狩り場譲ってはマナー違反(替わってなら可)
「アリア、一緒帰ろう」
「きりの家はどっちなの?」
「アリアと同じ方向だよ」
シェリ姉は今日は部活に行っている。私は気が乗らなかったから行かなかった。すると
「お姉さんもSSOするみたいだねー」
「絶対にタイトルを教えない」
「あはは……でも多分調べられちゃうんじゃないの?」
私はきりの言葉に顔を顰める。その可能性は大きすぎるから。すると
「お姉さんと仲が良さそうだね」
「うん、そうだね」
「良いなぁ……私も兄弟が欲しいな」
「そうなんだ」
「私は一人っ子なんだよ」
きりはそう言って寂しそうに笑った。
*****
「やぁ、きり」
「さっきまで会っていたのに一気に雰囲気が変わるよね」
「だって僕が最強なんだからね」
「意味分かんない」
分かられなくても構わないので流して
「それじゃマモンが来る前にゴブリン狩りする?」
「2人だけで大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、だって僕が最強なんだから」
「自信満々なアリアが羨ましいよ……」
僕はそれを無視してゴブリンの巣、つまりリポップしたら出て来る穴の近くまで歩く。そこにはすでに7体ものゴブリンが湧いていた。
「パーティ組んだままだよね?」
「うん、そうだよ」
僕は錫の剣を抜いて頷く。剛腕スキルも順調に13レベル、限界が100らしいから4分の一にも至っていない。
だけどゴブリンを2撃で確実に倒せる。
「きり、魔法で援護してね」
「分かってるよ。……ファイアーランス」
炎の槍がゴブリンに向かって刺さる。一体の体力は結構削られた。その証拠に一撃だった。
「体力を見るスキルは無いのかな?」
「んー、探査の上級スキルに観察かな?」
「そうなんだ」
僕は錫の剣を振るって腕を断つ。そして後ろに下がると同時に炎の槍がそのゴブリンを倒す。残り5体。
「アークスラッシュ!」
2撃の隙を埋めるためのアスタリスクハンマーでゴブリンを叩き飛ばす。地面を転がるゴブリンが立ち上がると同時に剣とハンマーで2撃を加える。
「ファイアースラッシュ!」
炎の斬撃が最後のゴブリンを真っ二つにした。とりあえず
「お疲れ」
「アリアこそ」
「二人ともお疲れー!」
「わ⁉︎」
「え⁉︎」
いきなり僕たちに抱きついてきたのはやはりと言うべきか
「マモン、驚かせないでよ」
「いつからいたんですか?」
「えー? アリアちゃんがゴブリンを一撃で倒したところかな?」
「あれはきりが体力を減らしたから。僕はそのケツを拭いただけ」
「もう……そんな汚い言葉を使っちゃダメよ?」
「はいはい」
僕たちのやり取りにきりは目を丸くして
「家族みたいですね」
「えへへ、傘下のみんな家族みたいなものだよ」
「そうだね」
「さんか……? 酸化?」
「酸素は関係無いよ」
僕の言葉にきりは首を傾げた。
「僕たち9人がいつも一緒のギルドにいるのは知ってるよね?」
「ううん」
「説明してなかったっけ?」
「そもそもギルドの事をほとんど知らない。どうやったら作れるの?」
「それはねー」
マモンが腰に手を当てて指をピンと立てて若手の女教師のようなポーズを取る。男子生徒好みの教師が頭に浮かんだ。担任だけど。
「ベータテスターならみんな知ってるんだけど個人個人にギルドを創るためのアイテムが配布されたの」
「へぇ」
「まぁ、高く売れるから売ったんだけどね」
「売ったの⁉︎」
「うん、魔王がいつも通り創るからね」
「魔王……?」
「うん、我らがギルドリーダーだよ」
マモンは上機嫌に語る。そして
「入りたい?」
「マモン⁉︎」
「なに? アリアちゃん?」
「僕たちはいつも9人だったはずだよ! どうして今さら!」
