キス
「で、空を飛ぶために装備を作る、と」
「うん」
「無理だと思うわよ」
「でも試す価値はあると思うんだ」
レヴィは僕の言葉に苦笑して、頭を撫でた。どうしてみんな僕の頭を撫でるのかなぁ……不思議で不思議でしょうがないや。
「チャレンジャー精神を忘れないようにね」
そう言ってレヴィはいつの間にか習得していた《料理》スキルを使いに台所に降りていった。
とりあえず思考を戻す。空を飛ぶ、ではなく浮く。それなら武器の能力として《浮遊》がある。だからそれを利用しよう。
「うーん、浮遊剣はロマン武器だったなぁ」
空を飛ぶ、という思考は開始3秒で逸れ始めていた。それにアリアは気づかない。気づかないまま色々呟いて
「浮遊剣を纏めて……《飛び道具》スキルで飛ばしたら範囲攻撃になるかも」
「何言っているの?」
「んー? 浮遊剣の使い道を考えているの」
「え? レヴィは空を飛ぶ方法を考えているって聞いたけど?」
「あれ?」
そう言えばそうだった、と頷いて
「浮遊剣はお預けだね」
「ま、それはアリアの自由でしょ」
マリアの言葉にうむうむ、と偉そうに頷く。それにマリアは苦笑して室内を見回す。すると
「随分と物が増えたね」
「だって掃除しなくて良いもん」
「でもしなさい」
「えー?」
「し、な、さ、い」
1文字ずつ区切って強調された言葉に気押され、アリアは一歩後ろに下がった。そして
「うわっ」
「自室の壁に激突って……腑抜けた?」
「かもねー、なんたって日本一だし」
「……出たかったなぁ」
マリアがボソリと呟き、アリアの表情が暗くなる。すると
「日本一のチームの誰かに勝てば僕も強くなったって言えるかな?」
「元クレーマーが二つ名持ちなのにまだ弱いと思っているの?」
「まだ足りない、って感じかな」
マリアの上昇思考にアリアは歳に似合わない笑みを浮かべた。慈愛のような表情……
「なら僕に挑む?」
訂正、慈愛の表情ではなく好戦的な笑みだ。それにマリアは一瞬驚き、目を閉じた。そして
「アリアはラスボスっぽい感じ。いつか挑むけどね」
「カモンベイベー」
「アリアの方が歳下でしょ」
*****
さて、何故こんな第三者視点なのかと言えば今現在、アリアたちの生活は注目の的であり、圧倒的な知名度を誇る。そしてそれをテレビが見逃すわけもなく
「あ、ここカットして」
「どうして?」
「リアルの話題だから」
「オッケー」
どうして僕が自分たちの生活を眺めているのか、もう3度目になるこの思考を切り替える。すると
「しかしアリアちゃんも全国的な有名人になっちゃったね」
「うん。今日もそれでお店に来たプレイヤーが勝負を挑んで来たよ」
「勝った?」
「当然」
当然なんだ、って呟いているのを無視して眺めていると
「あ、ここは私情を挟んでいるからカットして」
「はいはい。ところでさ」
「んー? なに?」
「後でインタビューしても良い?」
「なにの?」
「世界大会へ向けての意気込みとか。どうせ全国大会は楽だったんでしょ?」
バレテーラ。
「意気込みかぁ、特に無いや」
「そうなの?」
「それにするとしたら僕一人じゃないよ、みんなにしないと」
「それもそうだね。アリアちゃんの口から伝えてくれると助かるなぁ」
「うん、分かった。時間があったら連絡するから」
そのまま歩いてログアウトポイントに。ここは珍しくログアウトを自由にすることは出来ない。だから守衛さん(アバター)と挨拶をしてログアウトする。そのままデバイスを外して、10分後、寝ることにした。明日から月曜日の学校だ。
「と、言うわけでおはよう」
「何がと、言うわけなんだ?」
「モノローグだよ」
ツゲオはふーん、と笑って
