out of place artifacts
「アリアちゃん、何しているんだい?」
「お祖父ちゃんこそ」
縁側で月を見てお団子食べたいと思っていたらお祖父ちゃんがやって来た。
「お祖父ちゃんは散歩じゃよ」
「お庭で?」
「そうじゃよ」
ニコニコ笑いながら寝巻きの合わせに片腕を突っ込む。そして
「何か考え事かな?」
「そんなとこ」
「ほほ、あのちっちゃかったアリアちゃんも考え事をするようになったか」
「うん。私も成長しているからね」
「……そうなんじゃな」
私を見て一瞬躊躇ったのを見逃さない。まぁ、良いか。もっとシェリ姉みたいになって見返してやるもん。
「胸騒ぎがするんだ」
「ほう?」
「友だちがさ、何か危険な目にあっていそうなんだ」
*****
「マリア! 動きを止めれる⁉︎」
「……なんとか!」
「5秒後に足元へ!」
「しゃらくせぇ!」
槌の振り下ろしを間一髪で避けて斜め下からの撃ち上げ。しかし大したダメージが与えられない。
「硬過ぎね」
「死ねぇ!」
「嫌よ」
持ち替えた物理用の銃で槌の柄を受け止める。前に出て槌の威力の高い部分から無理矢理外れる。
「マリア!」
「はい!」
マリアの指の間に構えられた2本ずつの合計4本の小瓶が地面に叩きつけられる。
槌の柄を掴んで上体を跳ねあげ、勢いのままに飛び上がり、木の上に着地する。
「マモン」
「はいはい。《スプレッド》《スプレッド》《スプレッドアロー》!」
広範囲に広がる矢を重ねて放った。ほぼゼロ距離だったのを含めても大ダメージ。しかし
「硬過ぎよ……マジで」
「マモン、放置する?」
「それもなんかダメじゃない?」
「そんな事より離れて!」
言われてマモンがアビスから離れた瞬間、小瓶が投げられた。それはアビスの足を粘着している物に引火した。
「……今の、何よ」
「《黄リン》です」
「「うわぁ」」
自然発火の原因の一つじゃない。そんな危険な物を作ったという事に驚き、燃焼によるダメージでアビスの体力が削れていくのにも驚く。
「ポーションで鎮火してやるぜ!」
「っ⁉︎ マモン、麻痺!」
「無理よ!」
そう言いながらも麻痺矢を射る。しかし間に合わない。火が消えた。体力も回復した。粘着していたのも燃えて消えた。まずい。
「そもそも遠距離が前に出るのがおかしいのよ!」
「そうね」
「まったくです」
散開した直後に立っていた位置が砕かれた。重量武器は怖いわね……
「逃げる?」
「そうするしかなさそうね」
「ここまで来て……」
「誰が逃がすかよぉ!」
「その必要は無い」
振り下ろされる槌が盾で受け止めた。
「セプト!?」
「悪いな、遅くなった」
「ギリギリのタイミングだったようだな」
「魔王……」
「来やがったなぁ! 魔王ぅ!」
「黙れ」
魔王は薙ぎ払われる槌を避けてナイフで切りつける。連続して斬り付けた。その結果、鎧の一部が欠けた。
「やれ、ベル」
「あいよ」
無詠唱で炎が放たれた。今のはきっとフレアトルネード。さすがベルね。
「傘下全員が勢揃いかよぉ……」
「生憎だな、それだけじゃない」
「ったくよぉ……裏切りモンは出るし……最悪だなぁ!」
瞬間、上空から襲い掛かった二刀流の剣士に向けて槌が激突、吹き飛ばした。
「スカイ……出オチか」
「スカイの敵討ちだ!」
「死んでねぇよ!?」
ガイアの言葉にスカイが叫ぶ。そして
「先に行けよ、《魔王の傘下》」
*****
刀スキルは三種類がある。これは大体の武器種と同じだ。
納刀状態から放つ高速の一撃必殺《居合い》。抜刀状態から放つ雷光のような《突き》。抜刀状態から放つ納刀状態へとシフトする《月》。これらがあるから刀は速度が高いほど強くなれる。
「《居合い・斬鉄》」
金属を一撃で全損させる一撃。それは全員鎧装備のプレイヤーを全損させる。
「《X鬼》が出てこない……」
疑問を口にした瞬間、それは聞こえた。
「《魔王の傘下》が攻め込んできたぞ!」
「全ての通路に向かって迎撃しろ!」
「一人でも討てば褒賞があるぜ!」
全ての通路……だからこそここまで奴らが出てこなかったわけだ。一本通行じゃない……だけど私の予想が正しければ一箇所に、全てが繋がる空間がある。そこを目指せば!
