柘雄と亜美
「……魔王。メッセージ来た?」
「ああ」
「だったら私は先に帰るねー」
「レヴィにも来たのか?」
「そうよ」
銃をハーネスに引っ掛けるようにして入ってきた通路に戻る。何があったのか聞きたいけど……ま、良いかな。
「おいで、カゲオ」
『……』
「レヴィも乗る?」
「私は良いわ。来て、カープ」
エミリア製作の《召喚師の指輪》から東洋風の龍が出現する。
「やっぱりそっちもカッコいいね」
「影のドラゴンなんて中二病真っ盛りじゃない」
「それは言わないお約束」
カゲオの中に沈み込んだマモンはいそいそとカープの上に乗る。外見は墨汁がカープの薄青い鱗を汚したように見える。カープは嫌そうに尻尾を振った。その背中に跨って
「ギルドホームまでお願い」
『ギャゥ』
体をくねらせて謎パワーで飛翔するカープ。そのまま影の中からヒョコっと顔を出したマモンがきょろきょろと見回して
「今ってギルドホームが襲われている可能性もあるんだよね?」
「そうね。こっちが攻め込んでいるときが一番無防備だもの」
「何も無いと良いんだけどなー」
マモンの言葉に内心同意しているとギルドホームが見えてきた。ただ大きければ良いってだけのお城だ。誰得なのか分からない。
「……アレ」
「どうしたの?」
「なんかギルドホーム前で戦闘が起きてるよ」
*****
「うまうま」
「アリアちゃんは良く食べるね」
「甘いものは好きだからねー」
「「ねー」」
シェリ姉と一緒に頷くとお婆ちゃんが笑っていた。
「元気だねぇ」
「そうかな?」
「そうですね」
「ところで二人は今日の夏祭りには参加するのかねぇ?」
「するよー」
「する予定です」
「だとしたら浴衣の着付けをしないとねぇ」
そのまま部屋で色々着替えて
「どう、似合う?」
「髪の色と綺麗にマッチしているわよ」
「えへへ、そう?」
「そうそう」
金魚やなんか赤い物が描かれた赤と白の浴衣。でも、これって
「動き辛いね」
「元々走ったりするものじゃないからねぇ」
おばあちゃんの言葉にはーい、と頷いて鏡を見る。身長や一部が小さい全身赤形の色の女の子が。なんか……派手。
*****
「ありがと、エレナ、ヴィクトリア」
「気にしないで。そっちも《シリアルキラーズ》とやり合ってきたんでしょ?」
「そうね」
「お疲れ様です、ご主人様」
なにやら魔王に頼まれてギルドホームを守っていてくれたらしい。そして
「ここは私たちに任せて行ってください」
エレナに言われた瞬間、メッセージが届いた。エミリアからだ。今日は落ちて明日報告するって。
「だったら落ちようか」
「そうね」
*****
「お姉ちゃん……今時間良い?」
『ダメって言ったら電話を切るの?』
「ううん」
姉の江利亜美に電話をかけるとすぐさま出た。
「お姉ちゃん……僕はどうしたら良いの?」
『知らない』
「ええ!?」
『柘雄の好きなようにしなさい』
「それって……?」
『PKを続けたいならそうしたら良い。お姉ちゃんの言葉が弟に届かなかったってだけだから』
少し悲しそうな口調でお姉ちゃんはそう言った。
『守るって意味を勘違いしたお姉ちゃんを許してね』
「……良いよ。それよりも……助言か何か、無い?」
『そうね……とりあえず高校受験に集中することね』
「そうじゃなくて!」
『大声出さないでよ……一応夜なんだから』
「あ、ごめん」
素直に謝ると笑ったような気配を感じた。そして
『お姉ちゃんがそっちに行くから』
「え」
『その方が話しやすいでしょ』
顔を合わせ辛いから電話にしたのに……そう思ったら隣の部屋の扉が開き、足音が。緊張して汗が垂れた気がした。夏だからかもしれない。
コンコン
「お姉ちゃんだよ」
「……入って」
「お邪魔します……って相変わらず物が少ない」
「お姉ちゃんが多過ぎるんだよ。なんであんなに服があるのさ」
「お姉ちゃんはファッションに気を遣う系女子なの」
「女子って大学四年生で?」
「何か?」
ギロっと睨まれた。お姉ちゃんはいつの間にか年齢の話がNGになっていたのか……
