ゾン吉、みんなともだち!
NO.19 ゾン吉、みんなともだち!
「さて、ダンジョンの管理者こと、ダンジョンマスターに成ったのは良いけど、これは如何にか成らないかな?」
流石にワンルームダンジョンは勘弁して欲しい。
何とかならないかと説明書を読み込んでみる。
最悪、壁を崩してでも部屋を作ってやる!
おっと、ダンジョンを広げる方法が有ったぞ。
「カタカタッ?」
「うん、説明するね。何でもあの設置した水晶玉には生贄システムとやらが有るらしいんだ。要するにダンジョン内で生物が死ぬとエネルギーに成ってあの水晶玉に吸い込まれるらしいんだ。……ああ、別に死体の持ち込みでも良いみたいだ。ただその場合は得られるエネルギーも少ないし、死体もその後消える様だけどね。」
「カタッ?カタカタカタッ?」
「うん、そうだね。基本的には獲物を誘い込んでダンジョン内のトラップやモンスターに退治させれば良いみたい。そうやって得たエネルギーを用いてダンジョンは自ら大きく成るみたい。」
とは言え、このダンジョンにはまだトラップの類は一切無いから、俺達で地道に小動物でも狩らないといけないのかな?
「イヤァァァァァ!?」
突如、ワンルームのダンジョンにエナ子の声が響く。
「な、何だ!?エナ子、如何した!?」
エナ子はダンジョン入り口でペタンッと座っていた。
「エナ子?」
「うぅ……、ゾン吉ぃ~……。」
エナ子が若干の涙目で此方を向く。
如何したのかと、訪ねてみると……。
「お腹が空いたんだけど、ゾン吉が忙しそうだったから……、で、さっきの熊を思い出したから、食べようと思って引っ張って来たんだけど……、洞窟に入った途端に消えちゃった。」(涙目)
早速ダンジョンの生贄システムが発動して熊がエネルギーに変換された訳か……。
お腹が空いたと騒ぐエナ子に俺の左腕をオヤツに進呈(引っ張ったら取れた)すると、水晶玉を安置した部屋に戻ってダンジョンの現状を確認する。すると……
「おっ!部屋が増えてる。……宝箱部屋?」
早速確認に行くと、小部屋の中に赤い宝箱が沢山並んで居た。
俺は説明書を取り出すと『宝箱部屋』のページを開く。
★
宝箱部屋の解放が達成されたら、いよいよ本格的なダンジョン運営の開始です。
しかし、此処で注意点!!
『宝箱』と聞いてドキがムネムネの諸君が大半を占めると思われますが、ダンジョンを運営する立場はそうも言ってられません。
何故ならば、ダンジョン内全ての宝箱は空箱なのです。
ダンジョン運営者は自分で調達した宝物類を宝箱へと収納しなければいけないのです。
でも、広いダンジョン内、宝物を収めて回るのは大変かと思われます。
そこでこの宝箱の集まる部屋『宝箱部屋』の出番です。
宝箱部屋の宝箱にアイテムを収納すると、自動的にダンジョン内の至る所へと宝箱が配置され、又空箱と成った宝箱も自動的に回収され戻って来るので手間要らず。
ダンジョン運営の心強い味方です。
Q:折角苦労して手に入れたアイテムを何処の誰とも知れない人間に盗られるのは我慢できません!
A:宝箱は冒険者を引き寄せる『餌』そう割り切ってしまいましょう。
Q:宝箱部屋に侵入されてお宝を一網打尽にされたりはしませんか?
A:宝箱部屋にはダンジョンマスターしか、立ち入る事が出来ない仕組みと成っているので大丈夫です。
★
成る程、宝箱の中身は自分で用意しないといけないのか……。
取り敢えず、そこの森で適当に手に入る『やくそう』でも入れておこう。
赤い宝箱に『やくそう』を詰めて回っていると一つだけ青い宝箱が有った。
「えっと……、これは……、ボス部屋の宝箱か。」
所謂ボスを退治したら開けられる宝箱だな。
この宝箱だけは何か良い物を入れておくべきだと思う。
……以前、ガラの悪い兄ちゃんズから手に入れたショートソードでも入れておこうか?
