第一章 師匠
「久しいな、出流。17年ぶりか」
声の主と出流は、面識があるらしい。ガエルによれば、彼の師匠ということだが。つまりは、この声の主が出流に守護の魔法をかけた相手なのだろう。手袋から声が聞こえてくる、なんていった異常な事態にも、ほとんど動じることがなくなってきた出流だ。
「私が先代の国家最高魔術師、グラシア・バラデュールだ」
手袋から声が聞こえてくるのも、魔法の一種なのか。魔法のことはさっぱりな出流だが、そう当たりをつけた。
「お前の魔力量は大したものだが、魔術の基礎すらままなっておらん。魔力の抑え方、力の加減。そういった、赤子ですら無意識で行えていることができていないのだ」
「コントロールって難しいことではないんだ……」
「本来なら、人から教わるようなものではないのだぞ。時間がない今、そんなものを教えているだけ無駄だ。誰にでも出来ることがまともに行えん、愚鈍のためにこの手袋は作られたのだよ」
「師匠、お言葉が過ぎます」
グラシアの言葉は、出流に容赦なく突き刺さる。しかし、はっきりと現実を突き付けてくれることも、出流には必要だった。
「あのー……師匠さんって亡くなったんじゃなかったんですか?」
「肉体は死んだ。だが、私ほどの魔術師が、そう簡単に消えるわけもなかろう。お前の父親にかけた魔法と同種のものだ」
「水晶の……」
「ともかく、私自身がこの魔封じの輪に封じ込められているのだと解釈しろ」
「そういえば、守護の魔法はかけ直さないんですか?」
「私は今はほとんど魔法は使えん。ガエルでも守護の魔法を施すことは可能だが、あれはお前の魔力を隠してしまうからな。お前が魔術を使うのなら、邪魔になる。さあ、手袋をはめてみろ」
グラシアに促され、手袋をはめてみる。魔力を抑える道具と聞いたが、はめてみても、なんの違和感もない。
「出流様の莫大な魔力は等分に分けられ、999個の欠片になり、手袋に制御されています」
「欠片?」
「魔力量を数値化することができるのですが、出流様は魔力量は999。素晴らしい数値です」
「魔力量ってどうやって測るんですか?」
さまざまな方法があるが、相手の魔力量を計測する魔法、というものがあるのだとガエルは教えてくれた。
「一度に使用できる魔力には、限りがあります。時間が立てば使用した分の魔力は戻りますが、その魔力量の上限が、出流様は別格なのです。一度に、魔力すべてを使いきるようなことはないでしょう」
魔力がいくらあっても、上手く使えないのならば持て余すだけだ。