ヘタレ
「瑠璃ー!」
「何よ直美」
「今日はバレンタインデーだよ!」
「……で?」
「流沙に上げないの?」
「出来るわけないでしょ⁉︎」
「ふーん。ちなみに作者は0個だって事前に心の準備をしているわよ」
「切なっ⁉︎」
「ツゲオ、手ぇ繋ご」
「え」
驚いた。するとアリアが手を差し出してきた。少し恥ずかしいけどその小さな手を握る。
「えへ」
「……」
上機嫌に笑うアリアを見ているとこっちまで気分が良くなる。しかし、そうは問屋が卸さなかったようだ。
「その子江利くんの何なの⁉︎」
「ん?」
「え、僕の?」
唐突なヒステリックな叫びに、アリアがビクッと震えた。伝聞で知った……囲まれた時の事を思い出したのかもしれない。
「彼女だけど?」
「っ⁉︎ 嘘でしょ⁉︎」
「本当だよ」
アリアを隠すように立って言う。するとその女はアリアを睨んで……走って校舎の方に行った。一安心。
「……大丈夫?」
「……うん、ありがと」
そう言って見せた笑顔は悲痛だった。とてもアリアの普段見せる魅力的な笑顔とは程遠かった……
*****
「ツゲオ、お弁当って自分で作ってるの?」
「ううん、お姉ちゃんが」
「亜美かぁ……料理上手そうだもんね」
「うん」
学食の隅で二人向かい合って昼ご飯を食べていると
「アリアちゃん、江利くん、一緒しても良い?」
「構わないよ」
「良いよー」
シェリ姉の言葉に2人で頷いて
「江利くん、君はシンで良いのかな?」
「……あなたはシェリルで良いのかな?」
「「はい」」
2人で同時に頷いて
「とりあえずアリアちゃん、どうも不穏な状況よ」
「え?」
「江利くんは人気だしね、その彼女ってだけでも不興を買ったし、さらには……なんたら君にもラブレター貰ったんでしょ。しかもそれは公言されちゃったし」
漢字は忘れたけどヤタ先輩だね……
「刺されてもおかしくない立場よ」
「っ!?
シェリ姉の真っ白な肌に残る歪な傷が目に浮かんだ……私のせいだ……
「落ち込んでいるの?」
「思い出しただけだよ……」
舌打ちしそうになるのを堪えて僕はため息を吐く。すると
「そんな顔は似合わないよ」
「むぅ……」
頭を撫でられた。それだけで嬉しくなっちゃえる……まったくもぅ。
「えへへ」
「うっわ……なんでそんなに江利くんにべた惚れなのよ」
「さぁ……」
「ほんっと、江利くんのことが好きなのね」
「うん!」
「……大好きに訂正するわね」
シェリ姉の言葉に笑っていると
「どうでも良いけど今の視線はあんまり良いものじゃない、それだけは気付いていてね」
*****
「帰ろっか」
「うん」
ツゲオと並んで歩いている。閑静な住宅街に人影は無い。
「アリアって好きな食べ物とかあるの?」
「んー? 触感グニュッ系意外なら大丈夫だよ」
「苦手なものはあるんだ……うん」
シンが笑った瞬間、足音が聞こえた。咄嗟に振り向くと
「え……」
白く光ったそれが目に入った。ナイフ……いや、包丁?
「山姥?」
「いや……それは無いよ」
ツゲオが表情を硬くして……
「とりあえず……逃げよう」
「うん!」
2人で揃って走る……だけど僕は走るのがあんまり得意じゃない。だからこそ
「追い詰められたね……」
「……アリアだけでも逃げて」
「や、多分狙われているのは私だから。ツゲオは逃げて」
前に出る。顔を隠しているけど多分女っぽい体……チッ、巨乳か。爆ぜろ。
僕を目掛けて突き出される包丁。それを避けようとするけど体が反応してくれない。ギリギリ体は切られなかった。制服が少し切れた程度だ。
「危ないなぁ!」
すれ違うように走り
「あぴょっ!?」
こけた。そんな僕に躊躇無く振り下ろされる包丁を地面を転がって避ける。蹴られた。痛い。そして
「シネ」
「っ!」
無常に振り下ろされそうになる包丁に身を竦めているとツゲオが女を突き飛ばした。
「逃げるんじゃなかったの!?」
「あ、そう言えばそうだった」
地味に痛い体を動かして走る。途中、ツゲオがどこかに連絡をしていた。多分警察だ。これで一安心、そう思ったけど
「っ!?」
「アリア!?」
背中に何かが刺さった。痛い痛い痛い痛い痛い!? 包丁が投げられた!?
