忘年会
「それにしても大晦日前日に忘年会か」
「仕事が終わっているタイミングを見計らうとこの辺りしか無かったんだ」
「にしてもギリギリだよな」
ジャックの言葉に頷いてビールを飲む。寒い季節だろうとアイス然り冷たい物は美味しい。
「アリアたちは……冬休みか」
「シンは中3で受験の年らしいな……引っ張り出して良いのか?」
「俺に聞くな。あいつの姉のエミリアは来るそうだ」
「そうか」
達也は少し疲れたような顔で梅酒をチビチビと飲んで
「今さらだが場違い感が無いな」
「ん?」
「どういう意味だ?」
「傘下、新入りだろうと居心地の悪さをさっぱり感じなかったな、と思い返したんだ」
「アットホームとは違うけどな」
「各々が自由過ぎるんだ、方針なんて無いんだぞ?」
俺の言葉に2人が笑っているのを見て、釣られて笑みを浮かべる。しかし
「大半はアリアのおかげだと思うがな」
「アリアは……マスコット的な?」
「妹……よりかは手のかかる娘って感じだな」
「妻子もちめ」
「なんだプロポーズ出来ないヘタレ」
軽口がボディブローになって帰ってきた。思わず漏らした呻き声に笑い声を上げてまで笑うジャック。そして穏やかな笑みを浮かべる達也。これが家庭持ちとの差か……
*****
「もう年末だね」
「うん、そうだね」
「今年は色々あったね」
「そうだね、色々あり過ぎたね」
「シェリ姉はソーニョ始めるし」
「そのままテレビにも出演するし」
「進化したなぁ」
「進歩したわねー」
「何よそのノリ」
シェリ姉の突っ込みに直美と笑って店内を眺める。白織屋として出す料理、出前などをテーブルに並べて
「よし」
「ところでなんでこんなに早く来たの?」
「良いの。別に良いの」
「アリアちゃんは江利くんのためにおめかししようとして早起きしたのよ」
「シェリ姉⁉︎ 言わないでって言ったじゃん!」
「頷いてないよ?」
「シェリ姉の意地悪……」
シェリ姉は少し笑みを浮かべて私の頭を撫で
「大丈夫、きっと江利くんは可愛いって思ってくれるよ」
「そんな言葉じゃ騙されないもん」
「でも可愛いってきっと言ってくれるよ?」
「……いつもだもん」
*****
アリアちゃんがツゲオを迎えていちゃいちゃしているのを眺めていると亜美がため息を吐いて
「何しているの?」
「何って言われても……見張りかな?」
「あっそ。直美は卒業後どうするの?」
「ここで働くよー」
「そう。良いなぁ」
亜美はどこかの企業で内定をもらっている。だからそんなに問題ないはずなんだけどね。
「あ」
「優さんと達也だね」
「達也……さんがセプトだっけ?」
「そうそう」
亜美たちに手渡したリストでプレイヤーネームとリアルネームが記載されている。いまどきデータじゃないそれは呆れとともに迎えられた。とりあえず
「アリアちゃん、何しているの?」
「何って言われても手を繋いでいるだけだよ?」
不思議そうなアリアちゃんの言葉に若干鼻血が出そうになるのを堪える。何なのの子、ツゲオと付き合いだしてからまた一層可愛くなった……!
