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第十三話 芸文祭

《十一月二十二日 木曜日 阿波東女子中学校・高等学校芸術文化祭当日。

朝、七時過ぎ。

麻衣のおウチ。

「麻夕、起きて」

 麻衣は、麻夕を起こそうと、布団を揺さぶる。

「なーに? お姉ちゃん」

 すぐに目を覚ましてくれた。不機嫌そうな声で応答する。

「おはよう麻夕。お姉ちゃんの学校の芸文祭見に行こう」

 麻衣は笑顔で話しかけた。

「いやだー。眠いし」

 麻夕はぷいっと顔を背ける。

「深夜アニメ見てたんでしょ? 体に良くないよ。芸文祭の方が楽しいよ」

「うるさーいー」

 麻夕はそう叫んで、むくりと立ち上がった。

「無職お兄ちゃん、助けてーっ」

 そして誠の部屋へ逃げようとした。

「麻夕、お兄ちゃんは、今日は東京へ就職試験受けに行ってるからいないよ」

 麻衣はにこにこしながら一言告げた。

「えーっ。どうせ採用されないのにーっ」

麻夕はピタッと立ち止まり、嘆いた。

「さ、麻夕。服着替えて朝ごはん食べて、行こう」

麻衣は、麻夕の右腕をつかんだ。

「放して! 行かないったら行かないの!」

 麻夕はとっさに振りほどく。

「ダメよ、行かなきゃ」

 再度つかもうとする麻衣、

「いやだーっ!」

 麻夕は手をぶんぶん振り回し、必死に抵抗しようとする。目の前にあった目覚まし時計にとっさに手が伸びた。

「学校なんか、行く必要はないんだーっ! お姉ちゃんの分からずやーっ」

さらにそれを、声を荒げながら姉の麻衣目掛けて投げつけたのだ。

「いたっ」

 顔面に直撃してしまった。麻衣は額の辺りを両手で押さえる。

目覚まし時計は床に落ちた衝撃でフタが外れ、中の電池が転がった。

「あっ……」

 麻夕は、ふと我に返った。

「おっ、お姉ちゃん。あたし、当てるつもりは……」

 恐る恐る告げ、麻衣に近づく。

「麻夕……ひどいよ」

麻衣がそう呟いた次の瞬間――。

 パチンッ、という音が部屋に響き渡った。 

 麻衣が、麻夕のほっぺたに思いっきり平手打ちをしたのだ。

「……おっ……お姉、ちゃん」

麻夕は突然のことに唖然としている。普段はとっても優しい麻衣が怒ったからだ。麻夕のほっぺたは、ほんのり赤くなっていた。

「麻夕、なんてことするの! メガネ割れることだったじゃない!」

麻衣は大声を張り上げた。

「ごっ……ごめんなさあああい、お姉ちゃあああああああん」

麻夕は怯えながら謝り、えんえん泣き出した。

「ねえ麻夕、お願いだから、芸文祭くらいは見に行ってよ」

 麻衣も、涙をぽろぽろ流し出す。

「麻夕、学校へ行ってないと、きっと将来後悔するよ。学校での体験は、学生時代の今しか出来ないんだからね。二度と戻ってこないんだよ。麻夕にも、学校生活を楽しませてあげたいの。麻夕が、学校での思い出がほとんどないまんま、年をとっていくのを見るのが、お姉ちゃんはとてもつらいの」

