キス
「むぅ」
「どうしたの?」
「さっきからシェリ姉だけ戦っているじゃん」
そう言って頬を膨らませるアリアちゃん。その頭を撫でて杖を降ろす。
「ならしばらくアリアちゃんに任せようかな」
「おっけー!」
ひゃっほー、と言いながら蹴りで次々とモンスターを倒していく。その姿はまるで不審者だ。
「アルカ、レイヴン」
『きゅ?』
『かぁ?』
「少し下がって。アリアちゃんが突っ込んでいるから」
レイヴンが肩に留まった重みを感じつつ、アルカを指輪に戻す。そのままレイヴンも戻す。所詮は虚構の中の存在なのに愛おしく思える不思議な存在だ。
「不思議、かぁ」
この世界に存在する何もかもが不思議だ。そう思っていると
「やっ、たっ、てやっ!」
モンスターを足場にして連続蹴りをしている妹が何よりも不思議な事に気づいた。
*****
悩んでいる。とても悩んでいる。どうしたら良いのか悩んでいる。その結果
「シン師匠! 告白の仕方をお教えください!」
「え⁉︎ マモン⁉︎」
「お願いします! 何卒!」
「と、とりあえず顔を上げて! 人がいるから!」
そう言って土下座な私を起こし、奥の部屋に連れ込んだ。
「積極的ね……アリアちゃんには内緒にしてあげる」
「何の話⁉︎ 浮気なの⁉︎」
「そうよ!」
「ええ⁉︎」
シンが驚いているのを笑って……
「告白の仕方?」
「うん」
「誰に」
「流沙に」
「誰?」
「ベル」
「はぁ」
「ベルフェゴール」
「……はぁ」
シンがため息を吐いて
「普通に好きって言えば良い」
「そこをなんとか! アリアちゃんに告白したシンを見込んで!」
「え、アリアから聞いていないの?」
何をかな?
「アリアから告白……みたいな事をしてきたんだけど」
「マジで⁉︎」
「うん」
「あのアリアちゃんが⁉︎」
「マジマジ」
ええ〜? 信じられな〜い。
「キスはしたの?」
「ぶふっ」
噴き出して噎せている。まったくもう、汚いなぁ。
「どうしてシェリルと言いキスを勧めるんだ……」
「したくないの?」
「え?」
「アリアちゃんのあのぷっくりとしたピンク色の可愛くて艶めかしい唇に何の魅力も感じていないの⁉︎」
だとしたら許せん。戦争だ。
「……察して」
「ほほう」
頬を朱に染めるとは……中々のむっつりだ。むっつりスケベの可能性が現れてきた。今度エミリアに聞いてみよっと。
「ならアリアちゃんと今月中にキスしなさい!」
「なんでシェリルと同じ事を言うんだよ……」
「第三者だからこそ分かる事もあるのよ」
アリアちゃんが実はシンが近くにいる時手元がおろそかになったり目でずっと追いかけているのも知っている。台所から見えるスペースだとしてもだ。
シンもシンでチラチラとアリアちゃんを眺めているのは知っている。溺愛カップルなのよ。
「男なら男らしくキスしたいって言いなさい!」
「……」
「それとまだ性的な行為をしたらダメよ。したらボコボコにするから」
「それは分かってるよ」
「ついでにエミリアにも教える」
「全力で我慢します」
「ま、貧乳だからそういった感じの事は無いだろうけどね」
シンが何もないところでこけたのは見なかったことにしておこうかな。
*****
「んー?」
ダンジョンの奥にボスっぽいのがいるのは良いんだけど……何かが変だ。
「ここのボスってこんなに弱そうだっけ?」
「さぁ? 全滅したパーティがダメージを与えていたんじゃないの?」
「なるほど!」
シェリ姉の言葉に納得しつつ壁から壁に跳ぶ。そのまま巨大な蝙蝠を蹴り落とす。
「《ライトニングボルテックス》」
単発で雷がシェリ姉から発射。そして巨大な蝙蝠を射貫き、その身を痺れさせた。動かない。だから蹴り倒した。
「そろそろ帰ろっか?」
「うん、そうだね」
