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笑うように泣いて

「くそっ! 掘り返す方法はねぇのかよ!」

「下手に攻撃を打ち込んでもさらに崩壊するだけだ。落ち着いて他の通路を探そう」


シエルの言葉に淡々とセプトが応える。しかし


「ここまで一本通行で到達、そこからあった一本の道が塞がったんだ。行く方法がねぇよ」

「……だな」

「ぶっちゃけ吹き飛ばして生き埋めにされた記憶がある分俺はしたくないね」


確かにベルはあの時、生き埋めになった。だがそれは俺たちもなりかけた。ギリギリで逃げだせただけだ。あれ以来ベルもagiを高めるようになった。


「つーかリスポーンする奴らも減ったな」

「街でリスポーンしたんだろ」


リスポーン、つまり生き返り。体力が全損し、復活する事だ。ギルドホームか街のどちらかを選んでリスポーンする事が出来る。


「リスポーン部屋もサタルシが押さえたしさ、手で掘り返すとかじゃダメなのかよ?」

「試したが粘土質で硬くなっている。アリアが見つけたら食器にしようと試みるだろうな」

「冷静に何言ってんだよ……」

「魔王ー、いっそ崩落させない?」

「それだけは止めよう」


マモンの言葉にベルが珍しく反論した。


*****


「姉さんの考えている事が分からないよ」

「そう。私はね、シン。あなたの始まりに後悔していたの」

「僕の始まり? 産まれた時の事?」

ツゲがシンって名乗った時じゃない。本当の意味でシンになった時」


助けて、と最初に言われたんだった。


「あの時、助けるべきじゃなかった」

「……」

「助言して、それで終われば良かった」


決して


「柘の心を安らがせるために、同じ事をする必要は無かった」

「……」

「間違いを間違いと認めて、同じ事をして間違っていないって言う必要は無かった」


《霧雨》の柄に手を掛けて


「お願い、柘。お姉ちゃんのわがまま、聞いてくれる?」

「……どうして」

「お姉ちゃんはね、ずっと後悔していたし、今もしているから」

「そっか……お姉ちゃんは僕が悪いって言うんだ」

「僕たちは悪だからって言ってたでしょ?」


落ち着いて話を続ける。そう言った瞬間、紗蘭シャラン、と音がした。剣を抜いた時の音。


「まさかお姉ちゃんが僕を悪いって言うなんてね」

「言うも何も最初っから」

「お姉ちゃん……お姉ちゃんは騙されているんだよ」

「騙されている?」

「お姉ちゃんが親友って思っている奴らにだよ」

「っ!?」

「僕が目を覚ませて上げるよ」


《夜明けと黄昏の剣》を抜いてシンは表情を消した。純粋に私を殺す気だ。そう思った瞬間、シンの足元の石が転がった。初動で足に触れた。


「《居合い・羅刹》!」

「《デスぺラール》!」


絶望を冠すスキルと体力を消費して放つ高速の斬撃が激突し、衝撃が。すれ違い、洞窟の壁が一部崩壊する。お互いにダメージは無い。


「お姉ちゃんは間違っているよ!」

「シンが言わないで!」


剣と刀がぶつかり合う。実際の戦場では刀が刃毀れして、使い物にならなくなるけど……ゲームなら関係ない!


