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誕生日

そうしてあっさりと4週間が経過した。すでに街中はクリスマスムード、イルミネーションなどで色とりどりに輝いている。


「ツゲオ、何を買いに来たの?」

「さて、なんでしょう」

「うーん、エロ本?」

「なんでやねん⁉︎」


思わず関西弁になったツゲオに笑いながら人混みの中を歩いていると


「むぃ?」

「はぐれそうだし」

「そうだね」


ツゲオに手を引かれて歩く。落ち着いた雰囲気のツゲオはしっかりとエスコートしてくれた。そして


「こっちだよ」

「むぅ……一体どこに行くの?」

「内緒だよ」


今日は12月の14日。ツゲオに誘われて夕方の天神に来ている。だけど何が目的なのかは内緒だよ ってずっとはぐらかされている。恥ずかしいのかな?


「ちなみに今はどこに向かっているの?」

「どこだと思う?」

「うーん」


ツゲオの口ぶりから教える気が無いのが分かる。だったら私も聞かない、聞いて欲しくないかもしれないから。


「あ」

「お」

「……降ってきたね」

「うん、そうだね」


地球温暖化の影響で季節がおかしくなってはや10年、九州でも雪が降り積もるようになっていた。積雪量は結構多いけど東北はもっと積もっているみたい。私よりも大きいとかなんとか。


「雪……綺麗だね」

「アリアも綺麗だよ」

「……」


ツゲオはさらりと言い放った。まったく……恥ずかしいじゃん。


*****


「結局何を買いに来たの?」

「高校受験の時に腕時計が必要なんだよ」

「腕時計?」

「目覚まし時計でも良いかもしれないね」


ツゲオはおかしそうに笑いながらコーヒーを飲んで


「時計持参なんだよ」

「……ねぇ、ツゲオ」

「なに?」

「私とデートしている余裕はあったの?」

「うん、あるよ」


あるんだ、そう驚いていると


「全教科10番台だし」

「ふぇ⁉︎」

「シェリルには負けるけどね」

「シェリ姉には勝てないと思うよ」

「僕もだよ」


ツゲオは苦笑しながら露店などを眺めていると


「あ」

「……これ、良さそうだなぁ」

「うん、アリアに似合いそうだねぇ」

「そう、かな?」

「彼氏さん、彼女さんにプレゼントしてあげたらどうだい?」

「そうですね……それ、お願いします」


ツゲオはちゃちゃっとそれを買って私の髪に触れる。そのまま髪飾りで私の前髪を止めた。若干おでこが広がって今は少し寒く感じた。だけど温かかった。


「……ねぇ、ツゲオ」

「なに?」

「……なんでもない」


私の誕生日、知ってる? そう聞こうとしたけど恥ずかしい。だから言えなかった。そしてツゲオは私の頭を撫でて


「これからどうする? ご飯食べに行く?」

「……そうだね、それも良いかもしれない」

「アリア、ちょっと」


ツゲオが私の手を引いて足を止めた。そして私を見つめて……微笑んだ。


「何か不安があるんなら言って良いよ

「……不安、不安……かもね」


ツゲオと家族を天秤にかけてしまうから。かけてしまえるくらいツゲオが好きだから。そう口に出せたらどんなに良いのだろうか。私は無力だ。僕みたいに何にも負けない強い力も意思も無い、ただの少女なのだから。


*****


「アリア!?」

「え」


殴り飛ばされた。咄嗟に飛んで衝撃を逃がし、地面を転がって立ち上がる。気づいたら目の前に三つ頭の巨人が立っていた。いつの間に……?


「何ぼぅっとしているのよ!」

「アリアちゃん、調子が悪いの?」


レヴィとマモンの言葉に気づく。考え事をしていたみたいだ、と。だから深呼吸をして《悪魔龍皇剣》を構える。そのまま地面を駆けて巨人の足から駆け上がる。肩を蹴って飛び上がり、両手で握ったそれで頭から真っ二つにした。


「……遠距離系が相手するのは難しいからってこの程度なら僕じゃなくても良いじゃん」

「あー、うん。そうかもねぇ」

「でもアリアじゃないと勝てないだろうしねぇ……」


マモンとレヴィの声にため息を吐いて《悪魔龍皇剣》を鞘に収める。そのまま帰ろうかとも思っていると


「アリア、ちょっと勝負しない?」

「え? なんで?」

「なんとなくよ。理由が無いと戦っちゃダメなの?」

「……うーん、まぁ、良いけどさ」


《エクスカリバー》と《スペリオル》を抜いて頷く。光と闇の剣だ。厨二乙ってレヴィに言われた二本だ。だけど強いから良いよね、別に。


「マモン、合図出して」

「それじゃーえい」


マモンが天高く矢を射た。そして


「今のが落ちてきたら開始ね」

「えー」

「随分とかかりそうねぇ」


レヴィと苦笑していると空から矢が降ってきた。それと同時に


「《解放リベレイト》! 電磁加速銃レールガン!」

「っ!?」


高速の弾丸を剣で弾こうとしたけど失敗した。そして吹き飛ばされて地面を転がった。


「立ち上がろうとしたけどやめた……一体アリアちゃん、どうしちゃったの?」

「分からないよ……分からないんだよ……」


マモンの言葉に呟いているとレヴィが《ハーディス》をハーネスに吊り下げてため息を吐いた。


「世界最強がこの体たらく、酷いものね」

「まったくだねぇぇぇ……」

「世界最強になったからってアリアちゃんは変わらないなぁ」


マモンは呆れたように呟いた。それはまったく同意見だった。


*****


そしてあっさりと3日が過ぎた。


「動くな!」

「大人しくしろ!」


唐突だけど私は誘拐されたっぽい。なんて言ったら良いのか分からないけどこういった時、咄嗟に何も出来ないもんなんだね。とりあえず抵抗をしないでいると車に乗せられたようだ。目隠しされているから何も分からない。


「……」


ちくちくとする何かが横腹に押し付けられている。ナイフか何かかもしれない、そう思っている。だから何もしないし何も出来ない。そのまま黙っている。


確か学校帰りに急に襲われたんだよね。ツゲオは何か用事があるとかで一人で帰って、と言われた。残念だ、と思い俯きながら歩いていると襲われたんだっけ。


「はぁぁぁぁ」


思わず深いため息が出た。今日は12月17日、誕生日だ。そしてそんなにでこんなことが……誕生日に誘拐されるなんて初めての経験だよ。や、そもそも誘拐されるほうが珍しいのかもしれないけど。


「降りろ」


不自然な機械音声に従って降り、背を押されて歩く。何かしらの扉が開いた音が聞こえて……


「「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」」

「へ」


目隠しが取られた。眩しさに目を細めていると直美と瑠璃、亜美と流沙、シェリ姉……そしてツゲオがいた。よく見るとここは……白織屋だ。


「……え」

「ごめんね、驚かせちゃった?」

「直美……ひょっとしてさっき誘拐したのって……」

「うん、私」


驚いた。そう思っていると


「みんなでこっそり計画していたのよ」

「そうなんだ……ありがとう、みんな」


みんなは思い思いに笑って


「おめでとう、アリア。13歳なんだね」

「ツゲオ……うん」


ツゲオの手が僕をそっと抱きしめる。嬉しい、そう思うと何故か涙が出た。みんなにおめでとう、と言われたその気持ちが抱きしめられたことで溢れ出したんだと思う。


「ありがとう……本当にありがとう!」


涙はずっと止まらなかった。だけど止まらなくても良いかなって、素直にそう思えた。

アリアちゃんももう13歳かぁ……誕生日、おめでとう

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