久々のカーマインブラックスミス
「リンクイン!」
久しぶりに私から僕へと切り替わる感覚。そして……
「あ、お帰り」
「お帰りなさい」
「お帰り」
「おかー」
「お帰り。バイト増えたよ」
「ただいまーってバイト?」
エミリアの言葉に疑問を感じた。僕がいない間に何かあったのかな?
「どの子?」
「今は地下でひよちゃんたちに指示を仰いでいるわ」
「さすがひよちゃんだね」
僕よりも強くなっているっぽいひよちゃんたちに呆れも喜びも嬉しさもある。親ってのはこんな気持ちなのかなー?
「……っ⁉︎ お前は⁉︎」
「……どうも」
「……」
「こんにちは」
「あ、うん。こんにちは……じゃなくて⁉︎ え⁉︎ 嘘⁉︎ 何で⁉︎」
『ちぃ!』
ひよちゃんの声に振り向くと
「浮気⁉︎」
「え⁉︎」
『ちぃ⁉︎』
シンの頭の上に乗っているひよちゃん。そのまま僕の頭の上に飛び移って来た。久々の感触だ。
「やっぱり僕が正妻」
「誰の⁉︎」
「ひよちゃんの」
「雄だったのか……」
『ちぃ⁉︎』
呆然とした呟きに笑いながら一旦落ち着いて
「で、エミリアの言っていたバイトって君で良いの?」
「はい」
「……エミリアが良いって決めたなら良いかな」
「……ありがとうございます」
「それとここの店では敬語は禁止」
ひよちゃんの嘴を撫でて……違和感に気付く。弱くなっている……気がする。力が抜けているような感じだ。
「……ステータスが軒並み下がっている……」
「今回のアップデートでテイムモンスターのステータスなどの調整があったんですよ」
「……へぇ。それは中々遣る瀬無いね。それよりもシン、スキルはとったの?」
「あ、はい。僕が習得したのは《付与》です」
「なるほどね」
完成品に後付け出来るスキルだ。仲間に鍛冶師がいればかなり強くなる。
「だったら僕もいずれ手伝ってもらおうかな」
「……いずれ」
「はは」
ルフとちゅう吉が寝ているのでそっと撫でてカーマインブラックスミスのステータスを開く。
カーマインブラックスミスに限らず店のステータスには在庫と金庫内のお金が表示される。儲けから給料を引いたら残りは全額金庫行きだ。他にも色々とアイテムも入れている。ちなみに僕専用金庫だ。
「……ポーション系が以外に余っているね」
「マリアとアジアンが量産していますから」
「そう言えばそうだったね……とりあえず注文はどれくらいあるの?」
「200ちょいよ」
「レヴィ?」
「ほら、さっさと頑張りなさい」
レヴィは僕がいない間に《錬金術》をあっさりと手放して《濃縮還元》というスキルを引いたらしい。それのおかげで《濃ポーション》とかがカーマインブラックスミスのラインナップに加わった。
「はーい」
素材持込で期限が早いのを選び、まずは片手剣を作ろうとする。jpgファイルを開いて造形を確認。すると何故かシンが僕の手元を見つめていた。
「そんなに見つめられると緊張するんだけど」
「あ」
「そんな風に見ても靡かないよ」
「巨乳派だから大丈夫」
それはそれとしてイラッとした。なんで巨乳ってあるんだろうね。爆ぜろ。
「素材は《ミスリル》だけなんですか?」
「うん。付与して高くなるのが嫌なんじゃないの?」
「なるほど」
シンを無視して炉にミスリルを入れる。10秒かかるのでその間にアップデート内容を纏めた掲示板を探す。見つかったけど温め終わったのでトングで掴み、台に乗せる。そのまま《真アスタリスクハンマー》を取り出して振り下ろす。必要回数、と文字が表示された。アップデートの影響かな、と思いつつ振り下ろす。
「……アレ」
振り下ろすたびに感覚が違う。成功したって感じと普通な感じで揺れ動く。製作系のスキル全般にこんなことが起きているのかな?