「今日は荷物が多いね」
「うん、体育があるからね。ツゲオはいつも通りみたいだね」
「うん」
ツゲオと手を繋ぎつつ、信号を待つ。少し肌寒くなってきているからその手はとても暖かく、気持ちが良い。それにツゲオの手は柔らかくてふにょふにょ触っていると気持ち良い。
「アリア、信号変わったよ」
「ん、あ、うん」
「何か考えていたの?」
「うん、ツゲオの手が気持ち良いなーって」
「……アリアの手も気持ち良いよ」
言って、2人で同時に恥ずかしくなって顔を赤くする。そして二人同時にそれを笑った。
「アリアー! 遅刻するよー!」
「あ、きり」
「え、もうそんな時間?」
ツゲオの言葉にスマホの画面で確認すると
「……走った方が良いかもね」
「うん」
2人で同時に駆け出す。そしていきなりの赤信号で止まる。そして隣で佇む追い抜いて行ったきりがため息を吐いた。
「おはよ、きり」
「おはよ、アリア。江利先輩もおはよう御座います」
「おはよう」
二人がおなざりな挨拶をして、信号が変わった。それと同時に三人で駆け出す。校門をギリギリの時間で潜り、坂道をゆっくりと登る。校門の閉まる時間が早いだけで始業の時間には、ホームルームには時間がある。だから登っていると
「アリアと江利先輩ってキスしたの?」
「「えっ!?」」
「キスしていないの?」
きりの言葉に慌てて……うん、
「間接キスなら」
「舐めてんのかテメエ」
「え!?」
「間接キスはキスに入らん! 唇を重ねてからがキスだ!」
謎の断言、それにツゲオが苦笑して
「僕たちはまだ恥ずかしいからね……」
「うん」
「ヘタレどもめ」
「……ねぇ、きり。キャラ変わってない?」
「気のせい」
それなら仕方ない、そう思っていると
「……キス、かぁ」
「……私とキス、したいの?」
「……まぁ、そうだね」
ツゲオの素直な言葉に笑い、近寄る。そのまま目を閉じて唇を突き出すと
「え!?」
ツゲオの焦ったような声、驚いたような声に笑い出しそうになりながら一歩近づく。抱きしめるようにして、私を支えるツゲオ。しかし中々来ない。だから目を開けて
「ツゲオ、目を閉じて」
「……アリア……」
「早く」
目が合っていると緊張して、キスできないから。ツゲオは自分からキスするのが無理みたいだ。だったら僕からだ。
「好きだよ、ツゲオ」
「僕もだよ」
その後、キスをしていたのをガン見していたきりにからかわれ、それに文句を言っていると3人で仲良く遅刻した。先生に怒られたのは大して気にもならなかった。
*****
「アリア、何をしているの?」
「え?」
「それは一体……?」
「あ、これは他の国の大会の録画データ。確認してみる?」
頷くツゲオ、それに頷いてイヤホンを穴に挿す。そのまま片方を耳の入れてもう片方をツゲオに渡す。耳に入れたのを確認して動画を再生する。
「どこのサーバーが残っているんだっけ」
「アメリカと中国、ロシアとローロッパ、アフリカに東アジアに英国だったかな」
ツゲオの言葉に頷いていると、その頬が私のに触れた。それに驚いているけど離れない。離さないし、離れない。
「……ねぇ」
「なに?」
「なんだか強そうなプレイヤーがいないように見えるんだけど」
「……個人レベルならいるんだけどね」
「ロシアのエカテリーナとか?」
「うん」
そのまま昼休みはツゲオと一緒に寄り添って動画をずっと見ていた。ちなみにシェリ姉から食堂でいちゃついていたって言われた。
ファーストキスがマモンとツゲオってかなり複雑っぽく見えて実際単純という
安心と信頼のネタ切れ
とりあえず次回の予定はあるけど……といった感じなのでアイデア募集中




