悪魔の肝
「あ」
聞き覚えのある名前からの武器作成依頼があった。アリスwithテレスからだ。だけどおかしい。彼女の実力じゃここまで、《星が見える丘》まで辿り着くのは不可能だ。
「……んー、考えてもせんなきこと、かな」
チートの可能性を感じたけど……ま、噂にも聞かないから良いかな。とりあえず彼女の扱う武器は鞭、依頼品も鞭だ。
「鞭は皮系を使うんだよねー」
鞣を使うから倉庫の中でゴソゴソやっていると
『ちゅう!』
『にゃー!』
「むぃ?」
にゃーって……にゃんこ⁉︎
「どこ⁉︎」
探す。足音は上の階から。音を立てずに階段を駆け上がり
「にゃーん!」
『ふぎゃっ⁉︎』
『ちゅう⁉︎』
いた。ちゅう吉を壁際に追い詰めている。その顔は僕を見て驚いている。
「にゃんこー!」
「てい」
「あふん」
マリアのチョップが僕の頭を打つ。文句を言おうとするとにゃんこがマリアの腕の中に飛び込んだ。むぅ。
「マリアのテイムモンスター?」
「うん」
「……テイムモンスターの限界って三人までだよね?」
「多分ね」
うぅむ、と悩みながら室内を眺める。壁際のベッドでスヤスヤ丸く寝ているルフ。そのフカフカなお腹で寝ているひよちゃん。そこに疲れたようにして転がり込むちゅう吉。
3人とも家族だから手放せない。
「マリア、にゃんこ触らせて」
「にゃんこ……? アリアって実は幼いの?」
「失敬な⁉︎」
「じゃあ何歳なのさ」
「12」
「……(幼いじゃん)」
12月に誕生日だし……もうちょっとだ。その前にハロウィンがあって世界大会がある。色々と盛りだくさんだ。楽しみだ。
「ロシアのエカテリーナとか楽しみだなぁ」
「誰それ?」
「金髪ツインドリルのレイピア使い。おほほって感じで笑いそう」
「完全に強さ目的じゃない……」
マリアのぼやきは聞こえなかった。
「また、戦うことになると思うんだ」
「え?」
「何度か戦ったからねぇ、同名の別人じゃないと良いけど」
鞭を作るための素材を倉庫から取り出して
「それじゃ、僕は作ってくるからね」
「はいはい」
鞭の作り方は柄と身の二つを組み合わせるだけだ。だから皮の素材を選ぶ。str高めって依頼だから《炎王龍の鞣革》を使おう。そうこうしているうちに《ウィップ》が完成した。名前は後でアリスに任せるとして聞かないといけないことがある。だけど
「私たちは何をしているんだろうね」
「え?」
「マモン、考えたことは無い?」
「なにを?」
「今いる私と、リアルの私、どっちが本当なのかって」
台所から聞こえてきたその声に一瞬動きが止まった。すると
「VRってのは良くも悪くも現実に干渉している、だから私たちはリアルでも変わった、でしょ?」
「……そうね」
「どうするの? このまま変革を眺めているだけなの?」
レヴィの言葉の意味が分からない。そう思っていると
「……VRのおかげで変わった人もいるよ」
「そうね」
「アリアちゃんも彼氏できたし」
「「ぶっ」」
台所のレヴィと同時に噴き出した。それにマモンが気づいたのか振り返って
「聞いていたの?」
「うん」
「……変わったって良いことだと思う?」
「悪いことだけじゃないとは思うけどね……」
マモンは寂しそうにそう笑った。
*****
「あのさ、アリス」
「はい?」
「どうやってそんな早く強くなれたの?」
「え?」
アリスが顔を出したと同意に聞いた。だけどアリスは戸惑いをすぐに消して
「悪魔狩りですよ」
「……悪魔?」
「知らないんですか、悪魔を?」
知らない、そう言うとアリスは驚いて
「アリアさんが原因って言うか現象の理由なのに変な話ですね」
「……どういうこと?」
「アリアさん、悪魔に関する何かを倒したりしませんでした?」
「悪魔に関する何か……あっ」
あった。今は装備していないけどその遺品を僕は持っている。悪魔龍皇だ。それを僕が倒したから何かが起きている……?