「……出来たけど……」
シンに投げ渡す。シンはそれを眺めて
「普通……ですね」
「うん」
「これを売るんですか?」
「うーん……やり直すかな」
焼いてやり直し。再び必要回数が表示された。しかしさっきよりも数字が増えている。一体何事なんだろう、と思いつつ打ち終えると
「さっきより良くなってますね」
「理由が分かんないけどね」
「精錬じゃないんですか?」
そーかもねー、と頷きつつ次の注文を見ると
「ふんふん、シンの剣に似ているね」
「……」
「注文したプレイヤーの名前もシンかぁ。面白い偶然だね」
「それ……僕です」
「剣、折れたの?」
「お姉ちゃんと討ち合った際に……」
「お姉ちゃん?」
よく分からないけどあの剣が折れるって事はかなりの相手だったんだろうなぁ、と思いつつ注文を眺める。片手長剣と刀の二種類武器、そして夜明け色にして黄昏色……中々面白い注文だ。jpgファイルは多分スクショから切り抜いたような感じだ。
「付与素材はstrとagiねぇ……被るなぁ」
「誰とですか?」
「僕……って言うか君、そんなキャラだったっけ?」
「へ?」
「もう少し『殺そー』みたいな雰囲気だったような気がするんだけど」
バツが悪そうに顔を逸らされた。自覚があったんだ……
「心を入れ替えたって感じなのかもしれないけどさ、いつか何があったか説明して欲しいな」
素材の持ち込みは無く、料金も特に指定が無かったから存分に使う。高くしてがっぽり取ってやる。アレでもそのお金からシンたちの給料が出るんだから……んー? なんだかぐるぐるしていそう。
「よし、素材は《星獅子の爪》に《星獅子の牙》をベースに。そこに色々注ぎ込むかな」
中々無い注文で少しテンションが高くなっている。シンに目を向けると頷かれた。
「後払いは無しだからね」
「分かってますよ」
敬語が抜けないシンに呆れつつ鋭利な刃物と見紛う《星獅子の爪》と人参のような太さの《星獅子の牙》を加熱する。30分と表示されて驚く。
「……」
「……」
「ねぇ」
沈黙に耐え切れずに話しかけると驚かれた。僕を何だと思っているんだ。
「シンはさ、給料の話ってどうなっているの?」
*****
「ちゃんと説明しなよ……」
「そうね」
「ご迷惑をおかけします……」
エミリアに聞いたら無給のつもりだったらしい。いくらなんでもそれは酷い、って言ったら良いの、と言われた。何が良いのさ。
「それにエミリアも刀の製作の依頼があるし……一体何があったのさ」
「一言で言うなら頑張った」
「なら良いかな」
「どこが良いんだよ……」
ボソッと呟いたマリアを睨んで
「アジアンといちゃいちゃしててよ」
「「爆ぜろリア充」」
「「え!?」」
エミリアとシンのはもり方にはもって驚く。そして
「触れ合うまでなら良いけどキスしたら許さないから」
「まったくだね」
アンチリア充な二人にマリアが困ったような表情を僕に向ける。だけど僕もキスをしたら文句を言う自信がある。手を繋ぐまでなら許そう。
「そう言えばシン」
「なんですか?」
「残りのアビスとエアリミってどうなったの?」
「「「……」」」
マリアたち三人が揃って顔を見合わせた。何かを知っているのかな? そう思ったら背後から抱きつかれた。この感触は
「マモン」
「そうよー。それでアビスたちの事?」
「うん」
「エアリミはSSOを止めたよ。多分もう戻ってこないんじゃないかな」
どうしてマモンの言葉にエミリアが頷いているのかが分からなかった。
3章開始です
だが内容は一切考えていない
どうしたものか……夏休み後半イベントとか?
カーマインブラックスミスの現状
店長アリア
副店長マリア、レヴィ
平社員マモン、アジアン、エミリア、シン




