需要を高めてお金儲け
「え、昨日そんな事があったの?」
「うん、アリアってば凄かったよ」
「ふーん、見たかったなぁ」
僕は目の前で3人がキャピキャピ話すのを眺めながらうどんを食べる。麺がもちもちしている。香川の讃岐うどんはもっと美味しいのかな。
「ねぇ、アリア」
「……何?」
「私たちも今日は一緒しても良いかな?」
「……マモンに聞かないと。僕はマモンと個人的に親しいけどきりは気まぐれだと思うから……難しいと思う」
「うん、それじゃ一緒にレベリングする? それとも進める? クエスト受ける? スキラゲする?」
マモンは思いの外あっさりと受け入れた。
*****
「あ」
唐突にマモンが虚空を見つめてポツリと呟いた。そしてメニューを開いて
「……そっか、もう大会か」
「え?」
「大会?」
「みんなは知らないかもしれないけどね、このゲームだとPVPの大会はよくあるの」
「へぇ」
「アリアちゃんは出るでしょ?」
「うん」
そんな物があるなら。
「多分そろそろ通知が……来たね」
マモンの言う通り、通知が来た。『メッセージが届きました』、とりあえずメニューを開いてそれを確認したら大体マモンの言う通りだった。景品と経験値が入るがアイテムドロップは無しだって。
「パーティ制もあるんだ」
「時間は別々だから両方出ようよ」
「僕とマモンで?」
「ううん、きりちゃんと鳥ちゃんとアカネちゃんの5人で!」
……
「ま、問題無いよね?」
「何でさ?」
「だってアリアちゃんは最強だもんね? 足手纏いの百や二百問題無いよね?」
「……そうだね」
マモンの挑発とは分かっていても乗るしかない。それだけ僕にとって最強という言葉は重要だから。
「いや、百もいねーし」
「あはは……」
外部からの言葉を無視して
「大会は今度の土日に連続して行われるのね」
「うん、アイテムの持ち込み可能だからポーションが高く売れるよ」
「マモンは物理錬金術士だもんね」
僕の言葉に頷くマモン。とりあえず僕もポーションは作れるけど素材を持っていない。
薬草と水を錬金術すれば作れるらしい。それと入れ物が無いと『完成!』『びちゃっ』『ロスト!』の虚しいコンボらしい。器の中ですれば良いんだけど液体だからこぼれる。その飛沫でも回復するらしい。
「伝聞系ばかりで自分では一切調べてないや」
「アリアちゃん、薬草ある?」
「さぁ?」
探査のスキルと鑑定のスキルのどちらかがあればフィールドにあるアイテムの名前が分かる。だから薬草や雑草、トリカブトなどとある中から薬草だけを選んで採る。採って採って採りまくりーの
「小瓶をたくさん買い込んだねー」
「二百だけだよ?」
あの時のパーティを壊滅させた際のお金と元々のお金を合わせて、それでも半分しか使っていないけど。そして川まで行ってポーションを量産する。しかしここで素晴らしき大きな誤算。
ポーションという液体は小瓶一つに収まるほどの量じゃなかったのだ。その場で木を削って器を作りーの中にポーションを作りーの小瓶に入れーのしていたらポーション(小瓶)が2スタック出来た。しかも薬草にはまだまだ余りがある。
「ちなみにポーションを使うにはアイテム画面からオブジェクト化して飲む必要があるからね?」
「地味な面倒だね」
「だから基本このゲームはパーティプレイなの」
マモンは小瓶を出してポーションを汲んで三人に渡している。三人はお礼を言ってインベントリに収納した……?
