激甘豆板醤野菜炒め
「凄い装備ですね」
「ああ、これなら戦えるな」
そんな風に喜んでいる中で1人だけ、浮かない顔の少女がいた。
「エミ、何しているの?」
「……ピュアホワイト」
「何かあったの?」
「……あのお姉ちゃんがこんなことをするなんて……槍でも降るのかなって思って」
*****
「くちゅんっ!」
「あら、可愛いくしゃみですね」
「むぅ……きっとどこかで誰かが僕のことを誉めそやしているんだよ」
*****
「そんな人なの?」
「うーん……お姉ちゃん、馬鹿だから」
「え」
エミの辛辣な言葉に思わず絶句するピュアホワイト。そしてその2人の様子を眺めて
「どうする? もう一回コボルドたちに挑む?」
「私は構いませんよ。新しい装備で戦ってみたいですからね」
「私も。エミは?」
「……うん、行こう」
乗り気じゃないようなエミの様子を疑問に感じていると
「ふぁぁ」
「可愛い欠伸ですね」
「……眠ぅ」
「ひょっとして中学生か?」
「うん……」
「ならもう寝ろ。明日も平日だろ」
アヤの言葉にこくこく、とエミは頷いて
「コボルド……明日行こ?」
「ああ」
「分かりました」
「それじゃ、また明日」
全員でログアウト。そしてヘッドギア型のデバイスを頭から外して時計を見る。現在時刻は10時半。眠くて当然だ。
「お姉ちゃん、ありがとね」
お姉ちゃんの部屋の扉をノックして、そう言ったけど返事は無かった。きっとまだ、あの世界にいるのだろう。
*****
「朝日、ちょっとお願い」
「んー? 何すんの?」
「ちょっとね」
妹がしっかりとやれているのか心配なので朝日に校庭を眺めてもらう。ヤ行は窓際だから見える。
「あのカーマインの?」
「そそ」
「アリアに似てるね」
「でしょでしょ」
窓から眺めていると
「アリア、そろそろ座ったら?」
「もうちょい、もうちょいだから!」
「はいはい」
呆れたようなきりの声はもちろん無視した。
*****
「ねぇ、二階堂さん」
「なに?」
「あなた、エミって名前でプレイしてる?」
「え」
明らかに同じ顔のクラスメートにそう聞くと驚いている。
「えっと……?」
「真白。それでソーニョでエミって名前でプレイしてる?」
「うん、そうだけど……?」
「ピュアホワイトよ」
「……えぇ?」
そして放課後
「真白はさ、純白なんだよね?」
「そうだけど」
「うーん……私も捻ったほうが良いのかな」
「さぁ? そのままで良いんじゃない? エミリアってトッププレイヤーがいるし」
「あー、お姉ちゃんの友たちの」
エミリアはほうほう、と頷きながら迷いなく唐人町を歩く。そして一軒の喫茶店のようなお店に入った。
「いらっしゃいませってエミじゃない」
「直美さんだけなの?」
「もうすぐてシェリちゃんも来るよ」
「はーい」
メイド喫茶、そう思いながらエミリアに連れられて席に座る。
「ちょっと、ここってメイド喫茶なの⁉︎」
「んー、そんなとこ」
友人がなんのことは無さそうに言った言葉に戦慄する。中学生成り立てでメイド喫茶に行くだと⁉︎ それにアキバとかならともかくこんな辺りにあるのを知っているなんて……⁉︎
隣の席で戦慄しているのを気にも留めず、エミリアは鼻歌を歌いながらメニューを眺める。
「んー、直美さんのお勧めある?」
「そうねぇ……激甘豆板醤野菜炒め?」
「甘いの?」
「酸っぱいよ。それにお菓子だよ」
「名前詐欺じゃねぇか」
「うふふ」
思わず突っ込む真白、それに微笑む直美と呼ばれたメイド服の女性。
「直美さん、大学は?」
「講義は2、3限までに詰め込んでいるから大丈夫なの。早起きは辛いけどね」
「ふーん。あ、私パフェ」
「はいはい。そちらのお客様は?」
「同じので」
