マモンとレヴィの選択
「さてと」
杖を沙羅と音を立てて構える。そのまま詠唱を開始する。
選ぶは《雷魔法》、使うは広範囲滅殺スキル《雷による消滅》だ。
「我が友へのあの仕打ち、その身をもって悔いなさい」
「……」
相手プレイヤーは無言で剣を構えているーーそして
『start!』
「《ライトニングバニッシュ》8192!」
「なっ⁉︎」
その手の剣が閃いて何発かが消された気がする。だけどそんな些細なことはどうでも良い。ただ圧倒的な威力で殲滅するだけなのだから。
「ふん、他愛もない」
*****
「怖、シェリルマジ怖」
「あっははは!」
「あはは!」
マモンと2人で爆笑しているとレヴィがため息を吐いて
「二勝一分、ね。私とマモンがーーすれば良いのね」
「うん、お願い」
「ま、ギリギリまではやるわよ」
「ほいほい」
レヴィはそう言って準備完了し、光に包まれて転移した。転移した先の映像を見た感じだとパルテノン神殿みたいな構造の建物だ。
「レヴィ、勝つよね?」
「え」
「……アリア、レヴィが勝つって思っていないの?」
シンの言葉に慌てて首を横に振って
「レヴィは強い。大体のプレイヤーには負けないって信じているよ」
「そうね、レヴィは凄いもん」
「マモンも凄いけどね」
「あはは、アリアちゃんに褒められちゃった」
「あはは」
一緒に笑っているとシンは苦笑いをしていた。そして
「僕はレヴィは勝つって信じているし、負けないって信じているよ」
「嘘⁉︎ レヴィが負けた⁉︎」
僕の言葉を掻き消すように映像を眺めていたシェリ姉からそんな悲鳴が上がった。それにマモンと頷く。予定通りだ、と。
「それじゃマモンも」
「はいはーい、負けてくるねー」
「うん、よろしく」
「アリアちゃん⁉︎ 何を言っているの⁉︎」
「何って言われても……頼んだだけだよ?」
*****
「んっん〜」
弓の弦を弾く。矢はつがえていない。だから射られない。
「アリアちゃんのお願い通りの敗北をする、っと」
「何を言っているんですか?」
「戯言よ」
《捌式にゃんにゃんボウ 肆》を構えて微笑む。そしてカウントが終わり
「《フルバースト》!」
「へっへーん、《解放》」
4本の弓が合わさったそれから闇色のオーラが溢れ出す。そして総銃撃を全て受け止めた。
「嘘でしょ⁉︎」
「うふふ」
矢を番えて
「避けられるなら避けてみてね」
そっと小声で呼びかける。それに反応したのを確認して矢を放った。
*****
「避けられるなら避けてみてね? 何を言っているのかしら」
「マモンが楽しんでいるよ。だったらもう勝ったも同然だよね」
「でもアリアちゃんはマモンに負けて欲しいんでしょ?」
責めるようなシェリ姉の言葉に苦笑して
「エカテリーナのためだよ」
「え?」
「僕と彼女はお互いに全力で戦うって約束しているんだ。ちょっとでもエカテリーナがやる気を削ぐ要素があるんだったらダメだからね」
「だからってレヴィとマモンを負けさせるの⁉︎」
「レヴィの負け方、どんなのだった?」
「普通に……避けなかった?」
シェリ姉は驚きに目を見開いた。そして
「本気でアリアちゃんと……エカテリーナを全力で戦わせるためだけに!?」
「うん、それにレヴィはあの攻撃じゃ全損していないよ」
「え」
「レヴィは最後に銃で自分を撃ったんだからね。レヴィは自分で自分を倒したんだよ。だから装備を落したりはしていないんだよね」
「……なら良いのだけど。レヴィもそれで良いの?」
「もちろん。アリアとエカテリーナの全力を見るほうが有意義だもの」
いつの間にか戻ってきていたレヴィはそう言って笑った。ちなみにエミリアは自作のアクセサリーをドロップしたようで「リカバリーできるね」と頷いていた。
