第一章 騎士
「……ピア・レングナーです。お願い致します、我が主」
翌日、部屋を訪れたガエルから紹介されたのは、一人の騎士だった。
ピアと名乗った少女は、腰まである燃えるような赤い髪を顔の左側で三つ編みにし、青いリボンでそれを結んでいた。瞳は黄金色で、意志の固そうな、まっすぐとした視線を出流に向けている。ピアは出流と同じ年で、学園にも共に入学するとのことだ。
「一緒に学園に通うってことは、ピアも貴族なんだ?」
「はい」
出流の問いかけに、ピアは冷静に答えた。
「彼女は、魔術の腕も良く、騎士としても将来有望です」
「そんな子を借りちゃっていいんですか?」
「出流様と同年代で、ある程度の強さのあるものといえば、彼女くらいでしょう」
ガエルが話を始めると、ピアは窓の側に配置する。美しい少女だが、騎士として10年近く訓練を積んでいるそうだ。剣術では、他の男性の騎士にも引けを取らないほどだとか。
「出流様。この世界や王国について、ご説明させていただきたいのですが」
「よろしくお願いします」
出流とガエルは、室内の中央にあるソファーに向かい合い座る。ピアにも座ることを進めたが、頑として頷かなかった。仕方ないことなのだろうとはわかっている。だが、なんだか落ち着かないのが根っからの一般人思考の出流だ。
「この世界は、出流様のいらした世界と隣り合わせた、ごく近い“地球”です」
「地球?」
「もともとは一つだったものが、いくつかに分岐したと考えられています」
「もとは同じ地球だったんだ?」
「はい。しかし、大陸の形や、そこに存在する国などは、出流様の世界とは大分違うものでしょう。この世界には180ほどの国々があり、ラーシャルード王国は現在の国王様まで12代続く大国です」
同じものだったのが、魔法の存在する世界と、存在しない世界に発展したそうだ。出流の世界の人々の中には、こちらの世界について知っている者はそうそういないとのことだが、こちらの世界の人々は、出流の世界の存在を知っている者も多いらしい。
紅が、この世界と元の世界はそう変わらないものだと言っていたことを思い出す。なるほど、どこから分岐したのかは諸説あるそうだが、一つのものだったのであれば、似通った発展を遂げるのも、不思議なことてはないのかもしれない。