を知ってか知らずか、アリアは上空で宙返りをし、真下を向いた。その視線の先には今まさに立ち上がった《エウローペー》。そしてーー
「ちぇぃあーっ!」
『ぶもっ⁉︎』
急加速に落下速度を加えた超速度。さらには回転しながらの遠心力を乗せて、全力で《エウローペー》を蹴りつけた。その蹴りは盾に受け止められた、が盾も《エウローペー》も無事ではない。盾は粉微塵に砕け、《エウローペー》へも少なくないダメージが通った。
「やったか⁉︎」
「や、まだ体力残ってるから」
フラグモブの言葉にアリアは冷静に返して……何故かシンと並んで手を繋いだ。あまりにも自然な動作に誰もが何も言わなかった。
「シン」
「もう?」
「うん」
「……ちょっと心配だけどね」
「大丈夫だよ、だってほら」
アリアが向いた方向からプレイヤーたちが現れた。一度体勢を立て直して来たのだろう。
しかし何を言っているのか分からない者もいる。
「何を言っているんですか?」
「ん? もうこれ以上の手助けはいらないかなって思って」
斧を回し蹴りで相殺し、アリアは断ずる。ちなみに手を繋いでいるせいでシンが振り回された(物理)。そしてシンを抱き留める。まるで少女マンガのようにロマンチックに。立場は逆だが。
「帰っちゃうんですか⁉︎」
「そんなとこ」
「ここまで来て逃げ帰るのかよ?」
「それでも最強なの?」
アリアの動きが不自然に硬直した。そしてーー
「だったら私が最強だね!」
「あはは、何を言っているのかなこの愚妹は。最強は僕だけのものだ」
アリアとエミが競うように並び立つ。その前で大きく吠える《エウローペー》。そしてアリアに抱き抱えられたままのシン。
「お姉ちゃんには負けない!」
「出来るもんならやってみなよ」
エミが駆け出した。そして牛の拳の軌道上に剣を割り込ませたけど
「その程度のstrじゃ止められないよ」
「っ⁉︎」
「僕に勝ちたいならステータスもレベルも装備も最高水準まで上昇させてからだよ。今のエミじゃあ
僕に喧嘩を売る意味すら無い
からね」
「……五月蝿い」
「アリア、言い過ぎだ」
「ううん、シン。これは言わないといけない」
シンの言葉にアリアは断言して
「待っているから、さっさと追いついてよね」
そう言ってアイテムを使用し、姿を消した。そしてーー
『ぶるるるる』
自分の優勢を感じたのか、《エウローペー》が笑った。そして両の拳を握り締めた。
「エミ! 避けなさい!」
「うん! ってわ!?」
殴りつけられ、エミの小柄な体が吹き飛んだ。しかしそれをアヤが空中でキャッチして
「大丈夫かよ?」
「あ、うん。ありがと」
「なら良いけどよ……ぶっちゃけ戦力激減ってところだね」
「アヤ! 後ろよ!」
「《零舞一の型》!」
防御スキル《零舞》はダメージを0へと近くするスキル、つまり軽減だ。しかしそれでも中々ダメージ量は減っていない。まぁ、何が言いたいのかと言えばピュアホワイトが吹き飛んだ。しかし背後にダメージは通っていない。
「ピュアホワイト!?」
「全損……っ!?」
「ごめん!」
「え、べぼっ」
アヤの胸を蹴り、エミが飛び出した。そのまま低い姿勢で消えてしまったピュアホワイトがいた場所に駆け寄った。そしてそれを手に取った。
「それは……!?」
「《絢爛華美なる皇扇》……ピュアホワイトの遺志は私が継ぐよ!」
いや、死んでないから。そんな突っ込みがどこかで聞こえた気がした。
大学生活初日を乗り越えた作者です
明日もテストだひゃっほーい
勉強なんかしてやるもんか!
朝5時半起床だから勉強したら寝坊しちゃうもんねー!
……なんだこのテンション、と我に帰った
《エウローペー》戦は次回で終わるかな?
現在はエミたち四人と装備を整えて来たプレイヤーたちが戦っています
アリアたちは飽きたわけではありません
カザネネオバズーカ? はて、なんのことやら




