表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/401

ちっぽけなプライド

「お母さん、アリアちゃんは部屋なのかな?」

「アリアちゃんは彼氏くんと年越しするんだって」

「……そっか」


お父さんが寂しそうにお酒を飲んでいる。そしてエミが録画した世界大会を見て笑顔になっていた。

どうもアリアちゃんが世界的に有名なのを両親ともにすでに知っていたらしい。私とエミだけが知らず、そして私も有名になってしまった。


*****


「ふんふん」

「どうしたの?」

「雲一つ無いなーって思って」

「そうだね」


ツゲオは寒さに弱いのかマフラーで口元を隠している。なんだろう、マフラーが靡いていたらカッコよさそう。


「月が綺麗だねー」

「そうだな」

「やばい流沙の目が開いてない」


背後の大学生三人衆の会話に苦笑しながら神社の階段を上る。藤崎から二つ離れた駅、その近くにある愛宕神社だ。


「しかし見事に山頂だね」

「そうだね。でも夜景が綺麗じゃん」

「大晦日だからって夜更かしする理由にはならないと思うんだけどね」


ツゲオは苦笑して空を見上げる。そしてほぅ、と感嘆の声を出して


「確かに綺麗だ」

「ん……そだね。まん丸だ」

「お月見の感想だよそれ」

「あはは」


笑いながら階段をのぼりきって境内を眺める。すでに結構な人数が並んでいた。


「亜美も来れば良かったのに」

「今頃炬燵でのんびりしているよ」

「ぬくぬくと?」

「ほくほくと」


それも良いなぁ、と思いながら人の列に並ぶ。なんやかんや人類は進歩したとはいえ、結局アナログは必要不可欠だ。


「ん……」

「雪だね」

「だね」

「……」

「……」


何も言わずに日を跨ぐ瞬間を待つ。スマートフォンで時間を確認していると


「雪が本降りになってきたね」

「雪でも本降りって言うの?」

「さぁ?」

「無責任だなぁ」


ツゲオは呆れたように言いながら穏やかな笑みを浮かべている。

そして程なくして日は跨がれた。ツゲオと向き合って「あけましておめでとう」と、言ってお互いの頭に雪が積もっているのを笑った。そのまま神様にあけましておめでとう、とだけ伝える。


