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999の魔法  作者: 潮 かお
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第一章 暴発




「戻れ!」



 ガエルが指を鳴らすと、テープを逆再生したかのように、シャンデリアは天井に戻り、ベッドなども元の位置へと帰っていく。ものの数秒で、部屋は何事もなかったかのように元通りになった。



「お怪我は?」

「俺は全然……みんなは?」

「怪我人はいません。主がご無事でなによりです」



 出流の腕を掴んだままのピアは、自分の主君の無事を確認し、やっとその腕を離す。出流としてみれば、自分の使ったものが魔法であるのかさえ確信が持てない。だがきっと、今のが魔法で、恐らく自分は失敗したのだ。



「凄まじいお力でした」

「今のって、魔法、だよな?」

「もちろんです」



 なんて力なんだ、と感激しているらしいガエルだが、出流はいまいち状況が掴めないでいた。どう考えても、今のは失敗だった。誉められるような代物ではない。



「なんだったんだ……」



 出流は、自分の右手を見つめて呆然と呟く。右手をが急速に熱くなり、集まった熱が行き場をなくしたかのように、爆発してしまった感覚。自分の中に、制御のできない大きな力がある。そう考えると、とても気持ちのよいものではない。



「恐らく、出流様のお力が並外れたものであるからだと。莫大な力は、扱うのも難しいのです。小さな物体を動かすときには、魔力は最小限で良いのですが……出流様の魔力は大変なものですので、細かく調整せねばなりません」

「力のコントロールが出来てなかったってことか」

「今の場合、対象物体がりんごでしたので、まだ大事にならずに済みましたが。もっと巨大なものを動かそうと想像なさっていれば、この城であろうと簡単に動かすことができるはずです。無意識に、お力を制御なさっていたのだと思われます」

「城って……」



 異世界生活二日目。外側からこの城を見たことはない出流だが、並大抵の広さではないことくらいは想察できる。そんなものを、訓練次第では、出流一人の力で操ることができるのだとすれば。魔法とは、それほどまでに恐ろしいものでもあるのだ。



「申し訳ありません。私も出流様ほどのお力を目にするのは初めてのことでして、出流様を危険にさらしてしまいました」

「俺は大丈夫です。そもそも、俺が原因だし……ごめん」

「いいえ、出流様に魔術を教えることが、私の役目ですから」

「助けてくれてありがとう。ちゃんと扱えるように勉強します」



 深々と頭を下げるガエルに、恐縮するほかはない。魔法の勉強と聞いて、ちょっと面白そうだな、なんて思っていた出流だが、それどころではなくなってしまった。このままでは、学校に通うことすらできそうにない。



「素敵でしたわぁ、出流様!しびれるような魔力、紅はどうにかなってしまいそうです」

「紅?いつの間に……」



 艶やかな声で出流を誉めちぎるのは、いつの間にやらやって来ていた、紅だった。恍惚とした表情で、夢見心地に出流を見つめる紅。



「厨房にいたのですが、大きな魔力を感じて見物に参りましたの。さすがは紅のご主人様ですわあ」

「厨房?」

「はい、そろそろ10時を回りますから。……ガエル様。一先ず休憩になさっては?出流様も、莫大な魔力を使いお疲れでしょう?紅がお茶でも用意させていただきますわよ」



 紅には、ことあるごとにからかわれている。冷やかしに来たのか、と一瞬疑ってしまった出流だったが、紅の横にティーセットを見つけた。なるほど、彼女は気をきかせて、用意してきてくれていたらしい。



「出流様に一度魔力を回復していただき、対策を設けたいと思います」

「うん。ちょっと休もう」



 ガエルからの許可も降りたので、出流はソファーに座り直す。ガエルは、対策を講じてくる、と言って部屋を出ていった。確かに、魔法を使ってから、倦怠感のような、脱力感のようなものを感じる。



「出流様、紅茶にミルクとお砂糖は?」

「あ、入れてもらっていい?」

「了解致しましたわ。美味しい紅茶をお入れいたしますわね。ピアはいつも通りの配分でいいかしら」

「手伝います、紅」

「あら、ありがとう」



 ピアが、紅に近づきお茶の用意を二人揃って始めている。座って待っているのもなんとなく居心地が悪いが、出流まで手伝いにいくことでもないだろう。二人に任せることにした。



「ああっ……!」



 ソファーで大人しく待っていた出流だが、ピアが声をあげるので急いでそちらを見やった。トレイの上では、紅茶の入った缶がひっくり返り茶葉が散らばっている。



「す、すみません」

「あら、大丈夫?」

「大丈夫です……あっ!」

「私が拾うわね」



 茶葉を片付けようとしたピアだが、今度はティーカップを二つほど、盛大に床に落下させていた。慌てるピアに声かけた紅は、割れてしまったカップの欠片を拾い上げ、小さく何かを唱える。すると、カップは元々の姿を取り戻した。



「だ、大丈夫?」

「あ、わ、私は……その……」

「ピアったら、いざというとき以外はこうなんですのよお」



 出流がカップで怪我でもしていないか問いかければ、ピアは恥ずかしそうに狼狽え、紅が代わりに返事をする。優秀な騎士だと評判らしい彼女だが、可愛らしい一面もあるようだ。



 

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