「22歳でしょ?」
「柘雄、かつて勇者は言いました。命を大事に、と」
「う、うん」
「次に口にしたら……怒るよ」
怖い。そう思いながらついつい笑ってしまった。すると釣られてお姉ちゃんも笑った。
「ちょっとおいで」
「え」
「殴らないから」
その言葉が出てくるから怖いんだけど……恐る恐る近づくと
「馬鹿ね」
「……」
「考え込みすぎて空回りし過ぎなの」
「……ごめん」
ぎゅっと抱きしめられ、頭を撫でられた。
あの時もそうだった。襲い掛かられて、咄嗟に返り討ちにした。それが初めてのPKだった。怖かった。やってしまった、と思った。お姉ちゃんに相談した。お姉ちゃんは微笑んだ。
そしてお姉ちゃんはPKをした。そのまま僕を落ち着かせて「シンがした事は普通だよ」、と言った。本当にそうなのかな、と疑っていた。だからまたPKをした。
それが僕が繰り返した理由となり、名前に冠詞を付けるようになった。僕が、罪を犯しているから。
「お姉ちゃん、一つ聞いて良い?」
「なに?」
「お姉ちゃんの親友ってどんな人たち?」
「優しくて馬鹿で楽しい人たちだよ」
優しく僕の頭を撫でて
「シン、エアリミってプレイヤーはもういないの」
「え?」
「私はエミリアなの」
「……だったら……」
「シン、名前を変えて一緒にバイトしない?」
「え?」
「アリアのお店に、カーマインブラックスミスで」
アリアのお店……彼女と顔を合わせる……謝れって事かな……
「アリアは……何て言うかお馬鹿だからね、私がエアリミって事にも気付けていないから」
「そうなの?」
「うん。だから一緒にもう一度やり直そう」
「……アカウントを消して?」
「名前を変えて。ゼロからじゃなくて良いの」
お姉ちゃんはそう言って
「お姉ちゃんはお馬鹿な弟が大好きだからね、やり直すのを手伝うよ」
「……ヨスガるの?」
「お姉ちゃんは弟を恋愛的には好きではありません。もっと背が高い人が好きです」
身長157cmの僕に不満でもあるのかな……
*****
「ふふっふふ~ん」
「お姉ちゃんご機嫌だね」
「そうね……はしゃいでいるとこけるよ」
「大丈夫大丈夫、私を信じて」
「無理ね」
アリアちゃんが田んぼの際をとことこ歩くのにため息を吐き、エミの手をしっかり握る。何故今走り出そうとしたのか分からないから。
「アリアちゃんの真似しちゃダメよ?」
「えー?」
「田んぼに落ちるのはアリアちゃんだけで良いの」
「酷い!?」
アリアちゃんがひょいひょいと戻って来て浴衣の裾をヒラヒラさせる。白い脚が見え隠れしている。
「あんなはしたない子になっちゃダメよ?」
「うん!」
「シェリ姉酷い!?」
「ふふふ♪」
アリアちゃんの頭を撫でつつ、歩く。そして近所の小学校の校庭に着く。生徒は少なく、余った土地が多いためとっても広い。ついでにフェンスは無い。
「わわわ」
「街中じゃ出来ないわね」
「凄ーい」
校庭の中央に高く詰まれた木が燃えている。なんて言うんだろう……キャンプファイアーでもないし……スタイリッシュファイアーで良いや。《ファイアトルネード》に似ているし。……アレ? スタイリッシュファイアに何か投げ込んでいる。よーく眼を凝らしてみると
「まさかのセルフ燃えるゴミ処理!?」
タイトル誰だよ⁉︎ って思った読者は多いと思います
最近ひよちゃんたちの出番が無くて辛い
《シリアルキラーズ》との総力戦の際に出そうかと思ったけど無理が過ぎるからやめました
今小説中では8月11日
お盆が始まる8月12日から16日までメンテナンス及びアップデートが行われます
テイムモンスターの調整や新スキルなどを登場させるつもりです
作者の脳みそが貧相なため、他にアイデアが思い浮かびません
誰かアイデアプリーズ
次回予告
《シリアルキラーズ》との総力戦が終わり、のんびりするSSO組
そして夏祭りでナンパされるシェリル
それを眺めるアリアとエミリア
何がしたいのかさっぱり分からなくなった作者のこれからの展開や如何に⁉︎




