ラーメン屋
「アリアかよ……よりにもよってお前なのかよ……」
「あはは、ベルが一番面倒な相手だからね」
深いため息を吐くベルに笑って
「行くよー」
「あ、ちょい待ち」
「なんで?」
「……」
「時間稼ぎなら「だから待て⁉︎ 落ち着いて話をしようじゃないか」
発砲音が聞こえる中でベルは両手を広げて
「まずは座れよ、俺も座るからさ」
「や、僕が座ったら隙になるじゃん」
「お前に? ありえねー」
ま、そうだけどさ。とりあえず手頃な岩にちょこんと腰掛けて
「それで?」
「セプトからの頼みがあってな。お前のデータの計測をするから他のみんなが戦いを終えてからにしてくれ」
「ふーん? 僕のデータを計測したいなら僕に言えば良いのに」
「中学生に頼めるかってさ」
「だったら大学生に頼むの?」
「……そういやそうだ⁉︎」
ベルは今さら気づいたみたいだ。そして
「マジかよ……みんな早くね?」
「むぅ?」
「もう残りは俺一人ってさ。一応アリアと一対一で戦うってみんなで決めていたから手出しは無いだろうけどさ……」
「でもセブンスドラゴニックライオネルソードとルシファーは普通だったよ?」
「あいつらは別のチームだったからな」
ベルはゆらり、と立ち上がって
「それじゃそろそろ良いかね?」
誰に問うでもなく呟いて
「行くぞ、アリア」
「うん!」
地面を蹴る。低い体勢で懐に飛び込む。その瞬間、爆発が起きた。
「っ⁉︎」
「《エアースライサー》4096!」
次々と飛来する風の刃を斬り刻む。だけどきりがない。きりだけに。
「しょうもないなぁ! 《獅子の咆哮》!」
《レグルスハウル》だと反撃範囲が狭いから広範囲反撃の《獅子の咆哮》で纏めて風の刃を消し飛ばした。だけど安心は出来ない。全てを消し去ったわけじゃないんだから。
「っ!?」
「っとお!」
前に出る。風の刃の弾幕を掻い潜る。腕は振らなくて良い。防がなくても良い。ただ、全力で避け続けるだけで良いんだから。
「嘘だろおい……」
「えへへ!」
「褒めてねえよ!?」
剣は抜く必要が無い。武器は体だけで良いんだから。だからただ前に出るだけで良いんだ。
「《エレメンタルブラスト》8192!」
「無駄だよ!」
視界全域を埋め尽くさんと迫る四属性の《ブラスト》、それを同時に放つ《エレメンタルブラスト》、それが8192だから……多分3万ちょっと。だけどその程度なら気にもならない!
「少しくらい止まれよ!?」
「やーだーよっ!」
「ちくしょぉぉ!」
一発ずつ一気に避ける。それだけで纏めて地面を穿つ。ホーミングが無いからこそ出来る芸当だ。だけどベルは逃げるようにして僕を誘導する。そこに向かって四方八方から降り注いでいる。だから飛び込むのに躊躇する、そう思ったら
「大間違いだ!」
「嘘だろマジで!?」
「嘘なのかマジなのかどっちなのさ!?」
「知らねえよ!」
《ブラスト》は火炎放射器みたいな魔法だ。だからと言うのもあれだけど避けやすい。
ベルの魔法を掻い潜り蹴りつける。その衝撃で下がったベルヘドロップキック。そして起き上がりざまに蹴り上げる。そして浮いた体へ飛び膝蹴り。苦笑している顔のまま、ベルは全損した。
*****
「データの計測結果は!?」
「出ました!」
「映像の録画は!?」
「問題ありません!」
「それでは明日の五時までに纏めたデータを送ってください!」
「「「「「はい!」」」」」
あの場にいない旦那の顔が一瞬見えた。その顔は笑っていた。
「坂崎」
「……舞宮さん、どうしました?」
「いや……あの場にいたかったな、と思いまして」
「有給を何度か取っているからですよ」
達也は笑って
「アリアへの依頼の方は?」
「既にメールを送りました……もっとも今はソーニョのほうなのでメールを確認していないと思いますが」
「説明の際は俺も手伝いましょうか?」
「そうですね、お願いします」
「それとアリア一人では十分なデータが取れないかもしれません、三人はいたほうが良いと思います」
サンプルデータは多いほうが結果が増える。しかし
「今回のは試験的に行うため深く物事を考えないアリアさんが良いと思うんですが」
「それには同意ですが……」
「大丈夫です。その心配も分かりますが……亜美さんと直美さんにも依頼メールを送りました」
「え、もう?」
「はい」
アリアさんたちが受けてくれるのならば心配は少ししかありません。いえ、それでも心配なのですが。と、言うかアリアさんが一番心配なのですが……彼女が一番向いているのに心配という矛盾……
*****
「結局決勝は内輪で、その結果アリアたちが優勝、か」
「いつも通りの結果だな」
真央の言葉に頷いてラーメンを啜る。うん、美味しい。
「でもさ、流沙は今日暇だったの?」
「ああ。卒論の題材は決まって既に下書きを終わらせたからな」
「それじゃあまだかかるぞ」
一度卒論を終わらせた真央の言葉に流沙の動きが止まる。さらに
「私はもう書き終わったけどね」
「凄えな……」
「お姉ちゃん終わらせたんだ……」
亜美の言葉に流沙はため息を吐き、ツゲオが驚く。そして
「美味しいわね」
「うん、そうだね」
「それよりもアリア、これからどうするの?」
「え?」
「優さんからの仕事よ」
「あー、あれね」
呼び出されたのは来週の日曜日。安心と信頼の休みの日だ。ちなみにパソコン部は僕一人になって潰れた。元から休日に部活無かったけどね。
「私は受けるつもりなんだけど」
「あ、それ私もー」
直美がそう言ってスープを飲み干した。だけどさっきまで塩胡椒や紅ショウガとか色々入れていたけど大丈夫なの?
「アリアちゃんは行かないの?」
「話しだけなら聞きに行くつもりだけど……」
内容が一切不明瞭なのが不思議だ……有産ならしっかりと説明してくれると思ったんだけどなぁ……
「アリア、受けないつもりなの?」
「内容を一切知らないんだけど」
「そうなんだ。私たちのほうはお手伝いって書かれていたけど」
「……もう少し待て。後10分もかからんらしいからな」
何が? そう思ったのは僕だけじゃないようでみんな疑問の表情だ。するとラーメン屋の扉が開き、暖簾を潜ってスーツ姿の男が。
「らっしゃい。いつもの?」
「ああ」
店主さんと話してこっちに歩いてきた。そして食べ終えた流沙が空気を読んで席を移動した。
「久々だな、アリア」
「やっほ、達也。優さんはいないの?」
「あいつは仕事が長引いているようだ」
ふーん、と思いいつつラーメンを食べる達也を待つ。五分以内で食べ終わったのには驚いた。
「まずアリアたち3人にはうちの会社の中のデバイスを使ってVR空間に入ってもらう」
「ソーニョじゃないの?」
「完全に別の、と言うか0から作り上げた空間だ。そこでとある実験が行われているんだがそれを手伝って欲しい」
「とある実験って?」
「まだ明かせない……と、言うか本来ならそれを口外するのもダメなんだがな」
達也はにやりと笑って
「アリア、世界への貢献をしてみたくはないか?」
「え、なんで?」
……あれ、何でだろう。ラーメン屋の中が物凄い沈黙に包まれちゃったんだけど。
弟にこれ音読された死にたい
次回の展開は各々予想してみてください
そして安心と信頼のネタ切れ