「あれ? マモンってただであげてるの?」
「ううん、ちゃんとお金は取ってるよ」
「……ポーションの相場は?」
「そうだねー、二百くらい?」
「で、今売ったのは?」
「20」
「「「え」」」
三人は途端に気まずそうな表情になる。それにマモンは頷いて
「これからも顧客になってもらうからねー?」
「狡っからい手を使うなぁ」
「えへへ、アリアちゃんに褒められちゃった」
「褒めてない」
僕の言葉を無視してマモンはその大きな胸に僕を押し付ける。抱き寄せるとも言う。しかし
「案外高く売れるんだね」
「んー? それはね、NPCはポーションをこれの倍の値段で売る上に限りがあるんだよ。入荷したら話は別だけど基本4時間ごとに新しいのが売られるんだけど」
「すぐに売れちゃうんだね」
「そういう事」
三人から感嘆の声が聞こえる。つまり
「僕も1スタックくらい売るかな?」
「うーん、それならオークションの方が良いんじゃないかな?」
五分後
「わ、30k越えてる」
「うーん、私もオークションに出品しようかな?」
「マモンは固定客を求めて三人に安く売ったんでしょ?」
「まーねー」
あ、35kになって40kになった。
「40kなら良いかな?」
「期限はいつ設定なの?」
「あと30分後」
「うん、ならしばらくポーション作りに専念する?」
幸い小瓶は在庫切れは無い。だから作ろうと思えば金のある限り作れる。
「えっと今日は水曜だよね?」
「うん」
「んー、やっぱりレベリングにしとこっか?」
「僕は異論無いけど」
「私も」
「私もです」
「同じく」
*****
僕たちは次の街、シェリー街に来ていた。ここはシェリー川の近くらしいけどその理論だと最初の街もシェリー街だ。
「うーん」
僕たちはここのお店を見て回る事になったけど
「鉄装備が平然と売ってあるね」
「あ、そのNPCはプレイヤー委託のだね」
「つまり?」
「プレイヤーがNPCにこれ売ってって頼んで売り上げの一部を渡すの」
「……いや、オークション」
「アリアちゃんならすぐに前線に行ってバカ売れすると思うよ?」
僕の思考を読んだかのようにマモンは微笑む。そして
「鉄の矢が売ってるね……買おうかな?」
「マモンは今は木の矢で問題無いから十分じゃないの?」
「ううん、PVPの大会だと防御を固めた盾役に攻撃高めた剣士パも珍しくないからね」
「……ソロでどっちも知ってるプレイスタイルのような気が……」
僕の言葉を笑ってる誤魔化すマモン。ま、良いけどね。
「僕は鉄の剣を使うから問題無いよね?」
「うん、そうだね。それよりそろそろオークションの終わりじゃないかな?」
言われてメニューを開くと残り五分。そしてラストスパートなのか3人のプレイヤーが競っている。もはやちまちまと四桁を出さずに五桁区切りで上がっている。そう、今の金額は6桁まで上がってあ、7桁に昇格した⁉︎
「メガじゃん……」
「え、嘘。そんなに⁉︎」
「どうしてだろ?」
「うーん、大会って分かったから出品する人がいなくて、そんな時にたくさん売りに出されたから?」
マモンはうんうん、と頷いて
「大会、激戦になりそうだね」
「うん、これって多分本気で狙う人たちだね」
「うーん、やっぱり私も1スタックだけ出そうかな?」
「ううん、それは良いよ」
「どうして?」
「僕たちが最強だって証明するためには勝たないといけないからね」
「つまり?」
「供給をギリギリまで絞って需要を高めて開始直前にオークションが終わるようにしよう」
僕の黒い言葉にマモンも黒い笑みを浮かべてハイタッチ。すると
「何か良い事でもあったの?」
「きりちゃん、お金儲けは大事だよね?」
「はぁ……そうですけど?」
きりは一切事態を飲み込めずに混乱していた。
ポーションはそもそももそもそ液体です
それが瓶に入ってようやく一般的なゲームのポーションになるわけですよ
つまりポーション風呂ってのも出来ます
入るだけで回復する……どこかのゲームの泉みたい
勝つためにオークションで競り落とすのではなくオークションで競り落とすためにアイテムを売らせたりするのが最後の2人の黒い笑み
言葉足らずは後書きで補足