絢爛華美なる皇扇
しばらくレベリングをしよう、そんなアヤの提案に2人が賛成。レベリングの意味が分からずとりあえず頷いた私、アスカを連れて3人は街の周りを歩き回っています。
「でもこの辺りのモンスターは蟻しかいないんでしょ?」
「アント、ガードアント、アタックアントの3種類ね」
「さっきのは?」
「アタック」
ふむふむ、と聞き耳を立てながら歩いていると
「こっちの方に行くとコボルドっていう二足歩行のモンスターがいるんだって」
「でも適性レベル5でしょ?」
「アタックアントも5だよ」
エミちゃんがあはは、と笑っているのを見ていると何故か微笑ましい。ひょっとしたらまだ小学生なのかもしれない。
「アスカもそれで良い?」
「え」
「コボルドと戦いに行くの。大丈夫?」
「……はい」
少し不安、だけど魔法という空想の産物を使ってみたいという欲望もあり、そしてあっさりと欲望に負けてしまった。
*****
「2人とも、離れて!」
「うん!」
「了解!」
「《ファイアー》!」
手のひらサイズの炎が、確かに杖の先から出た。それはコボルドという二足歩行の犬のお腹の毛を焦がしダメージを与える。
「もらったよ!」
そして産まれた隙にエミが剣で斬りつけて、着実に一体ずつを倒していっている。
「初期装備でも案外いけるものね」
「そうですね」
奇特な武器を使うピュアホワイトは指先でくるくる、と己の武器を回転させる。
「ま、私は初期装備じゃないけど」
「ドロップアイテムは初期装備扱いで良いんじゃね?」
「そう?」
2人の会話、それを聞いていると思ったらいきなり表情が変わった。そして
「群れが来ているよ……逃げる?」
「勝てるでしょ?」
「今みたいな感じだったら大丈夫だと思うけど」
エミの言葉に反論2、ならばことを荒立てずに賛成と言うとエミはあからさまにテンションが下がった。小学生という予想があっているような気がしてきた、しかし
「来たよ!」
「おう!」
「ん」
群れが迫ってきた。群れといってもたったの3体、しかし
「っ!?」
「アヤ!?」
アヤが左右からの挟み撃ちになる。それにエミが切り込むけど
「連携が取れている!?」
「AIを舐めるな……そう言いましたね」
魔王の言葉に、旦那の言葉を思い出して
「《ファイアー》!」
「《アークスラッシュ》!」
「《炎舞》!」
純白の握る扇から焔が迸った。そのまま流れるような連撃を叩き込んだ。《扇》スキル、それは近接と遠距離の両方を備えている。
「だからと言って前に出過ぎです!」
「大丈夫!」
アヤとエミの剣がコボルド一体を倒しきった。しかしその背後からの爪を受けて
「っ、《ヒール》! 《ヒール》!」
2人の体力を回復させる。しかし満タンまでいっていない。しかしコボルドたちの攻撃の手は止まらない。
「っきゃ!?」
「ピュアホワイト!?」
背後からの一撃を受け、動揺している。私も動揺した。何故ならば
「増えた!?」
「だから群れが来ているって言ったじゃん!?」
「群れってさっきの3体はなんだったのさ!?」
「さぁ?」
「おぉぉい!?」
思わずといった雰囲気でアヤが突っ込む。しかしもはやその顔に余裕はない。私も、きっとピュアホワイトとエミも。私たちはすでに2桁のコボルドたちに囲まれているのだから。
そして私たちは程なくして一人ずつ全損し、《始まりの街》に戻りました。
*****
「あーもう! 負けた負けた負けたぁーっ!」
エミの叫びに皆が力なく笑う。その様子はあのアリアの妹らしい天真爛漫さがあった。そう思っていると
「……あれ?」
「ん、どした?」
「今のって……」
ピュアホワイトが眼を凝らして一方向を見つめる。そして
「ナンパっぽい」
「君たち、全滅したの?」
「大丈夫かい?」