「誰かが待ち構えている……とは思ったけど」
「良くここまで来ましたね、裏切り者」
「誰よ」
いたのは見知らぬ男だった。
*****
「分かれて進むぞ」
山肌にあるいくつかの穴からどんどん出てくる《シリアルキラーズ》、そこから攻め入ろうって事か。
「私はやめとくぜ」
「大剣二本じゃ洞窟内はキツイよな……分かった、シエルは残れ。マリア、行くか?」
「……そうしようかな」
俺の言葉にマリアが頷く。
「行くぞ!」
様々な同意を示す言葉が返ってくる。それに頷いて駆ける。立ちふさがろうとする合間を抜け、時に《真スカーレット》を振るう。
「邪魔過ぎる!」
「落ち着け、アスモ。焦っても良いことは無い」
「ブブの言う通りよ」
前に突出した三人、アリアがいたら突出した四人……いや、突出した三人とさらに突出した一人だな。
苦笑しつつ山肌を駆け上がる。そのまま手近な穴の近くを抉る。ここにはすでに入ったという痕跡だ。
「来たぞ!」
「迎え撃て!」
突破するのは容易だが……壁を蹴って跳び越える。そのまま置き去りにする。少し先でロープを切ろうとしている姿が。罠か。急加速。背後で崩落が起きた。信じられないと言いたそうな奴を切り捨てて突き進む。すると
「俺様は《X鬼》の!?」
「邪魔だ」
名乗ろうとしたが無視して切り捨てた。
*****
「裏切り者エアリミ、あなたのおかげで私は《X鬼》の一員となれました」
「そう。なら感謝して立ち去って」
脅すように《霧雨》の刃を覗かせる。するとそれに笑みを浮かべる男。
「本当に誰なのよ……」
「二つ名は無いですけどね。オーパーツと言います」
「out of place artifacts……」
直訳で場所に見合わない人工物……そもそも人工物というより人間だ。どこから突っ込めば良いのだ……
「《居合い・神風》」
「《ミラーシールド》」
高速の一閃、そのまますれ違う。そして背後で爆発が起こった。
「爆発より先に後ろに行かれるとどうにもなりませんか……って……アレ?」
無視して突っ走る。そして背後から聞こえてきた銃撃音。レヴィが追いついてきた……アビスを討って? 銃で?
「エミリア! 聞こえているのを前提に言うわよ!」
「はい!」
「通路を崩落させられて私たちは追いかけられない! だからシンは、弟は任せるわよ!」
「……はい!」
泣きそうになった。ありがとう、親友。そう思いながら全力で駆け抜ける。もはや誰も出てこない。
駆け続けているうちに斜めになってきている。大して高くない山だった……まさか頂上の方に?
「……シン……」
私が甘やかしてしまったせいで彼はPKとなってしまった。だからそのけじめは私がつける。私だけがそれをする。私以外の誰にもできないし誰にもさせない。
「そうでしょ? 柘……ううん、柘」
同じ漢字の違う読み、それを英訳した弟へ語りかける。
「……お姉ちゃん、どうして僕を裏切ったの?」
疲れた中年のようにして壁際に座り込んだ弟は暗い声でそう言った。
親友に「友人が私に見下されていると思われているっぽい」と言ったら「底辺のお前に見下されるってヤバくね?」と言われた
あいつは実は親友じゃなかったのかもしれない
書いている途中に思ったのだがシンがログアウトしてエミリアと話せば良くね?
そうしたら《シリアルキラーズ》は終わるけどそれだけじゃん
展開的におかしくなるからしないけどさ
次回、姉の言葉は弟に届くのか……
アビスはどうなったのか……
崩落をどうするのか……
アリアは無事に団子を食べられるのか……
第2章、多分そろそろ完結
ブックマークが1日2日で5件消えてMPがヤバい……あまりにもヤバ過ぎて昼間一文字も書けなかったくらい




