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第三話 秋の遠足

十月十二日、金曜日。

 今日は、秋の遠足の日。

一年生は学校発の貸切バスにクラス毎に乗り込む。一組は一号車だ。

 四人は前後二列に分かれて座った。

「ユーミン、お菓子持って来た?」

「うん。もちろん。たくさんあるよ」

 由巳はリュックサックのチャックを開け、見せびらかす。

「……まさか、こんなに持ってくるとは思わなかったじょ」

 彩は少し目を丸くした。

「えへへへ すごいでしょう?」

リュックの中身は、はち切れんばかりのお菓子類でパンパンに詰まっていた。

「由巳ちゃん、わたしも、これはちょっとやり過ぎに思うよ」

「やるな由巳、けど食べきれんやろ?」

麻衣と千花は微笑みながら前の席から覗き込む。

「だって、高校の遠足は値段制限無いもん!」

 由巳はきっぱりと言い張った。 

 

三十分ちょっとの短いバスの旅。

やって来たのは、鳴門市鳴門公園内にある大塚国際美術館だ。私立の美術館としては日本一広い敷地面積を持つという。

「それでは、集合時間午後三時半に遅れないように各自、自由行動。遅れたら置いていくよ」

 学年主任も勤める竹本先生は拡声器を使ってそう伝えた。

典恵と紬はいっしょに行動をとる。正面入口から館内に入るとすぐに見えるエスカレータで地下三階エントランスへ。

「ワタシ、この美術館は何度も来たことがあるんじょ。ママに連れてこられてるけん」

「あやちゃんのお母さんって、絵が大好きなんだね」

「まあね。ママは中学校の美術の先生やけんね。パパも、あんまり売れてはないけど絵本作家なんじょ」

「へぇ」

 由巳は好奇心旺盛に彩の話を聞いていた。

 四人は順路に従い、館内を見回ってゆく。


 地下二階。

「はわわわ……」

「こっ、これは――」

 とある絵画の前で、由巳と麻衣はポッと頬を赤らめた。

「ユーミン、マイ、ここってさ、エローいのが多いんじょ」

 彩は嬉しそうに話しかける。

「あやちゃん、この絵、なっ、なんか、すごく恥ずかしいポーズとってるよね?」

「ユーミン、ヴィーナスに萌えちゃった? ワタシも三次元なんかより二次元キャラの方が萌えられるんじょ」

「うちもーっ。この作品めっちゃ好き。ティツィアーノは神絵師や。この左手を添えて恥ずかしい部分を隠しとるとこが一番の萌え要素やな」

「マネは真似して『オランピア』なんか描いてるけど、ワタシはその絵見て萎えたじょ」

「彩ちゃん、千花ちゃん、芸術作品をそんな風に鑑賞しちゃダメ。ヌードは芸術なの!」

麻衣は俯き加減で二人に注意しておいた。


 地下一階。

「ここ、途中でばてるなー」

「私も歩き疲れたーっ。ムンクの『叫び』はまだ? 一番見たい絵なのに」

 千花と由巳はイスに座り込んだ。

「何度も訪れないと、その全貌を見ることが出来ないとも言われてるけんね。前来たときの記憶によれば、ムンクの絵画は同じフロアもう少し進めばあると思うんじょ」

「わたしもあの作品大好きなの」

 彩の言った通り、まもなく由巳お目当ての絵画が現れた。     

「ムンク、ムンクーッ」

 この絵を目にした途端、由巳ははしゃぎ出し、絵に近づく。

「この絵には不思議な魅力があるよね」

 麻衣も少し興奮気味になった。

「思わず真似したくなるよな」

 千花はあのポーズをとろうとしたが、恥ずかしいのでやめた。

「ワタシも、この絵は何度見ても飽きないんじょ」

 四人はこのあと、館内1Fにあるレストランへと向かった。

「おおおおお、これがあの『最後の晩餐』か」

 千花は感嘆の声を上げ、携帯電話のカメラに収めた。

かのレオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれた、世界的有名絵画と同じ名前のものが館内レストランのメニューにもあるのだ。千花は興味本位で注文してみた。

