理事長
「いらっしゃーい」
室内に入った出流は、目を見張る。眼前には……無数の花たち。校舎の中であるはずだが、色とりどりの花が咲き誇っている。そして、天井があるはずのそこには、青空が広がっていた。
「ごきげんよう、殿下。お目にかかれて光栄です」
硬直する出流のもとに、花の影から、一人の少女がやって来た。長い金糸を、二つに分けて三つ編みしている、可愛らしい少女だ。
「理事長様ですか」
「そうですよー、レングナーさん」
理事長かとの質問に肯定した少女だが、どこからどう見ても、そうは思えなかった。身長は150cmほどで、顔立ちは同年代にしか見えない。
「理事長……なんですか?ほんとに」
「殿下ってば!信じてくれないのですか?」
「いや、うーん」
「理事長のマーガレットです。わたし、こう見えても出流様の4倍は生きてますよ!多少、魔法で外見は操作してますけどっ」
憤慨しているマーガレット理事長だが、本当に4倍の年齢なら、多少、ではすまないだろう。
「ガエル様から事情は聞いていますよー。でも!クロエ様やメイジー様にもお伝えしてますが、絶対に無理はなさらないでくださいね」
「はあ」
「ここで王族である殿下に何かあれば、学園の名折れです!」
「……気を付けます」
学園の名誉を傷つけるような事態は、本意ではない。学園に通うことを決めたのは、出流のわがままでもある。なるべくなら、迷惑をかけるようなことはしたくはない。
「ではでは、お二人とも。やってもらいたいことがあるんです」
「やってもらいたいこと?」
「魔力量の測定です。もちろん、魔力量が魔法のすべてではないですが、生徒たちの魔力量は把握しておかなければならないのですよー。殿下のお力はきっとすばらしいものでしょうね」
「どうですかねえ」
期待はしないでいただきたいところだが、逆を言えば、出流に誇れることといえば、その魔力量のみだった。
「測定はどのようにして行うのでしょう」
「中庭に行ってみてください。公衆の面前ではありますが、通行儀礼ですので。測定を終えたら、その数値は自動的に生徒名簿にも記入されるんです」
「中庭ですね。行きましょう、主」
「そうするか。お邪魔しました、理事長」
背を向けて理事長室を去ろうとすれば、マーガレット理事長は、なにか言いたげに、口を開いた。
「……殿下。わたしは、学園内部に魔術師狩りがいるなんて、思いたくないのです。でも、もしも本当にそんな存在がいるのであれば。なんとしてでも、捕まえなければなりません」
「……はい」
「ですから、そのためになにか必要なことなどあれば、遠慮なく、ご連絡ください」
「わかりました。力を借りたいときは、また来ます」
「ぜひ。お二人とも。気を付けてくださいね」
眉を下げて、物悲しく微笑むマーガレットに見送られながら、二人は中庭を目指した。