「説明して欲しいんだけど」
「町のどこかで悪魔って呼ばれるモンスターが出現するんです」
「街の中で……ダメージ受けないじゃん」
「相手は街の外に逃げ出すからそれを追いかけて狩る、するとドロップアイテムで《悪魔の肝》をゲットできるんですよ」
「《悪魔の肝》……?」
「食べると10レベル程度の経験値が手に入るんですよ」
何そのチートアイテム、そう思ったら
「あんまり噂を広めていないけど本当に広まっていないんですね」
「……ん? 噂を広めていないの?」
「はい、稼げるんで」
一瞬、どうしようかと思った。すると
「アリアさんも広めないでくださいね」
「……うん、それは構わないよ」
「それで鞭ができたんですよね? 見ても良いですか?」
「あ、うん」
とりあえず初期名前を渡すとアリスは笑みを浮かべた。綺麗な笑みだ。
「アリス、僕は君にそんな方法で強くなって欲しくないなぁ」
「え?」
「誰でもそうだよ。レベルを上げることに固執してPSを磨かないのは間違っていると思うんだ」
「……アリアさんがそれを言いますか?」
「うん、僕だからこそ言うよ」
「強いあなたがなんでそんな上から目線で言うんですか?」
アリスの目は冷たかった。それに一瞬ビクッとして
「僕は自力でレベルを上げた、だから……アリスも」
「出来るわけないじゃないですか」
「え」
「《最強》だからって誰もがそこにいけるなんて思わないでくださいよ」
「アリス……」
「ソーニョではもうアリアさんが《最強》だって共通認識になっている。だから私はあなたを倒したい」
「あ、うん。どうぞ」
挑んでくるなら正面から倒す、そう思っていると
「アリアさんがレベルをどこまで上げているか知らないけど、いつか追いついて倒します」
「うーん、追いつくのは難しいと思うよ?」
「どうして?」
「もうカンストしたし」
「え?」
「カウンターストップしちゃったもん」
*****
それからなんやかんやあった結果
「鞭相手で戦うのは初めてだなぁ」
「そうですか」
新しく作った鞭でピシリ、と地面を打ってアリスは僕を見据える。とりあえず《悪魔龍皇剣》を抜いて両手で構える。そのまま
「おいでよ、アリス」
「言われなくても」
レベル1000を越えたらしいアリスは笑った。あの時はレベル300にも満たなかったのに……凄い成長だ、そう思いながら振られる鞭を避ける。前に出るのは危険だ、そう思いつつ《悪魔龍皇剣》で鞭を払い除ける。さらにそのまま背後へと回り込もうとすると
「《ウィップトルネード》!」
「秘剣華の型ーー露草!」
正面から十字切り。それは鞭と激突してお互いを逸らした。やっぱりだ。1000程度のレベルじゃない!
「10レベル程度ってのは嘘だね」
「嘘じゃないですよ、今では伸びが一回で10になるってだけですよ」
「つまり元々はもっと高くなれた、と。なるほどね……」
驚きだ。驚きながら《悪魔龍皇剣》を振るって鞭を逸らして真上から振り下ろす。しかし
「《ウィップシールド》! からの《巻きつき》!」
「え」
鞭が盾のように丸まり、剣を防いだ。そしてそのまま《悪魔龍皇剣》が巻きつかれた。
アイテムで経験値ってたまにあるよね
ふしぎなアメとか
とりあえず次回の展開はアリスの続きです
ちなみに実は三章を終わっても良いかなって思っていました
三章を恋愛編と言ったからにはキスで終わるべきかなって
とりあえず世界大会が終わったら4章に入る予定
ひよちゃんぴよぴよぴよこっこ〜♪