「はーい」
5分後
「あら、エミじゃない。何しているの?」
「寄り道だよ」
「ふーん。あんまり遅くならないようにね」
「はーい」
エミリアは同じ髪の色の女性と親しげに話していた。
「あの人は?」
「シェリ姉、お姉ちゃんだよ」
「なーる」
*****
「リンク……イン」
目を閉じて呟く。まだ少し怖いから。
「……お、アスカか。まだ2人なんだよな」
「アヤ……エミとピュアホワイトは?」
「まだだってば。とりあえず経験値を使っておけば?」
「そうですね」
メニューを開いてスキルの欄を開く。そのまま経験地を使って魔法スキルをタップする。続けてその中にある《炎魔法》から《ファイアー》をタップしてレベルを上げる。しかし
「あんまりレベルが上げられませんね」
「そりゃ昨日はあんまり戦えなかったしな……今日はどうする? またコボルドと戦いに行くか?」
「そうですね。装備が強くなったので戦ってみましょうか」
「そだね」
そう言った瞬間人型の光が現れてーー
「2人とも早いね」
「私たちが遅いだけでしょ」
「ははは。それよりも行こうぜ」
そして移動を含めて2分後
「アスカ!」
「分かっています! 《ファイアー》!」
「《炎舞》!」
炎が背中を向けているコボルドに当たり、そして体力の2割を削った。さらに続けての連撃が3割を削った。しかしコボルドは両手の爪を構えて走り寄ってきた。そして
「《アークスラッシュ》!」
「《スラスト》!」
アヤの二連撃とエミの一撃が残った体力を削りきった。
「やっぱ全員で一撃ずつ打ち込めば削りきれるんですね」
「中々強くなったって思うんですが……何故こんな装備を軽々と渡せるのでしょうか」
「お姉ちゃんは……鍛冶屋だから」
「え?」
エミの言葉に思わず反応すると
「鍛冶屋で料理屋で……色々な人を雇っているんだって」
「そうなの?」
「カーマインブラックスミス、それがお姉ちゃんのお店だよ」
カーマインブラックスミス……? 聞き覚えが無いですね……
「アリアのお店なんだな。いつか行きたいもんだ」
「あのお店物凄く高いのと安いので別れているみたいだけど?」
「ポーションは物凄く安いらしいよ」
そうなんですね、と思いながら洞窟の中を歩いていると
「……君たちはアリアの?」
「え……」
「誰?」
「僕は……シン、アリアの友人だよ」
「エミ! お姉ちゃんの妹だよ!」
「元気な子だね」
そのプレイヤーは微笑んで
「君たちはここに何をしに?」
「レベリング。シンさんは?」
「僕はアリアの頼みで素材集めだよ。犬コスプレ用装備が作りたいらしくてね」
正直迷走していると思う、とシンさんが苦笑している。その結果
「この洞窟のボスがレアドロップする《ビッグコボルドの上毛皮》が欲しいんだ」
「中々手に入らないんですか?」
「うん。アリアとマモンに手伝ってもらってラックガン上げしたんだけどね」
「幸運を?」
ラックを上げるとアイテムドロップ確率が上昇するそうです。しかし
「本当に手伝ってもらっても良いんですか?」
「どこまで手伝えるか分からないけどね」
シンさんはそう言って剣を抜いた。その剣は圧倒的な強さを見ているだけで伝えてくる。そして
「ほら、群れが来たよ」
「やぁぁっ!」
「アリアみたいだね」
苦笑しているシンさんの目線の先で、剣を片手でぶんぶか振り回しているエミの姿があった。
大学の入学式前日でもマイペースだぜ私!
大学入ったら投稿ペースが変化するかもしれませんがね
シンがいた理由はアリアに頼まれた、で本当です
シンは他に何も考えていませんでした
次回はボス戦的な感じになるかも
3話でボス戦なんてないわー(3話でベータテスターと戦ったアリアちゃんェ)