 麻夕をぎゅっと抱きしめ、涙声で話す麻衣。

「でっ、でも……学校なんて、行きたくないんだもん」

 麻夕も泣きじゃくりながら自分の気持ちを打ち明ける。

「麻夕。もし、芸文祭で嫌な思いをするようなことがあったら、すぐに帰ってもいいの。とりあえず、見に行こうよ」

 麻衣は説得を続ける。

「……う……うん」

麻夕は少し間を置いて、答えた。

「よかった。嬉しいよ。麻夕、さっきは叩いたりしてごめんね」

すると麻衣は泣き止み、笑みを浮かべた。

「ううん。悪いのはあたしの方だし」

麻夕も、ようやく泣き止んでくれた。

二人は居間で仲良く朝ごはんを食べて、麻衣は制服、麻夕は普段着に着替えた。お出かけ準備が整う。


        ○


三人とは、正門前で待ち合わせていた。

「まゆちゃん、おはよう。元気にしてた?」

「やあ麻夕ちゃん。十日ぶりやな。かわいらしいツインテールの髪型にしてるやん」

「ほんまじゃ。マユちゃんますます萌えキャラ化してるね」

「このヘアスタイルがあたし一番のお気に入りなの。おはよう由巳お姉ちゃん、千花お姉ちゃん、彩お姉ちゃん」

 三人からの出迎えに、麻夕は笑顔で挨拶を返した。

「ようこそ芸文祭へ。マユちゃん、今日は思う存分楽しんでいってね」

正門を抜け、校内へ入る。

彩はさっそく、文芸部の作品が展示されている美術室へと案内した。

「これは、ワタシたちの部で作った同人誌なんじょ。読んでみてね」

麻夕は手に取り、じっくり目を通す。その間、

「マイ、マユちゃん連れ出すとき、ちょっといざこざあったじゃろ?」

 彩は麻衣の方へ歩み寄り、小声で問い詰めた。

「うん。ちょっとね、麻夕を叱っちゃって」

 麻衣は彩の耳元でささやく。

「やっぱり。なんとなく分かったんじょ。だてに三年以上もマイの友達やってないけんね。マイのやり方は正しいと思うじょ。お姉さんらしさを見せたんじゃな」

「いや、そんなこともないよ。わたしもつい興奮しちゃって……」

 麻衣は少し照れる。

「マユちゃん、ワタシが書いたマンガ、面白いで?」

彩は麻夕の側へ戻り、感想を訊いてみた。

「うーん。悪いんだけど、ちょっと微妙かな。でも絵はすごく上手だね」

「ワタシの絵、美術部の子たちの絵と比べたらだいぶ見劣りするじゃろ? でも褒めてくれてありがとう。嬉しいじょ。マユちゃんも絵描くで?」

「ほんのちょっとだけ。どちらかというと小説を書くよ。無職お兄ちゃんに影響受けたの」

「ほうか。チカリンと同じじゃな」

「誠お兄さんも小説執筆をしてはったんか」

 千花は笑みを浮かべる。仲間意識が芽生えたようだ。

「チカリンの創作小説もあるんじょ」

 彩はそれを手に取り、麻夕に手渡した。

「どんなの書いてるんだろ」

 麻夕は興味津々に表紙を眺める。めくろうとしたその時、

「あ、麻夕ちゃん、ここでは読まんといてな。恥ずかしいから。おウチ帰って読みぃ」

 千花は頬をちょっぴり赤く染めながら言った。

「分かった。あたしも千花お姉ちゃんの気持ち、よく理解できるし」

「ありがとう麻夕ちゃん、やっぱ仲間やな。次は園芸部の展示作品見せたげるな」

 中庭へと案内した。

「じゃーん! これはワタシたちの部活で育てたジャンボかぼちゃなんじょ」

「うわー、すごく大きいね」

 麻夕は目を見開き、そのかぼちゃに顔を近づけ、観察し始めた。興味津々な様子だ。

他に、あの痛案山子も展示されていた。

「わっ、何これ? お姉ちゃんたちが作ったの?」

 麻夕はにっこり笑った。

「ほうなんじょ。チカリンとの共同作」

 彩は堂々と答えた。

「わたしは、部の恥になるから展示はやめようって言ったんだけどね」

 麻衣は呆れ顔で語る。

「ねえ、この案山子さん、もらってもいい?」