「アリアちゃん、結婚しない?」
「やだ」
「がーん」
思いのほかあっさりと断られた。ツゲオめ、と謎の恨みの視線を向けるとツゲオは微笑んでアリアちゃんを抱きしめた。おい待て何そのさりげない動作。しかもアリアちゃんは嬉しそうだし……
「亜美~、アリアちゃんを取られた~」
「はいはい」
「何馬鹿なこと言っているのよ」
「うぅ……」
瑠璃の冷たい言葉が私の内臓を抉る。そしてそのまま
「だ、大丈夫か?」
「流沙ぁ……助けて……」
「何からどうやってだよ」
「ツゲオがアリアちゃんを独占するのー」
「恋人関係だから良いだろ」
流沙はため息を吐いて亜美たちと言葉を交わす。そして10分もしない頃だっただろうか、全員が揃った。
*****
「アリス、何か飲む?」
「そうね……爽やかなのをお願い」
「柑橘系かな」
「そうね」
「んー、ちょっと待ってね」
直美が裏方に入って行って……
「ほら、これで良い?」
「飲んでないから何も言えないわよ」
それもそうだね、と笑う直美と乾杯して飲む。爽やかな酸味が口の中を満たす。
「しかし賑やかね」
「そうだね……でも楽しいでしょ?」
「そうね……ところでアリアたちは恋人関係なの?」
「うん、そうだよ。仲良さそうでしょ?」
「そうね」
直美の言葉通り、かなりいちゃいちゃしている。向こうみたいにツゲオ君の膝の上に座っている姿はマスコットのようだ。
「忘年会ってこんな感じなの?」
「会社にも寄るわね。私のとこはこんな風じゃないわよ」
「そうなんだ」
忘年会は終始こんな感じで過ぎ去っていった。
*****
「悪いね、直美」
「気にしないで良いのよ。ほら、シェリちゃんも」
「ありがと、直美」
「柘雄と亜美はどうする? 家まで送る?」
「直美に頼めるならね。別にどっちでも良いわよ」
「なら送るよ」
助手席から窓の外を眺める。洋紅色の髪の少女とその姉が手を振っているのが見えた。それに振り返して
「直美はアリアたちといつ頃知り合ったの?」
「んー、それはまだ話せないかなぁ」
「え? どうして?」
「それは作者が200話記念に書くからって言っていたのよ」
「メタいなぁ……」
直美は赤信号で車を止めて
「アリアちゃんと私が知り合ったのは4年前よ。私が高校2年、アリアちゃんが小学3年の頃だったかな」
「そんなに長い付き合いなんだ」
「少なくとも《魔王の傘下》の初期メンバーはみんなその頃からの仲間よ。ジャックは色々あって一回抜けたけどね」
それは僕も聞いている。だから無言でいると
「中学に入ったアリアちゃんは色々変わった。その中には柘雄の存在がかなり大きいって私は思っている」
「……アリア自身の成長だよ」
「それもあるかもね。でもアリアちゃんの恋人は柘雄であって、生長させてくれるのも柘雄しかいないのよ」
「……買いかぶりすぎだよ」
「そうかもね。受験しないんなら時間はあるでしょ?」
「……あるけど……それが?」
「アリアちゃんは柘雄が大好きなんだから……それだけは忘れないでいてあげてね」
信号が青に変わって車が動き出し、そして僕たちの家の近くで車を端に寄せた。
「亜美、家よ」
「うー……運んで」
「飲みすぎよ……柘雄、この酔っ払いをお願い」
「はいはい。それじゃ、ありがとう、直美」
「うん、またね。何か困ったことがあったら素直に相談してね」
「無いとは思うけど……」
「例えばアリアちゃんにムラムラしちゃったとか?」
ナニイッテンノ?
「そうしたらアリアちゃん似の女の子が出てくるエロ本貸してあげるから」
「……」
無言で門を開けて玄関へ。そのままお母さんにお姉ちゃんを任せて
「……はぁ」
自室に。そのまま部屋の扉を閉めて扉に凭れ掛かる。
「アリアにムラムラ……? そんなこと、あるはずないじゃないか」
妹のようなあの子に、そんな事を思えるなんて思えないから。ため息を吐いて着替えて……
「アリア……僕は……」
彼女が好きだ。それは紛れも無い真実だ。だけど、そういった恋人関係にあるべき行為が分からない。手を繋いでキスをして……どうしたら良いのかが
「分からないよ……」
あびょるぴょぴょぴょ、と夢の中で言われたんですが誰が言ったんですか先生怒らないから素直に名乗り出てください
次回、大晦日と元旦、それから先
時間を飛ばすことに抵抗が無くなった作者の暴挙をとくと観よ!




