第五話 園芸部仲良し四人組の大阪日帰り旅行。ポンバシ初体験
十月十四日、日曜日。朝、九時半頃。
「わぁーっ、これが明石海峡大橋かーっ」
高速バスの中で、由巳は大喜びではしゃぐ。
「あれれ? ユーミン、楽しそうに眺めてるけど橋の上、苦手じゃなかったで?」
「バスとか列車の中でなら平気だよ。橋の上を“歩く”のが苦手なんだ」
「ほうか。不思議なタイプなんじゃね」
三連休二日目の今日は、四人で急遽、大阪へ遊びに行くことになった。昨日いただいた賞金を、さっそく交通費に使わせてもらったのだ。
最初に行こうと提案したのは彩。
徳島から大阪へは高速バスで約二時間半。同じ四国にある松山へ行くよりも近い。
四人は大阪梅田阪急三番街高速バスターミナルに降り立った。
「私、大阪来たの、初めてだ」
「ワタシもなんじょ。小学校の修学旅行で鳴門公園京都はあるけどね」
「わたしも同じ」
「うちも枚方の祖母ちゃんちへは毎年行っとるけど、大阪の街ん中は小学生の時に来て以来や。もうすぐ十時半か。まだ早いけど、お昼ご飯食べよっか」
四人は梅田駅近くの大型デパート十階にある、レストランフロアへ向かった。
比較的空いていたファミレスに入店すると、
「こちらへどうぞ」
ウェイトレスに四人掛けテーブル席へと案内される。みんな座って一息ついたところで、麻衣はメニュー表を手に取った。
「お金いっぱいあるし、今日はちょっとお値段高めのものにしない? わたしは天丼食べるよ。飲み物はレモンスカッシュにしようかな」
「ほんじゃワタシも奮発してステーキ定食! 飲み物はメロンソーダな」
「うち、石焼きビビンバとジンジャエール!」
千花は好みの辛いお料理を注文。
「あのね、私、お子様ランチが食べたいの。お飲み物はミックスジュースで」
由巳は顔をやや下に向けて、照れくさそうに小声で呟いた。
「やっぱ出たね、由巳の外食時恒例メニュー。年齢制限十一歳までやけど未だ別に問題ないってのがうらやましいな」
「お子様ランチかあ。ユーミン、食べたがるなんてかわいいとこあるな」
彩はにこにこしながら由巳の頭をそっとなでた。
「さすがにちょっと恥ずかしいんだけどね、どうしても食べたいの……」
「由巳ちゃん、わたしも中二の頃までは頼んでいたから、全然恥ずかしがることはないよ。堂々と頼んでね」
麻衣はボタンを押してウェイトレスを呼び、それらを注文した。
「……それぞれお一つずつですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
ウェイトレスは確認し終えると爽やかスマイルでそのままカウンターへと戻る。由巳のことを全く疑っていないようだ。
「お待たせしましたーっ。お子様ランチでございます。それとお飲み物のミックスジュースでございます。はいお嬢ちゃん。ではごゆっくりどうぞ」
由巳の分が最初にご到着。新幹線の形をしたお皿に、旗の立ったチャーハン、プリン、タルタルソースのたっぷりかかったエビフライなど定番のものがたくさん盛られている。さらにはおまけのシャボン玉セットも付いて来た。
さらに一分ほど経ち、他の三人の分も続々運ばれて来た。
こうして四人のランチタイムが始まる。
「エビフライは私の大好物なんだ」
由巳はしっぽの部分を手でつかんで持ち、豪快にパクリとかじりついた。
「あー、美味しいーっ!」
その瞬間、由巳はとっても幸せそうな表情へと変わる。
「由巳、あんまり入れすぎたら喉に詰まらせちゃうかもしれへんよ」
「モグモグ食べてるユーミンって、なんかモンシロチョウの幼虫さんみたいですごくかわいいな。ワタシのも少しあげるよ。はい、あーんして」
彩はビーフステーキの一片をフォークに突き刺し、由巳の口元へ近づけた。
「ありがとうあやちゃん。でも、ちょっと恥ずかしいな。このお皿の上に置いといてね」
由巳のお顔は、ステーキの焼け具合で表すとレアのように赤くなっていた。
お会計は三千八百六十円。いただいた賞金はまだまだたくさん残っている。
ファミレスから出たあと、エスカレータを使って下の階へ降りようとした矢先、
「みんなちょっと待って、エレベータにしよう」
由巳は昇降口付近で立ちすくんだ。