 一方、麻夕はとても気に入ったようだ。

「もちろんや! 芸文祭終わったら譲ったげるな」

「マユちゃん、お部屋に飾り」

 制作者の二人は快く了承する。

このあと屋内へ戻り、その他の展示室も順次案内していく。

「あーっ、あたし、あそこ見たーい!」

「まっ、まゆちゃん、やめとこうよ」

 麻夕が指で指し示したその展示室は、

「私は、絶対入りたくなーい!」

 芸文祭の定番中の定番、お化け屋敷だった。由巳の顔は瞬く間に蒼ざめた。

「ほんじゃ、ユーミンは廊下で待っとく?」

「それもちょっと……一人になっちゃうし」

 由巳は困り顔になった。

「由巳、うちが隣についたげるから安心してーな」

「いやだいやだ。別のとこ行こうよ」

 千花の制服の袖をぐいぐい引っ張る。

「ユーミン、ここのお化け屋敷は全然怖くないんじょ。この学校の生徒のお遊びじゃし、ホラーというよりむしろファンタジックな雰囲気なんじょ」

 彩は口説く。

「由巳お姉ちゃん、中の人がいるから大丈夫だよ」

「そっ、そうだけど……」

 由巳は一つ年下の麻夕にもなだめられてしまった。

「さあ由巳、レッツトライ!」

「いやーん」

 千花は由巳の有無を言わさず手を引いて連れていく。

 入口を通り、中へ一歩踏み入った途端、

「きゃあああああああっ! ちっ、ちかちゃあああああっん。はっ、早く、早く出口まで行ってえええっ」

 由巳は、中の人もびっくりするような大声で叫んだ。彼女の目の前に、血まみれの女幽霊が現れたのだ。 

「よちよち由巳。うちに引っ付いてたら大丈夫やって」

 薄暗いここでは、由巳は千花の手をしっかり握っていた。のちに背中にしがみ付いた。先を急ごうと千花の制服を思いっきり引っ張る。

「ちかちゃーん、早く出口まで進もうよう」

「あわてなーい、あわてなーい。由巳、服伸びちゃうからあんまり引っ張らんといてーな」

「ユーミンってほんま怖がりなんじゃね」

「由巳ちゃんの仕草、とってもかわいい」

 にこにこ微笑みながら眺める彩と麻衣。

「わっ、私、お化けとか幽霊とか大の苦手で、今でも学校のおトイレの個室の中は怖いなあって思うの。だって、花子さんが出て来そうなんだもん」

「ユーミンは小学校時代によく聞かされる噂話のトラウマ、まだ引きずってるんじゃね。花子さんの代わりにア○ゴさんが出たらおもろいよね」

「あたしもあのキャラの声聞くために毎週欠かさずサ○エさん見てるよ」

「それも別の意味で怖い。まっ、まいちゃんは、お化け屋敷は怖くないの?」

由巳は今にも泣き出しそうな表情で麻衣に質問する。

「うん。だって、全てニセモノだって分かっているもん。大塚国際美術館の絵画と同じよ」

 麻衣は笑顔でそう言いつつも、入った時からカタカタ震えながら彩の背中にピッタリ抱きついていた。

「もう、麻衣ったら。そりゃ紛れもない事実やけど雰囲気楽しんであげな、中の生徒さん悲しむって」

 千花は笑いながらお化けに扮した彼女たちに向かって呟く。

「はい、チーズ!」

 彩はデジカメで撮影までした。暗いのでフラッシュ付きで。

「さあみんな、幽霊さんたちと遊びながらゆっくり先へ進もう!」

 千花は号令をかけた。

それからわずか二分足らずで、四人はお化け屋敷の出口へたどり着いてしまった。

「なんじょ。もう終わりなん? 短すぎ。もうちょいワタシを怖がらせて欲しかったね」

「かなり短かったよな。まあ教室一室分やからな。中の人もやる気なさそうやったし。由巳が叫び回るからお化け役の人もかわいそうやと思ってくれたんやな」

 彩と千花はやや不満げな面持ち。

「こんなもんじゃないの。可もなく不可もなくって感じだね。装飾は良かったよ」

 麻夕はこう評価した。

(よかった、あまり怖くなくて)

