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第七話 どきどきテスト返却 赤点かも

十月二十九日 月曜日。

 テスト明け、今日からはテストが続々返却される。

【一時限目 数学Ⅱ】

「おっまたせーっ、この間のテスト、お返しするよん。平均点はね、なんと、29.9点だったよん。ついに30点切っちゃったね。おそらくこれ以降の試験ではずっと切るだろうなあ。それでは番号順にとりに来てねーん」

 西島先生はとても機嫌が良さそうだった。出席番号順に返してゆく。

「ほい、紅露さん。おいらの期待を悪い意味で裏切らないねえ」

 千花は受け取った際、答案用紙の右上に書かれた点数をそーっと確認した。

「……うわあ、今までにとった最低点、大幅に更新してもうた。物理より悪いし」

「しっかり勉強しないと、これからもどんどん更新しちゃうよん」

 千花は苦い表情を浮かべながら、席へ戻る。

(ちかちゃん、かなり悪かったみたいだね。きっと私も……)

由巳も受け取ったあと、恐る恐る確認してみた。

「こっ、こんなひどい点数、初めて見た……お母さんになんて言い訳しよう」

「解答欄がずれてしまったとか言えばいいと思うよん。おいらも中高生時代、国語と英語は苦手でいつも悪い点とってたんだけど、姑息な嘘ついて逃れてたし」

 クラス全員に答案が行き渡った。

「それにしても、まさか満点取れちゃう子がいるとはねん」

 西島先生は残念そうに告げた。

「ニッシー、大学課程のフーリエ級数の問題混ぜたところで、ワタシには通用しやへんよ。音ゲーに続いてテストでもワタシの勝ちじゃな」

 彩はウィンクし、ピースサインをとった。

「うぬぬぬっ!」

 西島先生は相当悔しがっている。彼はあのゲームセンターも出入り禁止にされ、踏んだり蹴ったりだったのだ。

「彩ちゃん、おめでとう!」

麻衣は拍手した。彼女もその問題は不正解だった。

「きっ、期末こそは、絶対誰にも百点取らせてあげないよーん。次は三重積分の問題出してやるもんねっ!」

 西島先生は、欲しいおもちゃを買ってもらえなかった子供のようにふてくされる。

「楽しみに待っとるよ、ニッシー」


 休み時間。

「うちには関係なかったけど、西島も大人気ないことするよな。しかも約束のこと問い詰めたら、そんなの知らないもんね、とかぬかしよるし。あの秘密クラスのみんなにばらしたろかな」

「私も最後まで行き着かなかったから、あの問題あることすら気付かなかったよ」

「わたし、ケアレスミスしてた。途中の式は合ってるし一点くらいくれたらよかったな」

 麻衣はちょっぴり不満そうにしていた。

「まあマイ、あの10点分は成績には考慮しないみたいじゃし、無視したらええんじょ。ニッシーってさ、子供たちにもっと算数の面白さを知ってもらうために、休日や夏休み期間中は公民館とか借りてキッズ向けの算数セミナーを無料開講してるみたいなんよ。常に満席で大好評らしい」

「へぇ、西島先生が活躍してるのはネット上だけじゃないんだね。私も参加したいな」

「やっぱええ先生やね。子供っぽい性格やから子供にも好かれるんやろな」

 由巳と千花の、彼に対する株は少しだけ上がる。

 この日は他に英語Ⅰと化学基礎、現国が返却された。


            ※※※


十月三十日、火曜日。

【三時限目 物理基礎】

「今からおまえさんらが待ちに待った、物理の試験返しますけぇ。名前呼ばれたら取りに来てなーっ。それにしても、おまえさんらにとって物理はそんなにむずいんかなあ? 10点台もようさんおったし。今回は平均も35.6しかなかったけんな。初の30点台突入じゃ。きっと高校からの外部入学組が大幅に下げとるんじゃろうなあ」

 山ノ内先生はにこにこ微笑みながら、由巳と千花の方へ一瞬目線を向けた。

(やばっ)

(絶対私とちかちゃんのことだよね?)

 二人はすぐに感づいた。

「ほんなら呼ばれたら取りに来てやあ。天羽ーっ」

数Ⅰ・Ⅱと同じく出席番号順に返却される。三番の麻衣の答案が返却されるさい、

「伊月、今回の試験もトップキープ、一人だけ百点満点!」

 山ノ内先生は応援メガホンを使って大声で叫び、右手に高々と掲げてクラスメートらに向けて麻衣の答案を見せびらかした。

『おーっ!』

 と、クラスメートたちから拍手が巻き起こる。

「恥ずかしいですからやめて下さい。プライバシーの侵害です。いつも言ってるでしょう!」

 麻衣はピョンッとジャンプしてパッとすばやく奪い取り、答案をくしゃくしゃに丸めてそそくさと席に戻った。

「相変わらず伊月は照れ屋さんのままやのう。毎度のことやけんど、もう少し字は大きく書きやあ。内気な性格示しとるけぇ」

 麻衣は席に座ったまま、山ノ内先生をギロリ鋭い眼つきで睨んだ。

「まあまあまあ、そんなに怒らんでも。怒った顔もかわええよ」

「余計なお世話です」

 山ノ内先生は麻衣のご機嫌をとろうとしたが、その発言がかえって損ねさせる結果となってしまったようだ。

「おーい紅露、はよ取りに来てーな」

 いよいよ千花の番がやってきた。

「はいはいはい」

面倒くさそうにゆっくりとした足取りで取りに行く。

「しっかりしーよ。再試験!」

 山ノ内先生は大声で叫びながら千花に答案を手渡した。

「うわっ、またやっちゃった。しかも最低点更新や」

 千花は点数が見えないよう二つ折りにして席へ戻った。

「ねえねえ、ちかちゃん。何点だった?」

 由巳はすぐさま千花の席へ駆け寄ってくる。

「由巳だけにこっそり見せたるな」

 千花は点数が書かれてある隅の方を小さく折り曲げた。

「ちかちゃん19点か。私もそのくらいかな」

「ちょっと由巳、声大き過ぎやって」

「あ、ごめんごめん」

続々と名前が呼ばてゆく。

「おーい、板東」

「はっ、はい」

 由巳は急ぎ足で山ノ内先生のもとへ。

「もっとしっかりしーよ。再試験!」

「やっぱりね。予想通り、予想通り」

 恐る恐る答案用紙右上に書かれた点数を眺めてみた。

「……わーん、ちかちゃんよりも低いよ。でもこうなることは分かってたよ」

「期末でこれ以上悪い点数取ったらテスト用紙を紙飛行機にして、サンフランシスコまで飛ばしてしまいますけんな」

「それでもいいよ。こんなのいらなーい」

 山ノ内先生からの軽いジョークに対し、由巳は開き直る。

「美馬は97点! 伊月に次いで二位!」

 またも答案を高々と掲げ、見せびらかす。

「あーっ、悔しい。一問ミスったか。また惜しくもマイに負けちゃった」

 彩は山ノ内先生のその行為に対し、特に嫌がる素振りは見せなかった。

 麻衣と彩は、物理はいつもクラスでトップ争いするほどの実力を持っている。

30点未満だった子が再試験とのこと。


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