依頼
10月18日日曜日、天神駅の近くにあるミセスドーナツでポンデリングを齧る。甘くて美味しい。向こうで作ってみよう、そう思っていながらサングラスにマスクの不審者が座っている近くの窓の外を眺めていると
「こっちでも同じ容姿なのね」
「……アリス?」
「うん」
なんと言うか、大人っぽい雰囲気の女性が向かいの席に座った。眼鏡にスーツの美女だ。目付きは柔らかい。
「初めまして、有栖です」
「苗字?」
「はい」
「二階堂です……うん、普通にアリアって呼んで」
「ではアリスで」
アリスは飲み物とチョコ系のドーナツを頼み
「予定の時間までは結構ありますね」
「この時間を指定したのはアリスじゃん」
「そうですね」
苦笑しているアリスから目を外す。そのまま4人の姉に目を向ける。大丈夫、と伝えたくて。
「……シェリル?」
「うん、シェリ姉」
「リアル姉妹なのね……と、するとあれは《魔王の傘下》のメンバーかしら」
「うん」
直美と瑠璃、亜美とシェリ姉を見てアリスは呟き
「挨拶したいけど良いかな?」
「好きにしたら?」
今ポンデリングで忙しいし。はむはむ食べているといつの間にか空白だった4つの席が埋まっていた。
「あれ?」
「移動しただけよ」
「ふーん? なんで?」
「妹が歳上の女性とちゃんと話せるか心配なのよ」
シェリ姉の言葉に過保護だなぁ、と思いつつ嬉しくもなる。しかし
「直美と瑠璃と亜美は暇だったの?」
「うん」
「そうよ」
「卒論以外ね」
「しなよ、卒論」
「あとは清書するだけ」
亜美はそう言ってコーヒーを一口飲む。そして端っこの方にいるサングラスにマスクの不審者に目を向けた。そして
「柘雄」
「にょわっ⁉︎」
ツゲオ⁉︎ 確かにサングラスとマスクを外したらツゲオだった。
「なんでバラすかなぁ……」
「アリアには不審者としか思われていなかったからよ」
亜美の言葉にツゲオは苦笑して
「それでどうして僕は連れてこられたの?」
「さぁ?」
「……帰りたい」
嘆くツゲオにみんなで笑っていると
「あ」
「そろそろ時間ですね」
「んじゃ私たちは行って来るね」
「はいはい」
*****
ツゲオは大学生三人組に連れられて買い物らしい。それはともかくとしてアリスと優さんの会話がそろそろ15分を越える。暇だ。
「レベルデータには不備がありません。ですからアイテムとしては存在しています」
「そうなんですね」
「経験値アイテムはそもそも存在しています。もっともそれは限りなく厳しい条件下で作成されるのですが」
「どんな条件なんですか?」
優さんは私をちらりと見て
「経験値のカンスト後に経験値を入手することで結晶化します。ですから《悪魔の肝》の根幹はアリアさんが討伐した現在最強モンスター、《悪魔龍皇》の際の経験値が結晶化したものだと思われます」
「え、私が?」
「はい、あの時既に経験地の使い道がなく溜めていましたよね?」
「うん」
「それがカンストし、オーバーした分が結晶化するはずでした。おそらくその際に結晶が《悪魔の肝》化したのでしょう」
そうなんだ、そう思っていると
「とりあえず現在はデータを改竄した者を探しています。ですが現在ソーニョは昼ですが……夜になればまた《悪魔の肝》を狙うプレイヤーが出るでしょう」
「そうですね」
「ですからお二人に、そしてアリアさんたち《魔王の傘下》に公式に運営として依頼を出します」
「僕たちに?」
「はい。《悪魔の肝》を狙うパーティより先に対象モンスター《悪魔》を狩り、他のプレイヤーに入手させないようにしてください」
*****
「ふん、現在存在する町は16個、か。俺たち全員を合わせても一人足りないな」
