《春雷》と《無銘》
「アリア、マモンたちを負けさせたのはアリアの指示ですね?」
「うん、そうだよ」
「なれば私は彼女たちの望み通り、アリアと全力で剣を交わしましょう」
エカテリーナはそう言って腰の鞘から《春雷》じゃない細剣を引き抜いた。紗蘭と涼しげな音を立てるそれは僕が作った時よりも強そうに見える。きっと頼れる鍛冶屋がいるんだろう。
「やっぱりエカテリーナもそうなんだね」
「アリアは?」
「僕は……秘密だよ」
二刀流よりも片手剣が強い、僕がそう言うとエカテリーナは微笑んで問い返してきた。だけどそれには応えない。
「知りたいなら剣で聞きなよ」
「そうですわね」
カウントは残り10秒も無い。だから剣の柄を握って
「っ⁉︎ 一体何を⁉︎」
「さてね!」
『start!』
「くっ!」
「ちょいやっ!」
僕の投げた剣を目で追ってしまい、苦し紛れの突きが放たれた。それは僕の肩を貫く軌道だけど
「なっ⁉︎ 素手だったのに⁉︎」
「あは」
剣を投げる。そのまま降ってきた剣をキャッチして斬りかかる、と見せかけて投げる。降ってきた剣で斬りかかる。
「ジャグリングーー⁉︎」
「お手玉って言った方が日本人的に伝わりやすいよ」
「知ったこっちゃありませんわ!」
神速の突きをギリギリで降ってきた《エクスカリバー》の剣身で弾く。
「一体何本の剣を……?」
「エカテリーナは一刀流だけどさ」
悪いね、
「僕のは24刀流、勝てるかな?」
「……ふっ」
エカテリーナは満面の笑みを浮かべて
「突破します」
「それは僕の台詞だよ」
「……《悪魔龍皇剣》は使わないの?」
「あはは、それは後でのお楽しみさ!」
14本の剣を次々に投げる。それを走りながらキャッチし、斬り付ける。とりあえずエカテリーナは次々と僕の剣を打ち落としているけど
「手数が多過ぎる!?」
「にゃはははは!」
突きを突きで逸らして蹴りを放つ、さらに続けて真上から降り注ぐ剣がエカテリーナを襲う。そのまま連続して攻撃していると
「14本の剣と11の身体での攻撃……合計25刀流ね」
「あはは」
エカテリーナは間違いを口にした。それを笑いながら両手で振ってきた《シルフィード》を握って……逆手に握りなおす。速度を求めよう。
「また速く!?」
「エカテリーナ、着いて来ているじゃん」
「無論!」
エカテリーナは焦ったように言ったわりにはさらに速度を増した。そのまま剣と細剣が切り結んでいると
「……そろそろ全力を出さないかな」
「そうですね……《悪魔龍皇剣》は結局使わないんですね」
「うん、だってアレは僕たちだけの剣だ。こんな場じゃ使わないよ」
「……意味が分かりませんね」
エカテリーナは微笑んで剣を鞘に収めた。そして《春雷》を引き抜いた。さらにそのまま剣の装備を解いて身を軽くした。僕も一本の剣を残して全ての武器の装備を解いた。
「その剣は一体……? 《細剣》……のように見えますが」
鍛冶屋スキルを習得していないのか僕の剣が何か分からないようだ。それを抜いて
「この剣はエカテリーナのために作った剣。エカテリーナに勝つために作り上げた剣だよ」
「それは……随分と買いかぶられていますわね。私を倒すがためだけに作り上げた剣だなんて……」
《無銘》を腰の鞘から引き抜いた。そのまま片手でエカテリーナの首に向ける。エカテリーナも《春雷》を僕の首に向けた。そして――同時に駆け出した。
「っし!」
「はっ!」
真下から切り上げる《無銘》が真上から振り下ろされる《春雷》を弾き返した。思っているよりも強い力だったからカウンターは出来なかった。それはエカテリーナも同じようだ。
心臓を狙っての突きを剣で切り払い、カウンターで回し蹴り。それは細剣の柄に受け止められてカウンターでの柄殴りを剣で逸らして
「やっ!」
「ふんっ!」
最速の突きが、エカテリーナの手の甲を刺し貫いた。決して小さくない衝撃がエカテリーナを襲ったはずなのにエカテリーナは笑みを浮かべた。罠だ、《無銘》が抜けない!
