第一章 メイド
「勉強は明日からに致しましょう。私も準備させていただきます。紅、出流様を案内してくれ」
部屋から退室すると、扉の脇に、メイド服を着た女性が待ち構えていた。金色の長いウェーブ髪が美しい、蠱惑的な女性だ。見慣れないメイド服だけでも驚きなのに、それをまとっているのがとびきりの美女なのだ。出流が面食らってしまったのも、無理はない。ガエルがその女性に出流を託すと、女性は一歩出流に近づく。
「出流様つきのメイド、紅でございます。出流様の居室にご案内致しますわ」
「べに……?」
「くれない、と書いて紅と読みます」
「難しい名前じゃないんだな……」
「出流様のいらした世界と、そう変わりませんのよお。ぜひとも、紅と呼んでくださいまし」
暖かな橙色の瞳を細める紅に、どきりとしてしまう。色香漂う美女の微笑みを正面から平静にうけとめられるほど、出流に経験値はない。
「紅、か。覚えやすいな」
メイジーを始め、出会う人々の名前が外国的なので、てっきりこの国では誰もがそうなのだと思っていた。紅の言う、出流といた世界と変わらない……とは、どういう意味なのだろう。
確かに、メイジーやガエルなど、出流が出会った人々は、きらびやかな外見はしてはいても、元の世界の人々との明確な差は見受けられないが。出流からみてみれば異世界人であり、魔法使いだなどとは、見た目だけではとてもわからない。
「出流様の専属メイドになれると聞いて、紅はとても嬉しかったのですよ。実際にお会いさせていただきましたら、本当に見目麗しく素敵なお方で!感激しておりましたわあ」
「うえっ!?それほどでも…」
自己評価としては、良く見積もって中の上くらいの形容しがたい微妙な顔だ。母親も、なかなか美人ではあったが、親が美形だからといって、それが遺伝してくれるとは限らない。
「入り用のものなどあれば、なんなりと。紅は、出流様のメイドですから。なんでもご命令くださいな」
「は、はあ…あの、べ、紅っ?」
「うふふ、可愛らしいお方」
両手を両手で握られ、紅の豊満な胸元に持っていかれる。一瞬、柔らかなものに手が触れてしまい、咄嗟に体ごと距離をとる。見目麗しい……なんて発言といい、からかわれている気がしなくもない。
専属セクシー美人メイド、素直に喜ぶには刺激が強すぎる。出流は、どぎまぎしながらも紅についていくしかなかった。