「あのね、じつは私、下りのエスカレータは怖くて乗れないんだ。私ちっちゃい頃ね、足を取られてズテーンって勢いよく転げたことがあって」
「わたしも由巳ちゃんの気持ち、よく分かるな。わたしも小学校の頃まで乗れなかったの。タイミングが難しいよね」
「うちはエスカレータ大好きやけどな。小学校の頃はよく逆走して遊んどったわ」
「ユーミン、手をつないであげるね」
「ありがとう、あやちゃん。それなら乗れるよ」
四人はエスカレータで三階まで降り、そのフロアにある大型書店へ立ち寄った。
「うち、ちょっと声優雑誌立ち読みしてくるわ。あれ値段高いから買えんのよ。みんな好きなとこ見てていいよ。三十分くらいしたらここに集まってな」
千花は集合場所として、エスカレータから一番近い所にある一般書籍新刊コーナーの所を指定した。
そして三十分が経過する。
「あれ? 由巳はどこいったんやろ? はぐれちゃった」
「来ないね。おーい、ユーミン」
さっきまでの間、彩はラノベコーナー、
「由巳ちゃーっん。どこですかーっ?」
麻衣はサイエンス系雑誌コーナーの所にいた。
「まさか……」
千花がそう声にした次の瞬間だった。
ピンポンパンポン♪
というチャイム音が流れた。
〈迷子のお知らせです。徳島市からお越しの紅露千花様。坂東由巳様と申される……十六歳のお嬢ちゃまをお預かりしております。お心当たりの方は、三階迷子センターまでお越し下さいませ〉
「……やっぱり。そうしたんか」
このアナウンスを聞いて、千花は苦笑いした。
「ユーミン、えらいねえ。にしても迷子センターに高校生とはな――」
彩は腹を抱えて大笑いする。
(わたしも人のこと言えないかも。急に一人ぼっちになっちゃったら駆け込んじゃいそう)
麻衣の今の心理状況。
「うっ、うち、行ってくる。なんかこっちが恥ずかしいわ」
千花一人で、早足で向かう。
三十秒ほどで辿り着いた。迷子センターは、書店のすぐ隣にあったのだ。
「由巳、迎えに来てあげたよ」
「あっ、ちかちゃんだ!」
由巳は千花の姿を目にすると、すぐさま抱きつきに行った。
「ちかちゃあああん、会いたかったよーっ」
「……あのな、由巳」
千花は照れくさそうな表情をしている。
「絵本コーナーとか、児童図書コーナーのとことかをうろうろしてたら、集合場所が分からなくなっちゃって困ってたの。みんなとはぐれたら、すぐに迷子センターへ駆け込みなさいってお母さんに言われてるからそうしたの」
「えらい、えらい。でも、高校生がすることやないで。携帯使ったらすぐに連絡取れたやろ?」
「あっ、そうか。次からはそうするね」
由巳はぺろりと舌を出す。
「いや、迷子にならんといてな」
「分かった。これからは気をつけるよ」
係の人は、このやり取りを見てにこにこ微笑んでいた。
「おかえりーユーミン」
「由巳ちゃん、おかえりなさい」
彩と麻衣は爽やかな表情でお出迎え。
「ただいま、あやちゃん、まいちゃん。私、あそこにいた子の中では一番背が高くて、大きなお姉さんになれたよ」
由巳は嬉しそうに、自慢げに語った。
「良かったなあユーミン」
「とっても楽しかったよ、迷子センター。キャンディーももらえたし」
「うちは、はよ逃げ出したい気分やった。まあこれで一件落着やな。さて、次はいよいよメインのとこ行くで!」
「大阪来たら、ここに行かないわけにはいかないけんね」
千花と彩はテンションが上がった。
四人はデパートから出て、JR大阪駅前を少し歩いてみた。
「これが大阪かーっ」
「ビルの高さが徳島と全然ちゃうじょ」
「大都会ね」
大阪市初訪問の由巳、彩、麻衣の三人はおのぼりさん気分で周りの高層ビル群をきょろきょろ見渡す。
続いて梅田駅の地下街へ。
「……梅地下って迷路みたいじゃな。ユーミン、さっきみたいに迷子にならんようにな」
「うん。人が多すぎて目が回りそう」
「気をつけて歩かないとぶつかっちゃうわね」
「と○のあなとゲー○ーズもあるみたいやけど、迷いそうやからやめとこ。どうせ今からポンバシ行くし」
慣れない人ごみに戸惑う四人であったが無事、地下鉄の乗り場へたどり着いた。