「あふん」
蹴り飛ばされた。だけどギリギリのタイミングで《無銘》を引っ張ったから抜けた。小さくないダメージが僕とエカテリーナにはある。今のペースだと大分長くなる、だからなんだって言うんだ。ルールで回復無しじゃなくたって僕らはきっと回復しない。
「エカテリーナ」
「アリア」
お互いに呼びかけ、同時に剣を振るった。本来の細剣とは違って耐久がかなり高いから斬ることにも使える。何で僕はあんなに強い細剣を無償であげたんだろう……何か欲しかったなぁ。
「ん……」
「ふ……」
高速での剣戟に寄る火花が僕たちの顔を明るく照らした。
*****
「今の……何があったの?」
「分からないわよ……」
「8連撃……以上だったわね」
「23連撃よ」
「相変わらずチート臭い速度だなぁ」
マモンの言葉に驚く。すると
「本当に驚くべきなのは今の剣戟、どっちからも攻めていたってことよ」
「え?」
「アリアもエカテリーナも攻めていたの」
「……あの一瞬で?」
「お互いが攻めて、それがうまい感じで相殺したのよ」
「正直言って今の2人には勝てないわね」
「誰もね」
マモンとレヴィの言葉に同感だ、と思いながら眺めている。もう、僕とアリアの力量差が大きいってのは分かる。僕も強くならないと……
*****
「はぁぁぁぁっ!」
「せやぁぁぁぁっ!」
一瞬だけの交差でお互いが吹き飛ぶ。地面を転がり、その勢いで立ち上がる。そのまま駆け出して《無銘》を振り上げる。エカテリーナの目がそっちを向いた瞬間に蹴りつける。虚を突かれたエカテリーナは体勢を崩す。そこに《無銘》を振り下ろした。残り体力……4割くらいだ。それに対してエカテリーナの体力は3割強。僕のほうが少しだけ優勢だ。
「っち!」
「にゃ!」
突きを逸らす。それが僕の頬を掠めるのを感じつつ、突き返す。さらに続けて殴りかかるけど手に逸らされてカウンターでの柄殴り。地味にダメージを受けた。だけど
「カウンター!?」
「にゃははは!」
柄殴りの反動で体を回転させて首を狙う。《致命的位置》を狙った剣は後ろの下がることで掠る、に留められた。だから前に出て首を突く。それは正面からの突きと相殺して一瞬剣身が撓んだ。とりあえず切り上げて距離を取った。さらに続けて
「秘剣星の型ーートライヴェール!」
三連斬を放つ。それはエカテリーナの驚異的な反応速度で全て切り払われたけど隙がある。今のをスキルで対処してくれたんならもっと大きな隙だったんだけど……!
「行くよ!」
「来なさい!」
全力で駆ける、その途中に
「《解放》ぉぉぉ!」
「《リベレイション》!」
二本の剣が輝きだす。その軌道は目視不可能なほどの速度だ。僕とエカテリーナの軌道が重なるその瞬間……風を切る音一つ。そして火花。同時に剣を振るった結果、火花が舞い散る。そんなのに気を取られないで
「やぁぁぁぁぁ!」
「せやぁぁぁぁ!」
二本の剣が再び交差し――僕とエカテリーナに大きなダメージを与える。そして――
チン
と、音を立てて《無銘》を鞘に収めた。
世界大会節、完結ーー
そして三章は次回らへんで完結します
今現在作者は二百話記念に《魔王の傘下》の創立の話を書こうと思っています
はい、ネタ切れです
それでですね、作者がネタを思いつかない場合時間を飛ばしても良いでしょうか? と、皆様に聞きたいのです
一件の意見でもそれに左右されるので是非とも意見をください
次回は11月の16日以降から