「魔王、どうするの?」
「一日に一体しか出現しないらしいからな……転移アイテムを使うのもありだが……」
「あのさ、それなんだけど一時的にアリスをメンバーに加えられない?」
魔王は驚いたような目を僕に向ける。他のギルドホーム内のみんなもだ。
「なんでそんなに驚くのさ?」
「……お前、変わったな」
「そうかな?」
「ああ」
魔王は頷いて
「構わん。だが俺たちはそのプレイヤーを知らない、どんなプレイヤーなんだ?」
「アリスは《悪魔の肝》の第一人者よ、彼女の力があれば出現場所を調べるのも簡単と思うわ」
「そうか」
魔王は一瞬目を閉じて
「悪魔、か」
そうポツリと呟いた。
「悪魔がどうかしたのか?」
「いや、俺たちの名前の由来を少し考えていた」
ブブの言葉に元々は魔王を名乗っていなかったプレイヤーが苦笑した。それに悪魔勢が笑い、後発組がわけが分からなそうだ。説明をしないで眺めていると
「アスモ」
「分かってるよ、絶賛調べている」
「そうか」
「アリアの店ではそういった情報は流れてこないのか?」
「うん、流れては来なかったね」
本人が、アリスが教えてくれたから。そう思いながらアリスをギルドへ勧誘していると
『なんで?』
と、返ってきたから
『《悪魔の肝》の依頼を一緒にするから』
そう返すと、少し時間が経って
「アリスが入るってさ」
「そうか」
魔王はそう頷いて
「現在ソーニョの時間は午後5時半、夜まで30分しかない。全員別の街へ移動を開始するぞ」
「はーい」
「そうね」
「了解」
「オッケ」
「分かった」
「あいよ」
それぞれが返事をしながらギルドホームから出て行くのを見送っていると
「アリアはアリスに指示を出してくれ」
「うん、そうだね」
《星が見える丘》は僕が対処する。アリスはその一個前の街、《山と山の狭間》だ。そうメールを送ると了解の二文字が送られてきた。
「ん、この時間帯でもプレイヤーが多い」
街中で辺りを見回しているプレイヤーが多過ぎる。悪魔狙いのプレイヤー達だろう。とりあえず《アストライアーの慈悲と慈愛の羽衣》をローブにし、顔を隠す。名前を調べれば分かるだろうけど
「一瞬だけ分からなければ十分だ」
闇の大剣を背中に差して街中をこそこそと歩く。そして時間が経ち、明るい蒼の空が一瞬で黒に染まった。夜だ。
「いたぞ!」
「追え!」
「町から追い出せ!」
その声に反応する。そのまま地面を蹴って壁に着地、壁を蹴って民家の屋根の上に飛び乗る。そのまま低姿勢で駆けて
「見つけた」
屋根の上をひょいひょいと跳ねている人型の黒いモンスターが。名前は《悪魔》、捻りも何も無い。あ、《悪魔》って闇属性だから《スペリオル》じゃ効き辛いや。そう思いながら装備を変更する。《龍牙刀》、無属性の物理特化刀。エミリアの《天魔斬刀 弐》よりも強い。
「《居合い・神風》!」
高速で飛び、一閃。このスキルは速度と威力はあるけどその後防御力がガクッと下がる。それで《悪魔》の背中を切りつけて町から弾き出す。地面に落下し、立ち上がる《悪魔》に向けて
「《雷針》!」
雷のような高速での突き、それは《悪魔》の心臓を貫いた。しかし倒せなかった。《致命的位置》が違う? そう思いながら首を刎ねると
「こっちは合っているんだ」
《致命的位置》を斬られた《悪魔》が光となって消えるのを確認して
「ギルドホームに」
転移した。
今日はパソコンで予約投稿しています
やり慣れない……
三章恋愛編《悪魔の肝》節みたいな区分を脳内でしていてみたり
世界大会までが三章です
そこから先はネタ切れでそこまで行くのもネタ切れという
いっそ時間をすっ飛ばすかな