ライ麦パン、鯛、羊肉などが並べられていて、見た目は質素。しかしお値段は高めなので、四人で仲良く分け合って食べたのであった。

ピカソの『ゲルニカ』など、残りの絵画も急ぎ足で見て館内を出、このすぐ近くにある大鳴門橋の橋桁に設けられた遊歩道『渦の道』を訪れた。

「すごーい、巻いとる巻いとる。今ちょうどええ時間帯やな」

 千花は携帯カメラを下に向け、ガラス床越しに楽しそうに渦潮の写真を収めている。

「わっ、わたし、橋の上ってすごく苦手なの。特にこんな高いとこにあるやつは」

 由巳は千花の肩につかまり、カタカタ震えていた。

「そういやそんなこと言ってた覚えが」

「へえ、ほうなんじゃ。いいこと知ってしまった」

 彩はにやりと笑った。何かたくらんでいるのだろうか。

「私、小学生の頃、学習発表会の劇で『つりばしわたれ』やった時、トッコちゃん役やらされたの。それで本番でみんなが見てる前でね、平均台からズテーンッて落っこちちゃって、腰をおもいっきり打ったの。あの時の痛さと恥ずかしさは今でも忘れられないよ」

 由巳は照れくさそうに打ち明ける。

「そういうわけか。納得、納得。ユーミンかわいいじょ」

「彩ちゃん、笑っちゃかわいそうよ」

 麻衣も少し怖かったらしい。

そんな時、後方から四人の耳元にカンッカンッカンッとけたたましく鳴る金属音が飛び込んできた。

「あああああああっ、せっ、先生、何やってるんですかーっ。橋が割れちゃうじゃないですかーっ。やめてーっ。海に落っこちちゃうよううううううう」

 由巳は大声で叫ぶ。

「ぃよう、おまえさんら、ワシ、今、あのことわざを実践しよるんじゃ。ことわざっていうんもやはりリアル体験するんが一番脳内にインプットされやすいけんのう」

 そこにいたのは山ノ内先生だった。ハンマーを使って楽しそうに床を叩いていた。

「先生、やめてやめてーっ」

「ハッハッハッ。大鳴門橋がこの程度で壊れるわけないがな板東よ。見よ! これが『石橋を叩いて渡る』のビジュアル版じゃ」

「「……」」

「ジャマノウチー、大鳴門橋は石橋じゃなくて鉄橋なんじょ」

彩はきちんとツッコミを入れてあげた。四人は渦の道を引き返す。

その後、山ノ内先生は近くにいた一般観光客の方に注意され、しぶしぶ叩くのをやめたのであった。


集合時刻。美術館前に留められていた貸切バスは学校へ向けて出発した。

 学校で解散したあと、四人は農園へと向かった。コンテストに出展する、ジャンボかぼちゃを収穫するためだ。

「改めて見ると本当にすごいわね。この品種としてもめったに出来ないわよ。みなさんの丹精がこめられてるわね」

 担任はにっこり微笑みかけ、四人を褒める。

「去年は散々な結果に終わったけんね。ワタシたちの執念なんじょ」

 彩は真剣な眼差しで言う。

このかぼちゃの品種はアトランティック・ジャイアント。お化けかぼちゃの異名を持つ、ハロウィンではお馴染みのものだ。

(先生、一番の目的はアニメグッズいっぱい買うための賞金目当てやねん)

(賞金とったらブルーレイ全巻揃えられるけん、気合入れて育てた甲斐があったよ)

邪な考えをお持ちの千花と彩。担任も、由巳も麻衣もそのことには全く気付かず。

「ワオ! 今年はとんでもなくビッグにさせたね」

 顧問ではないのだが、竹本先生もやって来た。彼が軽トラックで会場まで運んでくれるという。彼と部員四名、担任の計六名で力を合わせて、ようやく荷台に乗せることが出来た。

「これは優勝出来るかもしれないよ」

 辰巳先生は上機嫌でそう告げ、車を走らせていった。


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