捨てるに捨てられないまま、今日まで持って居たので在る意味、厄介払いでも有る。
「あ~、やっとあの剣を処分出来たよ。」
意気揚々と水晶玉まで戻って来て確認すると何故か部屋数が増えていた。
説明書を読み返してみた所、如何やら青宝箱に入れた品物の質でもダンジョンに変化が現れる事が有るらしい。
要するに良い物が手に入るダンジョンは難易度が上がる!と言う事らしい。
因みにショートソード如きでダンジョンに変化が現れたのは現在うちのダンジョンが最底辺の状態に有る為だ。
「しかし、ダンジョンが広く成って行くと早急に人手が必要に成って来るな。」
侵入者を襲うモンスターが居なければ、ダンジョンが広く成った所で意味は無いからな。
この人手をどうやって確保しようか腕を組んで考えているとエナ子の耳が洞窟入口で物音を捉えた。
「ねえ、ゾン吉。森の方から誰か来たみたいだよ?」
えっ?まだダンジョンは準備中、何だけどな……。
一応皆で洞窟入口まで様子を観に行く事にした。
★
「おかしいべ、熊は確かコッチに逃げて来た筈なんだども……。」
狩人歴30年のオラが放った矢は熊のお尻に綺麗に突き刺さったのは手応えからも間違い無いべ。
その証拠に、地面に点々と血の後が続いて居たので此方の方向に逃げて来たのは間違い無い筈……。
「コッチにゃ、確か洞窟が有ったなぁ。」
ひょっとしたら熊はその洞窟を根城にしているのかもしれねぇべ。
さほどハジマーリの村からも離れてはいないので、他の村人が襲われる前にキッチリ退治してしまいたいと思いながらオラは獣道を草を掻き分け進んで行く。
「まあ、そうでなくても熊一頭が狩れれば良い銭になんべ。」
良い獲物が狩れるかも、と思うと少し頬が緩む。
「むっ、イカンイカン。相手は手負い、気を引き締めて行かねば、しっぺ返しを受けるべ。」
洞窟が見えて来たので、パンパンッと頬を叩き気合を入れる。
一見した所洞窟に異変は感じられ……んっ?
「洞窟の入り口に立札が出てるべ。何々『LV1 死霊の住処 ショートソード有り〼』?」
イマイチ何の事か良く分からないべ。
此処は無人の洞窟じゃあ無かったんけ?
不思議がっていたら、洞窟から物音が聞こえたので、熊かと思い洞窟前の立札から離れる。
あ゛、あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……。
呻き声?
洞窟の入り口から何かが出て来る。
「熊だべか?い、いや、違うべ!!」
あ゛あ゛、あ゛ぁぁぁぁぁ……。
呻き声を上げて出て来た者の正体それは!
「ゾ、ゾンビだべっ!」
た、た、大変だべ。
まさかこんな村に近い場所にゾンビが現れるなんて……、一大事だべ。
オラは咄嗟に愛用している弓を引くと、ゾンビ目掛けて矢を放つ。
キンッ!と音をさせて背後に隠れていたスケルトンがその手に持った剣で矢を弾き落した。
「なっ!?ゾンビだけで無く、スケルトンまで居るだか?」
飛んで来る矢を剣で弾き返すなんて、きっとすごく強いスケルトンだと思われるべ。
こうなると、オラ一人では手に負えねぇ可能性が有るだ。
此処はハジマーリの村に戻って、腕っぷしに自信が有る助っ人を連れて来る方が良いだか?
オラはジリジリと背中を見せない様に一定の距離後退すると、反転して村の方へと走りだした。
チラリと後ろを見ると……。
あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……。
「くっ、ゾンビが追いかけて来てるべ。し、しかも意外と足が速ぇ。」
このままでは追い付かれるのも時間の問題だぁ。
オラ嫌だ。ゾンビったら生きたまま人間を食うって言うじゃねぇか。
「捕まったら終わりだべ……。」
このまま走っててもいずれ捕まってしまうべ。
一が蜂かオラは森の中、獣道を避け、茂みを掻き分けて走る事にした。
「足場が悪く成るから、これで少しはゾンビの速度も緩む、べっ!?」
気を緩めた一瞬、足元から地面が消えた。
草が生い茂っており、気が付かなかった、草むらの先は崖と成っていた……。
「うわっぁぁぁぁぁぁぁ……。」
オラは崖を勢い良く滑落してしまったべ。
滑落の際、体を強く打って、崖下へと辿り着く前に意識を失っちまっただ。
★
意識を失ってどれ位経っただ?
目蓋が重く、まだ目は上手く開けられねぇ。
崖から落ちた体だ、何処か痛めてるかもしんねぇ。
そう思って、オラは横に成ったまま、怪我をした部分が無いか探ってみた。
不思議とあの高さから落ちた割に、体で痛めている部分が無い……。
「(怪我は無ぇか、運が良かったべ……。)」
「あっ、目が覚めた?狩人さん。」
すぐ近くで声が聞こえたんで、オラは少しビックリしただ。
だども、すぐにオラは理解しただ。
オラはこの人に助けて貰ったんじゃねぇかと……。
オラは気怠い体を起こすと、まだ重たい目蓋を開けてお礼を言おうと声の主を確認しただが……。
「ヒィ!ゾ、ゾンビィ!?」
「まあ、そんなに驚くなよ。ゾンビって驚くけど、あんたも既に似た様なもんなんだからさ。」
「ハァ?」
「俺がアンタをリビングデッドに変えたから。」
オラは目の前のゾンビが言っている事が、イマイチ良く理解出来なかったべ……。
ゾン吉、100の必殺技!
必殺技NO,100:みんなともだち!(アンデット化)