梅田駅からなんば駅までは御堂筋線。なんば駅で千日前線に乗り換えて次の駅が日本橋駅だ。降りてから5番出入口へと向かい、南方向へ向かって少し歩くと、でんでんタウンに差し掛かる。
「ユーミン、マイ。あそこはアニメの専門店なんじょ」
彩は手である建物を指し示した。
「私アニメ大好き。アニメって、いくつになって見ても面白いよね」
「わたしもアニメ大好きなの。アン○ンマンとかド○えもん、今でも毎週欠かさず録画して見てる」
お目当てのお店。四人は店内をきょろきょろ見渡す。
「なんか、想像以上にすごいとこやな」
「ポッポ街以上にお客さんが濃厚じゃ。薄味の関西に反して。これぞ、本場のオタクって感じじゃな。アキバはもっとすごいんじゃろか?」
千花と彩は目を輝かせている。
「徳島のをもっと大きくした感じだよね。でもここもイメージしてる商品が無いや」
「これだけの広さがあるのにね。残念」
「アニメイトっていうのは店舗規模がいくら大きくなっても、ユーミンやマイの言うようなお子様向けのやつは取り扱い少ないけんね。もう少し対象年齢上のジャ○プ系のグッズは山のようにあるけど」
続いて向かったのは同人グッズの専門店。
「ここって、さっきの本屋さんでは見たことのないような本や雑誌がいっぱいあるね」
「わたしも、長時間は居辛いな。なんか異様な空気が……ちょっと怖い」
由巳と麻衣は、少し落ち着かない様子だった。
「あっ、由巳、あんまり奥の方へ行ったらあかんよ」
千花は由巳の袖をぐいっと引っ張る。
「にしても、ニッシーおらんね。似たような感じの人はおるけど。三連休やけんアキバまで遠征したんかな。エロゲと十八禁同人誌買ってもらおうと思ったのに」
千花と彩はその手のグッズは泣く泣くあきらめて、少年コミックやラノベ、キャラソンCD、キャラクターグッズなどを購入して店をあとにした。
四人はさらに南に向かって歩き進み、浪速のシンボル・通天閣を訪れた。
エレベータで展望台へ。
「わー、いい眺めーっ」
「ユーミン、高いとこは平気で?」
「うん。橋の上だけが怖いの。こういうのは平気だよ」
「ほうなんか。ますます不思議な感覚の子じゃな」
「ねえ、次は天王寺動物園行こうよ」
由巳は千花の袖を引っ張り、せかす。
「まあちょい待ちって由巳。ビリケンさんにお参りしてからな」
四人でその像の足の裏をなでた。こうすると願い事が叶うと云われている。
(なんとなく、山ノ内先生に似てるかも)
由巳はにこにこ微笑みながら眺めていた。
四人は通天閣から東方向に向かって歩き、新世界ゲートを通って園内に入園した。
「あーん、かっわいいーっ、私、この動物園の動物さんの中ではコアラさんが一番大好き。何度見ても飽きないよ」
「わたしも。癒し系だよね」
由巳と麻衣はその動物にうっとり見惚れる。
「確かにコアラはかわいいねんけど、おねんねしとる時間が多すぎるのは良くないよな。一日の睡眠時間がアニメーターの一日の労働時間くらいあるし」
「ワタシも同意なんじょ。ユーカリの葉っぱを食っちゃ寝の生活は、人間で例えればニートと同じやけんね」
千花と彩、コアラの生態に苦言を申した。
「ちかちゃん、あやちゃん、悪口言っちゃダメ! コアラさんかわいそうだよ」
「そうよ。これがコアラさんの職務だもの」
由巳と麻衣はぷっくりふくれながら二人に注意しておいた。
当のコアラたちは当然のように気にも留めず、すやすや眠っておられたそうな。
「もう夕方になっちゃったよ。私、他にも大阪城とか海遊館とか、USJにも行きたかったけど、一日じゃとても回りきれないよね」
天王寺動物園を出て、次の目的地を目指そうとしたが時間の都合により断念。
「大阪は本当におもろい街じゃったな。また思わぬ収入があったら来たいじょ」
それでも彩は、大満足出来たようだ。
四人は串カツで有名なジャンジャン横丁を通り抜け、地下鉄御堂筋線動物園前駅から梅田駅へ戻り、高速バス乗り場へ向かう。
「予想以上に予算使ってもうたな。賞金半分くらいまで減ってしもたし。この手の店に来るとな、ついつい……」
「分かる、分かる。予想外の物まで買ってしまうけんね。雷五郎さんには申し訳ない」
高速バスが徳島駅前に着いたのは、午後九時前。
四人は家に帰ると、すぐにお風呂に入って夜更かしはせずに睡眠に入った。