第一章 魔封じの輪
「お待たせ致しました、出流様」
思わぬ事実をきかされたところで、タイミングが良いのやら悪いのやら、ガエルが戻ってきた。まだ見ぬ兄弟について、詳細を追求するのはまたの機会になりそうだ。
ガエルの姿が見えたので、紅はティーカップを片付け始めた。短い休憩もおわり。勉強の再開だ。
「お力は回復されていますね」
ピアも配置につき、ガエルは出流の向かい側に座る。出流も、姿勢を正して応じた。魔法を学ぶこと。わかっていたつもりではあるが、楽しいことばかりではなさそうだ。しっかりと制御できるようにならねば、怪我人を出しかねない。
「出流様が魔力の操作をしやすくできるよう、こちらをお持ちしました」
「何ですか?これ」
「魔封じの輪です。私の師匠の持ち物だったのですが」
渡された木箱を開けてみると、中には白い手袋が入っていた。手にとって眺めてみる。手首の辺りは金で出来ており、それを一周するように、赤、青、黄、緑、紫……5つの宝石が散りばめられていた。
「この手袋は、力を分散することができるのです。身につけているうちに、魔力操作も身に付いてくるでしょう」
なるほど。時間があるわけでもない。道具の力を借りるということか。ガエルの意図がわかり、心中で頷く出流。
「しかし……一つ、問題が」
「え?何かあるの?」
問題とはいったい。これ以上なにも起こってほしくはない。出流はガエルの不穏な言葉に身構えた。
「問題とはこの私のことか、ガエル」
「うわ、なにっ?」
体を強張らせて次の言葉を待っていると、ガエルの発言を咎める、女性の声が響き渡る。この世界に来てから出会った人たちの誰の声でもない。凛とした、美しい声だ。
「私の師匠です」
「どこから聞こえてきてるんだ?……これ、か?」
手の中の手袋。その辺りから聞こえた気はするが……。