「ああああああ!?」
「く……なんでこんなことをするんだ!?」
「……」
向こうは応えずに……もう一本包丁を取り出した。
「抜くよ」
「ダメ……出血量が増えるから」
ゲーム知識だけど大体あっているはずだ。ツゲオもそれに頷いて……僕の前に立って女と向き合った。
「なんで逃げないのさ」
「……さぁ?」
不明瞭な答えに苦笑しているとサイレンが聞こえた。しかしそれを気にせずに女は包丁を持ってツゲオを憎憎しげに睨んでいる……気がする。だって顔見えないもん。あれ……なんだか眠くなった来ちゃった……お休みー。
「……むぃ?」
どこここ? まったく知らない部屋だ……どこここ?
「おはよう、アリアちゃん。気分はどう?」
「……お母さん……ここは?」
「病院。帰ってくるのが遅いと思ったら事件に巻き込まれているなんて……」
巻き込まれているというか当事者というか……
「彼氏くんは帰らせえたわ」
「そっか……ありがと」
「とりあえず手術も縫うだけだったらしいわ。だから明日、遅くても明後日には退院できるそうよ」
「そうなんだ……」
「にしても痴話げんかっぽい感じなのね。いつの間にそんな大人の階段上っていたの?」
驚いて噴き出しそうになり、痛みが。背中が引き攣ったような痛みだ。
「……今何時?」
「夜の九時半、晩ご飯は抜きよ」
「えー」
「そう言える元気があるなら大丈夫そうね……アリアちゃん、今日はしっかり休みなさい」
「はーい」
*****
「江利くん、助かったわ」
「二階堂さん……本当に?」
「え?」
「アリアが傷ついたのは僕のせいじゃないのかな?」
困ったように呟く江利くん。とりあえずため息を吐いて
「あの子は自分のせいだって思ってるわよ」
「……僕のせいだと思うんだけどね」
蹴った。遠心力を乗せたハイキックは肩を打ち、彼を床に転がした。
「それ以上ふざけた事を言うのなら……分かるよね?」
「……はい」
「アリアが大好きなのが江利くんで江利くんが好きな子は知らない」
「……僕が好きな子?」
「アリアが望んだから応えているだけじゃないの?」
それが気がかりだった。あの子が本気なのに相手がそうじゃないのなら……悲しいから。
「好きだと思ってないんじゃないの?」
「……そんなことはないよ」
「ふぅん?」
「好きで好きで堪らないけど……分からないんだ」
「何がよ」
「好きなタイプじゃないはずなんだ……なのになんでこんなに好きなのか分からないんだ」
は?
「歳上のほうが好きだったはずなのに……」
「……思春期拗らせてんじゃないわよ」
呆れしかなかった……
「私は江利くんとアリアちゃんにくっついて欲しいと思うわよ」
「……」
「きっとアリアちゃんはべた惚れもべた惚れなのよ」
「そう……かもね」
「好きなんでしょ。なら好きって言えば良いじゃない」
ヘタレめ。さっさと好きって言えば良いじゃない。
「両想いなんだからさっさとくっつきなさい」
「ん……」
「そして9月中にキスぐらいしなさい!」
「ええ!?」
「なによ、嫌なの?」
……なにもじもじしているのよ。
「そりゃしたいけどさ……まだダメじゃない?」
ヘタレめ。
130話ですよ
長続きしているなぁ……
今回までリアル多めかな?
一章を『魔王の傘下』、二章を『PK』としたら三章は『恋愛』的な感じになる
10月くらいまでこの章じゃ
だがツゲオ、貴様にアリアちゃんはやらん!
次回予告
退院したアリアがログインすると新たなイベントが
全プレイヤー参加のトーナメント
それに勝ち残った6名が参加出来る全国大会が始まろうとしていた……