「マモン、相変わらず性格の悪い戦い方ね」
「マモンだからね。マモンが僕たち以外に負けるところなんてありえないし」
「そうね」
映像の中でマモンの弓が漆黒に飲み込まれた。そのまま連射している。だけどその矢は弓からは放たれていない。背後から、真下から、真上から、右から、左から、縦横無尽に矢が放たれる。
「カゲオのスキル、《影転移》だね。アレを使って全方位からの射撃だよ」
「チートじゃないの……」
シェリ姉が苦笑している中、マモンの矢が相手プレイヤーを壁に張り付かせた。動けないように、抵抗できないようにして
『ナイスファイト』
そう言って自爆した。うん、予定通りだ。
*****
「マモンとレヴィは自爆……? あの二人に限ってミスはありえませんし……」
少し考える。ありえそうな可能性を、ありえない可能性を。そしてーーとあるカーマインの髪のプレイヤーの顔が頭に浮かんだ。私と彼女の実力は拮抗している、それならば私と全力で戦いたいと願うのは彼女のはず。つまりマモンとレヴィはアリアの命により、あえて敗北したと。
現在は二勝二敗一分、アリアの考えが容易に読めますね。
「良いでしょう、私と全力で戦いたいのですね」
「エカテリーナ……」
「私たちが勝っていれば……!」
「ふん、何を言っていますの? 最強達にここまで戦えている時点で十分私たちは強いですわよ」
「でも手加減されて……」
「結果こそ全てですわ。この世界大会で優勝するのは私たちですよ」
「……エカテリーナ」
「心配せずとも勝ちますわ」
負けない。アリアに負けない。アリアに勝つ、そして世界一の座を得る。そのためにここまで勝ち上がってきたのだから。
まぁ、正直個人戦だったとしても一切不安がありませんが。アリアたちには苦戦を強いられそうですが。
「エカテリーナ、頑張れよ」
「ええ」
「負けないでね」
「もちろん」
「優勝しようね」
その言葉に頷いて仲間を見回して
「行って参りますわ」
『準備完了』をタップした。
*****
「はいはい、アリアちゃん。しっかり負けてきたよー」
「うん、ありがとうね、マモン」
「それで? エカテリーナとの戦う準備は万端かな?」
マモンの言葉に笑って頷く。だって
「僕はいつ誰と戦ったって万端のつもりだよ」
「そっか、だったら最高の戦いを繰り広げてきてね」
「うん、そのつもりだよ」
「勝ちなさいよ」
「分かっているってば」
「無茶はしないでね」
「シェリ姉に言われたくないよ」
「応援しているからね」
「ありがとう、エミ姉」
「……」
シンは無言で僕を見つめていた。そしてその表情は柔らかい笑みを浮かべた。
「好きなように」
「うん」
『準備完了』をタップしようと思って手を上げる。……だけど下ろして
「マモン、レヴィ、ごめんね」
「んー?」
「らしくない」
「あはは。でも二人を僕のわがままで負けさせて悪いと思っているんだ」
「気にしないで良いんじゃない? 私は別に気にしてなんかいないし」
「私もよ」
「そっか……そうなんだ、ありがと」
僕は無意識のうちで笑みを浮かべていたようだ。だから、そしてーー
「僕が最強で、みんなで最強だ」
みんなが何かを言うよりも早く『準備完了』をタップして……光に包まれた。そして
「ようやく、ですわね。アリア」
「うん、そうだね」
エカテリーナは不敵な笑みを浮かべていた。
次回、雷と洋紅色の風の剣舞
洋紅色はカーマインの日本語表記っぽいアレ
ついにひらがなにふりがなをつけられるようになりましたドヤァァァ
……なんで今まで出来なかったのか分からん