「アリアちゃん、古きを保つのも良いけどね、新しい風を吹かせるのも大事なんだよ?」
マモンの諭すような言葉に納得しそうになる。すると
「あ、魔王が好きにして良いって」
そう言って僕に可視化した画面を見せる。確かに『好きにすれば?』とある。僕たち9人が増える……そう考えると少し混乱する。
「アリアのお姉さんも誘ったらどう?」
「ぜぇったいに嫌だ!」
「わ、アリアちゃんがここまで感情を露わにするなんて」
自分でも驚いた。
*****
「うん、レベル32、攻撃力も素早さも100を越えたよ」
「高⁉︎」
「だってアリアちゃんはステータスポイントをその二つにしか振ってないもんね」
言われてその存在を思い出したので全部strに振る。攻撃力が160を越えた。
うん、これでゴブリンを一撃で倒せる……とは思えない。それにまだ弱い。
「でもね、アリアちゃん。攻撃力と素早さを上げても一撃受けたらガメオベラする紙装甲じゃダメだよね?」
「分かってるよ」
「ならレッツ鍛冶屋!」
「……ううん、その前に」
森の中を歩く足音が聞こえた。そして視界に入って来た奴らは僕たちを見て明らかに顔を顰めた。
「ゴブリン狩り場譲ってくれないか?」
「はぁ? 普通に考えてはいそうですと譲ると思うの?」
機嫌悪そうにマモンは言う。それに男は頭を掻いて
「……やるぞ、おめぇら」
腰から剣を抜いた。それは僕の錫の剣を越える力を持つのが分かる。
そうして、僕はこのゲーム初の対人戦をする事になった。魔王とのはノーカン。
*****
とんとん
「アリア、大丈夫なの?」
「うーん、マモンがやるなら多分勝つんだけど僕たちって足手纏いがどう動くかによってマモンの勝敗が決するね」
「マモンさんだけの勝敗⁉︎」
「だって僕たちはまだ弱いからね」
何故か素直にそれを認める事が出来た。すると
「あ? そっちの赤髪は思い上がりおにゃの子?」
「……僕の事?」
「ああ、間違いねぇよ。あの貧乳を魔王が馬鹿にし「五月蝿いな」
僕は背中の剣を抜く。それに男たちはピクリと反応する。
このゲームではフィールドではPKが出来る。さらにシステムでのマイナスは無いけどやり過ぎるとそのプレイヤー討伐クエストが公式に発表される。
「誰から来るの?」
経験値はアークスラッシュをレベルマにしてからブラストに振った。まぁ、そっちもレベルマにしちゃったから今使える最高スキルに残りを振った。
「誰でも良いよ? 僕一人で君たち全員をやれるから」
「は、俺たちを相手に勝てるつもりなのか?」
「おいおい、思い上がりが激しいぜぇ?」
「まあまあ、そう虐めてやるなよ。だからあのプレイヤーは最強に挑む思い上がりおにゃの子なんだからなぁ!」
笑いが起きる。不思議と苛立ちは無い。だから僕は少し笑ってメニューを開く。そして
「今から僕たちの戦いをネットにアップしようか?」
「ぷっ」
「ぎゃははは⁉︎ 俺たちにズタボロにされる姿を見せるのかよ!」
「やりゃ良いじゃねぇかよ!」
言われる前からしていたのは内緒だ。
「悪いけど僕はおっぱいの事を言われたら怒るから」
「貧乳ちゃんが怒るなんてこっわーい」
「ぷはははは!」
このゲームでPKをしたらどうなるのかは分からない。金を取れるのかアイテムドロップがあるのか経験値がもらえるのかも分からない。だけど
「そんな貧乳ちゃんはどうして喧嘩を売ってくるんでちゅかー?」
「だって僕が最強だからね」
僕は錫の剣をしっかりと握って地面を蹴った。
タイトルには一部例外があります
普通はマナー違反ですけどね
リアルで言えばトイレで絶賛努力中の人に替わってというようなものです
もはやマナーの問題じゃない
急かす気持ちはよく分かるけど