「何をお願いしたの?」

「んー、何も」

「そうなんだ」

「神様に頼むクラスのお願いが無かったからね」

「そういう考え方もあるんだね」


ツゲオは面白そうに笑いながら階段を降りる。その後ろに着いて行きながら


「ツゲオは何をお願いしたの?」

「ん……なんだと思う?」

「うーん……受験はしないし……うーむ」


少し悩む、するとツゲオは苦笑して


「アリアとずっと一緒にいられますようにってさ」

「……それってプロポーズ?」

「かもね」

「……もう」


熱い顔を雪が冷やす。それをありがたく思いながら手を繋ぎながら歩いていると


「おっと」

「ん? どうしたの?」

「ちょっと知り合いがいたからね」


そう言うツゲオの目はマスクをした洋紅色の髪の女性を見ている。シェリ姉だ。


「何しているの?」

「初詣に行こうとしているの。偶々出会っただけでね」

「そっか」


シェリ姉と別れて歩いて帰っていると


「アリア」

「ん?」

「今年もよろしく」

「……こちらこそ」


*****


「あら、真央」

「おや、あなたも初詣ですか……」

「はい」


プロポーズしようしようと思っている相手と偶々遭遇してしまった。とりあえず


「あけましておめでとうございます、真央」

「おめでとうございます、明日香」


名前で呼び合い、デートをする関係までは至っている。しかしそこから一歩を踏み出せない。しかしちょうど良いタイミングかもしれない。


「かなり混んでいますね」

「一年に一度しかありませんからね」

「……」

「……」


そこで会話が終わってしまった。そのまま境内へ上がり祈る。この内容は元々のとは違うが……根本的には同じだ。


「真央は何を祈りましたか?」

「……あなたと結婚したい、と」

「……本気ですか?」

「はい」


少し顔が熱い。きっと赤面しているのだろう。だが恥ずかしい、というよりはとうとう、と言った感じだ。そのままいつも持ち歩いているそれを取り出して


「俺と結婚してください」

「……私が祈ったのは……あなたの妻になることです」


願っていたとはいえ、それは俺にとっても驚きだった。そのまま指輪を受け取られて


「真央、私の旦那になってくれるんですか?」

「あなた以外の旦那になりたくありません」


*****


「元旦に、それも神様を利用してのプロポーズって……ロマンチックなのか……?」

「もう一度感謝として祈ったさ。まぁ、あんなに人がいたから聞き届けてくれたとは思えないけどね」

「かもね」


ジャックは苦笑して


「何はともあれ、婚約おめでとう」

「あ、ああ」

「結婚の予定はいつなんだ? 俺たち全員出席してやろうか?」

「やめてくれよ。物凄く恥ずかしいだろ」

「そんなもんかね……」


ジャックは鎌を肩に担いで笑った。そしてそのまま獅子舞に向かって切りつけた。真下からの切り上げ、さらに真上からの切り下ろしが獅子舞を切り裂いた。しかし


「っと、意外と体力あるな」

「さっさとそいつはやれ。俺は鏡餅をやる」

「ったく人使いの荒いギルドマスターだ」

「ふん」


ジャックの軽口を無視して《真炎龍短剣スカーレット》と《真魔龍短剣ダークネス》を腰の鞘から引き抜く。そのまま鏡餅の粘着質の肌へ切りつける。


「遅い剣戟だと張り付く……か。だったら問題ないな」

「お?」

「アリア理論だ。やられる前にやれ、ってな」

「それ少しずれたら危険なんだけどよ……」


ジャックの言葉に頷いてみかん爆弾を避ける。さらに続けて放たれた餅の槍を二本のナイフで切り裂く。張り付かれるよりも速く、もっと速く。


「我流」


回転に回転を重ね、さらに回転剣舞。餅肌が次々と切り裂かれ、中央のコアが見えた。


「ふん」


蹴りで餅を弾き飛ばす。そのまま片足が取り込まれるが


「残念だったな」


それは俺の読み通りだ。片足を起点にして装備解除、そのままアイテム欄へと移動する靴、その一瞬を足場として前に出る。


「ふん!」


両手のナイフを左右へと振り抜いて、大きく露出したコアに二本のナイフを投げつけた。全損……か。


「しかし正月から束縛系モンスターって大分えげつないよな」

「俺たちを相手にするならってことだろ……ってお前らがしたことだろ」

「AIベースに言え。《悪魔の肝》の原因でもあるんだから大いに責めてくれて構わないぜ」

「Aiベースか……いくつかの人間の標本を取って平均的な答えを出すやつだったか?」


ジャックがそれに頷いたのを眺めつつナイフを鞘に収める。


「ん? どうした?」

「何か来そうだな」

「そんなプログラム……あ」

「なにかあるのか?」

「何かしらのプログラムを組んでいるグループがあったなって思って」


おい、と思って振り向いた瞬間地面が割れた。その振動で動けなくなったが


「……なんだこりゃ」

「こんなのを作ってたのかよ……パネェな」


超巨大な餅が現れた。そこからは獅子舞が顔を覗かせている。なんなんだこれは。


「ジャック」

「分かってる……だがこれは……」


ジャックは鎌を肩に担いでため息を吐いて


「逃げた方が良くないか?」

「確かに魔法系がいた方が良いがそんなのは俺のちっぽけなプライドが許さん」

「めんどくさ!?」

フライドチキン食べたい


次回も最初は魔王とジャックがメインの予定です

そこからは時間がすっ飛びます


もうツゲオがアリアちゃんといちゃついているのを見ると娘は渡さんって全力で言いたいです

そして真央のプロポーズはロマンチックだと思います

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