第一章 実践
「出流お兄さま?」
「メイジー!お帰り」
出流よりも一足先に入学することになったメイジーが、学園から帰ってきた。朝は拝むことができなかったが、臙脂色のブレザー姿がよく似合う。既に兄バカな出流は、妹の可愛さを改めて痛感する。
「ただいま戻りました。魔法の勉強はどうでしたか?」
「いやあ……」
なかなかに答えにくい質問だ。
「これは?」
「魔封じ?だって」
「なるほど。お兄さまほどのお力は、持て余してしまいますものね。グラシアのものですか」
「そうらしいね」
出流のはめている手袋については、メイジーも知っていたらしく。鋭く見咎めると、どうしてこの手袋が登場することになったかといったことも含め、全てを理解してくれた。
「メイジーが見せてくれたのと同じ、浮遊の魔法を使ってみたよ」
「わたくしにも見せてください」
手袋の力を信じていないわけではないが、妹の前で格好悪いところを見せたくはない。披露するのは、もっと上手くなってからだ。
なんとか言い訳をしようと考えているとき、出流は、メイジーに聞こうとしていたことを思い出した。
「そうだ、メイジー。学園に、弟が通ってるんだって?」
「ああ……クロエのことですね。今日、わたくしも久々に会ってきましたわ。お兄さまに会いたがっていましたわよ」
それが本当なら、嬉しいことだ。今から仲睦まじい兄弟に……というのは難しくとも、嫌われたくはない。
「出流様、今日はここまでに致しましょう。夕食の時間になりますので」
「あ、はい。ありがとうございました」
ガエルの一言で、今日の勉強会はお開きとなった。ガエルは部屋を後にし、ソファーにはメイジーと出流二人が残された。
「学園、どんな感じだった?」
「そうですわねえ……」
それから、夕食の用意ができたと呼ばれるまで、メイジーと話に花を咲かせるのだった。