「お姉ちゃんはあの時僕が間違っていないって言った! 僕を騙したの!?」

「ううん、騙してない。別に認めていないだけ」

「だったら!」

「後悔後先立たず、それなら後悔を変える」

「変える?」

「後を悔やむんじゃない。先を望む」

「何を……?」


《霧雨》を鞘に収める。放つのは一撃必殺の技。


「お姉ちゃんと勝負しよう」

「……どうしてさ」

「全力をぶつけ合って、後で落ち着いて話し合おう」

「僕には話すことなんて……」

「ならお姉ちゃんが話す。一方的に話しかける。問いかけるよ」


シンの頬がピクリと動いた。


「……僕が勝ったら何があるのさ」

「出来る限り何とかする」

「……じゃあ彼女が欲しいな」

「そっか。だったら後輩達の合コンに混ぜてあげる」


シンの表情がやる気に満ちてきた。昔から思っていたけど女好き……それも大き目の。どことは言わない。


「…………一撃だ」

「え」

「互いに全力の一撃でぶつかり合おうよ」

「さっきまでやる気が無かったくせに」

「大学生のおねー様方と合コン出来るならやる気も湧くさ」

「……私が勝ったらシン、二度とPKをしないで」


私の言葉に頷くシン。そして《夜明けと黄昏の剣》を鞘に収めて腰の後ろに回した。抜刀術、居合いだ。《夜明けと黄昏の剣》は刀と片手剣の二種類武具。だからこそ、放つのはお互いに同じ技。


「行くよ、お姉ちゃん」

「おいで、馬鹿野郎オトウト


*****


「お祖父ちゃん? どうしたの?」

「んぅ? あぁ、この周辺に住んでる農家のアンちゃんじゃよ」

「……?」

「……」


落ち着いた感じの大体高校生のような男がお祖父ちゃんと親しげに話していた。すると


「……お孫さんですか?」

「そうじゃな。アリアちゃん、挨拶しなさい」

「あ、うん。初めまして」


頭を下げると


「こちらこそ」


そう言ってお祖父ちゃんと二言三言交わして……背後のリアカーから何かを取り出した。そしてそれをお祖父ちゃんに手渡す。そしてそのままリアカーと共に去っていった。


「……今のは?」

「近くに住んでいる吉冨さん。そもそも前に会っているわよ」

「シェリ姉?」


振り返ると呆れた表情のシェリ姉が。


「あの時会ったのはシェリちゃんとエミちゃんだけじゃったぞ?」

「え」

「シェリ姉も忘れちゃってるじゃん」

「あ、あはは……」

「それよりアリアちゃん、吉冨さんからプレゼントだと」


そう言って手渡されたのは真っ赤で大きな……トマトだ。リコピンがたくさん入ってそう。でもリコピンって何かな……?


「ところでアリアちゃんもシェリちゃんも早起きじゃな」

「私はちょっと眠れなくて。アリアちゃんも?」

「うん」


誰かが無茶をしている気がしていたから。だけど今はもう、そんな感じは無くなった。きっと、納得のいく終わり方をしたんじゃないかな。


*****


「「《居合い・神風》!」」


示し合わせたかのように同時の斬撃。互いの視線を呼んでどの角度の斬撃かを測る。しかし


(迷っている……? 柘が……?)


正面から見つめると視線が逸れる。何故……分からない。今になってみればこの弟は中々分からない奴だった。だけど今ほど分かりやすい時はなかった。


(斬っても良いの……?)


躊躇いが生まれた。だけどシンの動きは止まらない。完全に殺る気だ。そんなに大学のおねー様方との合コンがしたいか……そう思うと腹が立ってきた。もう、迷うのが馬鹿らしくなってきた。


(斬り捨てる……っ!)


《霧雨》の刃が鞘と擦れ、シィィィィ、と音を立てる。鞘滑りを伴った高速の抜刀術、それがい合いだ。

ふと、顔を上げるとシンと目があった。合コン目的の馬鹿と目が合う。


「助けられた?」

「……うん」


かつてPKをしてしまった、と泣きながら相談してきた弟。それに私は同じ事をして、応えた。何も間違っていないと、微笑んだ。嘘だった。何度もその嘘を吐いた。だけど今は、もう嘘なんて必要ない。

全力をもって、一刀をもって全速力で突き破る。


「「っ!」」


甲高い金属音が鳴り響いた。何かが砕ける音。きっと砕けたのはシンと私の過去。振り返るべきものを無くした音。


「……馬鹿ね」

「うん……」


砕け散った《霧雨》と《夜明けと黄昏の剣》が光となって消失するのを眺めて呟く。それにシンは笑うように泣きながら、頷いた。

投稿遅れ申し訳ありません


今回登場した吉富氏は作者のリアルの友人の名前だけです

似てません

トマトは田舎なイメージがあったのでチョイスしました

トマトへの熱い風評被害

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