最終話 二学期終了 迷惑なクリスマスプレゼント
十二月二十四日、火曜日。クリスマスイブの本日、世間では振り替え休日だが、この学校では二学期の終業式だ。
「はーい、板東さん」
「ありがとう先生。ちかちゃん、いっしょに見よう」
由巳は通知表を受け取ると、すぐさま千花の席へと駆け寄った。
「あー、毎度ながらめっちゃ緊張するわーっ」
千花は由巳の分が渡されるまで、自分のも開かずに待っていた。
「4とか5がようけやるけど、高校は10段階評価やからな」
「あっ、私今回も家庭科に10がついてた。現社も7だ。それ以外全部5以下だけど……」
二人はこの結果に一応満足しているみたいだった。
「ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴るー♪ おーい、板東さん、紅露さん。いい所で出会ったねえ」
帰りのホームルームが終わってすぐ、待ってましたとばかりに一組の教室に西島先生が姿を現した。有名なクリスマスソングを口ずさみながら。
「あのう、何ですか? 先生」
「何か用? 全然似合ってへんサンタのコスプレなんかして」
由巳と千花はぽかんとした表情で彼を眺める。
「まあたいした用事ではないんだけどね、板東さんと紅露さんには日頃からいろいろとお世話になってるからねん、感謝の意を込めて何かお礼をしなきゃと思ったのさ。ほい、これ。おいらからのクリスマスプレゼントさ」
西島先生は手に持っていた真っ白な布袋の中から、きれいにラッピングされたプレゼント箱を取り出し二人に手渡した。
「わぁー、嬉しい! お菓子かおもちゃか何かですか?」
由巳は興奮気味に尋ねた。
「ふふふ、開けてからのお楽しみだよーん」
「先生、ありがとな。ピンクのリボンは温かみがあってええな」
由巳と千花はわくわくしながらリボンをほどき、包装をはずして箱を開けた。
「あれー? 紙しか入ってないよ」
「何やこれ?」
中に封入されていたのは、二つ折にされたB4サイズの用紙。
「これはねえ、数学ⅠAⅡBの総復習プリントなんだよーん。通知表で6以下だった子に見事授与されるペナルティーっさ。全部で十五枚。一日一枚ずつやれば、冬休み中に片付いて、おまけに自然と模擬試験やセンター試験にも通用する力がついてくるよん。継続は力なりー。一年生諸君は、大学受験なんてまだまだ当分先のことだよね、なーんて思ってる子が大多数だけど、あっという間にその時はやって来るからねん」
西島先生はにこにこしながらおっしゃった。
「そっ、そんな殺生な。正月三が日の分まで含まれてますやん」
「私、こんなクリスマスプレゼントはいらないよう」
千花と由巳は即、望んでいないクリスマスプレゼントを西島先生にお返ししようとした。
「返却は一切認めないよん」
けれども西島先生は両腕をクロスさせ、Xの形を作って拒否。
「しゃあないな。やったるわ。ところで先生はイブの夜、やっぱ彼女と過ごしはるんやろ?」
千花はにやにやしながら尋ねた。
「そりゃそうっさ。当たり前だろう。おいらの彼女は星の数ほどいるから、今日はこれからクリスマスケーキやプレゼントもたくさん買いに行かなきゃいけないし、そのあとは冬コミも控えてて、お正月はそこで手にした戦利品を全部読まなきゃいけないし、おいらの年末年始は毎年とっても忙しいのさ。それじゃーねん」
そう告げて、西島先生は走り去る。彼も師走は師走らしく過ごすのだ。
このあと十一時からは、いよいよ三者面談。
「あっ、お母さんだーっ。こっち、こっちー。ちかちゃんのお母さんといっしょに来たんだね」
一年一組教室前の廊下で待っていた由巳は、お母さんの姿を発見すると嬉しそうに手を振った。
出席番号が前の千花から面談が行われるはずだった。しかし、
「板東さんのお母様も、話すことは全く同じなのでご一緒にどうぞ」
担任はこうおっしゃった。
「効率的でいいわね」
由巳のお母さんは快く応じる。
「えー、恥ずかしいな」
千花は嘆くも、
「わーい。ちかちゃんといっしょだーっ。五者面談だね」
「かしましく楽しい面談になりそうだわ。ふふふ」
由巳、そして千花のお母さんはとても大喜びだ。
お母さんたちは予想通りね、という感じで、終始上機嫌で聞いておられた。