初心者、具体的にはレベル50以下のプレイヤーは体力を全損してもアイテムや装備はドロップしない。つまりまたすぐにでも挑める。だが私たちの様子を見て寄って来たのだろう。
「手伝おうか?」
「僕たちはレベル高いから手伝えるよ」
「……」
「遠慮するよ」
「え」
「なんで?」
なんで、と言われても
「理由がないと断っちゃダメか?」
「ダメじゃないけど……」
「それで良いの?」
何でか分からんが食い下がる二人組、それにため息を吐いた瞬間
「はいはーい、無理矢理な勧誘は良くないよ」
「え!?」
「は!?」
「嘘……」
「その子たちは私の知り合いだから私が手伝うよ。それとも」
そのプレイヤーは目を細めて
「私と戦っても奪い取る?」
「お、おい……」
「あ、ああ……」
二人が逃げ出したのを見てそのプレイヤーは微笑んだ。そして表情を改めて
「お騒がせしました」
そう言って立ち去ろうとしているけど何故かピュアホワイトが
「マモンさんですよね!」
*****
「人違いです」
まさか気づかれるとは。しかし何とかこの場を乗り切ろうとしていると
『何しているのよ。警護対象に接触してるんじゃないわよ』
「……
ごめん、と送り返していると
「マモンってお姉ちゃんたちの友達の?」
「……」
「アリアの友人か」
なんだかばれてしまいそうだ。慌てて逃げようとも思ったけどむしろそれは不審だろう。だから
「いかにも、私がマモンだけど何か用かね?」
「いつも姉がお世話になっています!」
「あ、こちらこそアリアちゃんにはいつもお世話になっています」
あ、言ってしまった。そう思って内心テヘペロしていると頭に衝撃があった。ダメージはない。つまり
「よほどのニュービーか……レヴィかな」
『正解よ』
五分後
「で、これを渡せってアリアちゃんからの依頼なの」
「えっとこれって?」
「エミリア謹製のネックレスにアリアちゃん手作りの武器だよ」
大して強くはない、だけど今の状況だとかなり使えるその装備を渡すと
「ネックレスの性能……凄いですね」
ネックレス、《桜のネックレス》。その性能は《防御力+50》だけ。
「私が手を貸せるのはここまで。武器や防具は確かに強くなっても本当に重要なのは自分自身の力だから、そこをはき違えないでね」
「はい」
「分かった」
「分かりました!」
「はーい!」
アリアちゃんのように元気なエミちゃんの頭を撫でて
「エミちゃんにはこれ、《エスカリボール》」
「えすかり?」
「エクスカリバーの別名よ」
《エクスカリバー》を持っている彼女からのプレゼントを渡して
「アヤには《エクスカリパー》」
「それダメージ1じゃね?」
「アスカには《愚者の杖》、ネーミングは中二病かかっているけど使えるから」
「は、はぁ……」
物理ダメージを一切与えられなくなる代わりにINTが上がり、さらにパーセントボーナスもある。
「そしてピュアホワイトには《絢爛華美なる皇扇》」
「……凄いネーミングセンスですね」
「それは……アリアちゃんだから仕方ないの」
「え」
驚いているピュアホワイトに微笑んで
「それじゃ、私は行くから。4人は頑張ってね」
お礼などはアリアちゃんに伝えておくよ、と言って目立たない路地に入る。そのままフードを被って
「護衛対象と接触しているんじゃないわよ」
「はーい」
レヴィに怒られた。
新年度ですよ新年度
ってことでピュアホワイトたちは全滅しました
やっぱり初心者は無謀な挑戦をしてはいけませんよね
レベル1でベータテスターに挑んだりしたらダメですよ
アリアからの贈り物に関しては次回書きます
そしてマモンとレヴィは過保護なシェリルとアリア、魔王からの頼みで護衛をしています
洞窟内ではあえて助けませんでした
口内炎が黒ずんできました
痛いです




