祝勝会inリアル
「それにしてもマモンのこの車って高いんじゃないの?」
「一昔前には廃れていた骨董品だよ」
「だからって日常で使うには違和感があるけどね」
マモンの車は大きい。とても大きい。僕たち5人、運転席と助手席を除いて3人が余裕を持って乗れるから。
「後ろは問題無い?」
「大丈夫です」
「問題ありません」
「こんな車初めて乗りました」
「だろうねー」
僕は頷いて窓の外を眺める。街を歩く人々も好奇の視線を寄せる。
キャンピングカー、それは寝る事も料理も生理的行為も出来る過去の産物。もっとも使い勝手はあまり良くないらしい。
「骨董品使い回して目立つね」
「乗ってるのが美少女4人だからね」
「誰がその他なのか気になるね」
「大学生は少女じゃありませーん」
あっそ。
「ととと、着いたよー」
「「「はーい」」」
「ここ?」
「そそ、私の親父殿のお店」
「え」
「もっとも昼は母殿とバイトの子だけだけどね」
少し意外に思いながら車を出る。道路標識を見ると三駅くらい離れている。
「何のお店ですか?」
「んー、なんだと思う?」
「喫茶店?」
「近いねー」
私はきりたちとマモンの会話を聞きながらふと思い出す。
エミ、今日はシェリ姉がバイトだから一人だけどお昼ご飯作れるかな…………作れたね。私より上手に。
「あれ? アリアちゃん、どうしたの?」
「ちょっと妹に負けたのを思い出して……」
私はじりじりと熱いアスファルトを睨んでコンクリートの塀から手を離す。そして
「行こうか」
「結局ここは何のお店なの?」
「それは見てからのお楽しみ」
マモンはそう言って誤魔化す。しかし夜は親父殿がやっていると思うと少しどころか大きく複雑だ。
「いらっしゃいませー! ご主人様!」
メイド喫茶なのだから。
*****
「あら、お客様とアリアちゃんと我が愛しの娘殿じゃないの。一体どんな組み合わせかしら?」
「母殿、とりあえず今はお客だよー」
「あらあら大変。それではご主人様、あちらの席へ案内させていただきます」
あの人はマモンのお母さん。年齢は40越えているはずなのに外見は物凄く若い。メイド服を着ていても違和感が無いくらいには。
「ほら、注文とって来てね」
「はい」
お母さんはそのまま厨房に向かって入れ替わりにバイトと言われていた……
「シェリ姉?」
「アリアちゃん⁉︎」
私は脱兎のごとく逃げ出したが
「はい、店内では暴れない」
「離してマモン!」
「デジャヴだねー」
「シェリ姉は蜘蛛じゃないよ!」
私を席に座らせて背後から寄りかかるシェリ姉。その目はとても冷たい。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「んー、レモンティー3つとアップルティー2つ」
「しばらくお待ちください」
シェリ姉は最後に一睨み入れて立ち去った。
「マモン?」
「とりあえずアリアちゃん、リアルでその名前はダメだよ?」
「分かったよ直美……」
「呼び捨てかー」
「それでシェリ姉のバイト先ってここなの?」
「そうだよー」
「知っててここにしたの?」
「ううん、似ているとは思っていたけどね」
嘘か真か、どっちでも良いや。もう会っちゃったし。
割とドライな感想を述べて
「とりあえず自己紹介くらいしたら?」
「そうだね。なら私からねー」
「はぁ」
「どうぞ」
「分かりました」
「私は松本直美、マモンです」
「マモンは珍しく名前の由来がリアルネームなんだよね?」
「アリアちゃんに言われたくないねー」
本名を弄って名前にした人に言われた。私の名前は何もおかしくないはず。
「お待たせしました」
「あ、シェリちゃんはこの後のシフトってどうなってる?」
「後5分で終わり」
「なら5分くらい良いから一緒に話そ?」
「……直美がそう言うなら」
シェリ姉は一旦引っ込んで着替えてくるそうだ。とりあえずアップルティーを飲んで
「熱ぅ」
「アリアちゃんって猫舌だもんね」
「でも美味しいから良い」
「やっぱり一家に一人アリアちゃんは欲しいなー」
「ですよねー、見てると和みますよね」
「うんうん」
「おお、同士が一杯!」
直美たちのノリについて行けずにアップルティーを飲んで
「まだ熱いや」
「アリアちゃんは猫舌なんだからアイスアップルティーでも頼んだら良かったのに」
「シェリ姉……」
「とりあえずどんな関係か説明してくれる?」
「あら、シェリちゃんに見て欲しいっていったテレビ、見た?」
「見ましたけどあのゲームが?」
なんだか嫌な予感がする。
「あのゲームは大会とかあるんですね」
「そそ、そこの優勝チームだよ」
……
「「直美⁉︎」」
僕とシェリ姉は同時に叫んで顔を見合わせる。
「人の可愛い妹とそんな関係なの⁉︎」
「シェリ姉に何を教えているの⁉︎」
左右からの言葉に直美は少し冷や汗をかく。だけど
「僕が何しているかバレちゃうじゃないか!」
「アリアちゃんがあの赤いアリアだったの⁉︎」
「あ、そうだよー」
「直美⁉︎」
そうやって騒いでいると
「ぁふぁ……なに? 直美のお友だち?」
奥から美人の女性が眠そうに出て来た。すると
「あ、親父殿、おはよ」
「おはよ、直美」
「「「「「お父さん⁉︎」」」」」
*****
「結局マモンに送ってもらうんだね」
「直美って呼んでよー」
「ごめん、驚きが多過ぎてそれどころじゃない」
「そっかー」
マモンの運転するキャンピングカー、その助手席に座りながら私はため息を吐く。
「マモンのせいでシェリ姉もSSOするってなっちゃったじゃん」
「うふふ、アリアちゃんはソロプレイヤーに戻るんだから関係無いでしょ?」
「そうだけどさ」
「それで? 明日のソロ大会に参加するの?」
「そのつもりだよー」
「シェリちゃんが明日から始めるからレクチャーしてあげたら?」
「やだ」
私の言葉にマモンは苦笑して
「3人はこの辺りかな?」
「あ、はい」
「なら止めるから忘れ物はしないでねー」
「「「ありがとうございました!」」」
「またねー」
マモンは3人に手を振って再び車を出す。そして
「ほら、シェリちゃんも黙ってないで何か話そうよ」
「それならアリアちゃんたちと一緒のゲームの事を色々教えて」
「えー? アリアちゃんに教えてもらえないの?」
さりげなくマモンは攻めて来たが
「アリアちゃんの戦い方を見ていたら多分邪魔になるから」
「どんなスキルにするかによって大分変わるけどね」
「例えば?」
「アリアちゃんは前衛だから後衛型の魔法使いや飛び道具とかのスキル?」
「……シェリ姉、本気で始めるの?」
僕は会話に割って言う。最後の確認だ。なのに
「何度言われてもやるよ、アリアちゃん」
「そう」
「そう言えばシェリちゃん、どうしてアリアちゃんが最強になりたいのか知ってる?」
む
「私たちのお爺ちゃんは前世の記憶ってのを持っていてね、戦場で一騎当千と呼ばれたんだって」
「え、前世の記憶?」
「そう、前世の記憶。本当か嘘かは知らないけどね」
「うーん、リアルでそんな事があるんだねー」
「半信半疑だけどね。アリアちゃんはそれに憧れちゃったの」
「シェリ姉⁉︎」
シェリ姉の爆弾にマモンはニヤニヤ笑いを向けて来た。