シェリ姉の言う通りさっさとダンジョンから出て
「お願い、レイヴン」
「来て、ひよちゃん」
《召喚師の腕輪》を装備しているとどこかにいる自分のテイムモンスターを呼び出せる。エミリアの作品だ。
そのまま頭に着地したひよちゃんが大きくなって僕を乗せる。シェリ姉もレイヴンに乗っている。
「うーん、やっぱり綺麗な世界ね」
「うん」
「現実にはあり得ない……だからこそ最後の年に出会えて良かったと思うわ」
「え?」
「高校生になったら時間が無くなるだろうからね……だからこそ私はこれがのんびりと楽しめる最後だと思うの」
シェリ姉……
「アリアちゃん、シンが好きなんでしょ?」
「……うん」
「シンも卒業する、私も卒業する。だからその前にシンとちゃんと仲良くするのよ?」
「言われなくてもするもん」
「キスは?」
「うっ……」
まだ恥ずかしいもん……
「9月中にはキスしてね」
「……シンは多分嫌って言うもん」
それが怖いから言い出せない。
「シンが好きだから……嫌って言われたくないの?」
「うん」
「恋愛舐めてんの? 嫌われる覚悟も無しで恋愛してんじゃないわよ!」
怒鳴られた。ひよちゃんから落ちそうになりつつ
「……」
「キスしたら嫌でも進む事になる。だからって怖がっていちゃ恋愛なんて言えないわよ」
「……今は?」
「馴れ合いよ。好きなら好きって言いなさい! そしてキスくらいしなさい!」
「……」
……あぁ、もう。
「やっぱりシェリ姉は凄いよ」
「え?」
「僕が進めなかったのにあっさりと進ませてくれる。シェリ姉は凄いよ」
「……ありがと」
「好きだよ、シェリ姉」
嘘偽りない僕の本心だ。するとシェリ姉は微笑んで
「頑張ってね」
「うん!」
*****
「ツゲオ、ちょっと良い?」
『うん、良いけど?』
「少しだけ……話したくなったんだ」
夜中に電話をかけると出てくれた。それだけで嬉しくなった。
「……」
『……? 何かあったの?』
「うん」
『聞いても良い?』
「シェリ姉に説教された」
『何かしたの?』
「うーん……しなかった、かな」
『え』
ツゲオが絶句しているので勢いのままに
「今度、キスしよ」
『え⁉︎』
恥ずかしくて電話を切った。
「むぁぁぁぁ~!」
恥ずかしさのあまり叫んでしまった。すると
「五月蝿い」
「ごめん……シェリ姉」
隣の部屋から苦情がやってきた。
*****
「おおおおおはよう、ツゲオ」
「おはよう、アリア……」
いつもより言葉数少なく通学路を通り過ぎた。そのまま昇降口を通り過ぎて階段で別れて教室に。人数少なくなった教室にため息を吐きながら席に着く。すると
「おはようさん」
「……おはよ、きり」
「テンション低いね、どうしたの?」
「……キスしたいの」
「え」
キリが驚いているけど私も驚いている。何故こんなに素直に言っちゃったんだろ……
「ねぇ、きり。キスってした事あるの?」
「無いよー、だけど知識ならあるよ」
「あっそ……」
「とりあえず最初っからキスするのはアリアにとって難易度が高いと思うよ」
「えー?」
「だからまずは部屋に連れ込んだほうが良いと思うんだ」
え……私の部屋にツゲオを連れ込むの……? それはちょっとまだ難しいって言うか恥ずかしいって言うか……
「まぁまぁ、存分に悩みたまえ、若者よ」
同い年だよね?
アリアちゃんのファーストキスはすでにマモンが済ましている
キスって肉と肉の接触だからロマンも何も無いよね
互いの体温くらいしか分からないし
何が良いのか今だに分からない高校三年の冬
我がリア友の書かれた小説なり
興味があればどうぞ
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