 麻衣はホッと一息つく。

「やっ、やっと出れた。ものすごーく長かった」

由巳は安堵の表情を浮かべた。彼女にとっては体感的に三十分以上にも感じられたようだ。

「ほんじゃ、そろそろお昼ご飯食べよう、模擬店もいいけんど、マユちゃんにお勧めのとこがあるんじょ」

 お化け屋敷の展示室から、数十メートル歩き進んだ。

「へぇ、文化祭でコスプレ喫茶もやってるんだ」

 麻夕は看板を眺める。

高等部二年三組の出し物だった。

「「「「「「「いらっしゃいませ、お嬢様」」」」」」」

中へ入ると、アニメキャラクターのコスプレをした、そのクラスの女生徒たちが暖かく出迎えてくれた。

麻夕は、オムライスを注文した。

「すごく美味しいね」

満足げに箸を進める。

「ほうじゃろ。高等部では、三組は家政科になってるんじょ。ほなけんお料理上手な子が他のクラスの子に比べてかなり多いんよ」

「へぇ。普通科の自然科学コースと、普通コース以外にもまだあったんだ」

「さらに美術科と国際科もあるんじょ。多彩な学科があるけん、県内中心に海外からも個性豊かな子がいっぱい集まってくるんよ」

 彩は伝える。麻夕は楽しそうに聞いていた。

お昼を食べたあと、十三時からの文楽部による人形浄瑠璃の公演を観覧しに体育館へ。外題は『傾城阿波の鳴門けいせいあわのなると』。

始めに部員の子から作者名とあらすじが語られてから舞台の幕が上がり、演技が始まる。

「これに使われとる人形って、美少女フィギュアの元祖やな」

「鳴門のおつるさんはなかなか萌えじょ。声優さんに声を当ててもらうなら……」

「こらこら、静かに見なきゃダメ!」

 麻衣は小声でささやき、おしゃべりしていた千花と彩の頭をパシッパシッと叩いておいた。

由巳と麻夕は騒がず行儀よく観覧していた。あの二人よりも大人だ。

十三時半からは、阿波おどり部の公演が始まった。

「わー、なにあのおじちゃん、おもしろーい」

 演舞中、麻夕はくすくす笑い出した。

「一応あれでも物理の先生なんじょ」

 彩は一言告げる。

「え!? 先生? その辺の酔っ払いかと思った」

 麻夕は目を丸くした。

「やっとさー、踊るアホウに見るアホウ、同じアホなら踊らにゃソンソン、どうじゃワシの華麗なダンス」

 ねじりハチマキ姿の山ノ内先生が、舞台の上に突如現れたのだ。踊りながら舞台中央に近づいていく。その他観客からも笑いが起こる。

「山ノ内先生、邪魔でーす!」

「そんなーっ。ワシ、顧問じゃのにーっ」

彼は、踊っていた部員たちにすぐさま舞台下へ蹴り落とされた。観客からの笑い声がさらに高まる。

「あっ、あの人、栗の時に助けてくれた人だ。このクラブの部員だったんだね」

 由巳は尊敬の眼差しでその子を見つめる。

「麻夕ちゃん、うちの学校には他にもユニークな先生がいっぱいおるよ」

「そうなの?」

 千花からの伝言に、麻夕はピクリと反応する。


締めくくりに、四人が所属する高等部一年一組の教室へ案内してあげた。

展示物は、レゴアートだ。

「すごいや。このド○えもん、すごく丁寧に出来てるね」

 麻夕は嬉しそうにレゴブロックで作られたキャラクターたちを眺める。

「……こいつを見ていると、就活時代が偲ばれるよん」

 スーパーマ○オの前では、西島先生がため息をついていた。

「西島先生、どないしはったんですか?」

五人は彼のもとへと歩み寄る。

「おう、紅露さんたちではないかあ。おいら昔、任○堂の採用試験も当然のように受けたんだけどさ、おいらの任○堂に対する熱い思いを面接官に伝えたのに落としやがったんだよねん」

「きっと面接官、西島先生のことが怖くなったんやろな」

「あまりに熱心過ぎるのもかえって悪い印象与えてしまうと思うじょ。ワタシも声優さんのイベントとかで前の方の席陣取るような熱心なファンは怖いなあって感じてしまうけんね」

「ま、べつに恨みは全くないよん。むしろ楽しかった思い出だよん。記念受験だったしさ」

(その会社、わたしのお兄ちゃんは書類選考で落とされたって言ってたような……)

 麻衣は少し複雑な心境になっていた。

「まゆちゃん、この人は数学と情報の先生だよ。西島先生って言うの」

「美少女系のアニメやエロゲが大好きなんやって」

 由巳と千花は彼の大まかな特徴を教えてあげた。

「へぇ。見た目どおりだけど、学校の先生にもこんな感じの人がいたんだ」

 麻夕は笑みを浮かべた。

「こちらの子は、誰なのかな?」

 西島先生はきょとんとした表情で尋ねる。

「わたしの妹の麻夕なの。今、中学三年生よ」

「なななんと、伊月さんの妹さんだったのか。確かに姉の麻衣さんとよく似ているな」

 西島先生は麻夕に顔を近づけてきた。

「マユちゃん、この先生は怖くないで?」

 彩は訊いてみた。

「うん。平気だよ。典型的なオタクスタイルだし、とっても面白い先生だね」

「ふふふ、照れるなー」

 西島先生はにやにや微笑む。

「麻夕ちゃん、ええもん見せたげる。こっちへ来てみい、西島先生もついでに」

 千花は手招いた。

一組教室から少し離れた廊下に、この学校に勤める先生たちの秘密や噂が箇条書きで記された大きな紙が貼り出されていたのだ。これらは新聞部が製作に携わっているとのこと。

「なんか、おいらの噂の欄、他の先生に比べてやけに多くないかい?」

「そんだけ先生の存在感があるって証拠や。名誉なことやで」

 千花はにっこり笑いながら言う。

「そうかい? えーと、なになに。『西島先生は小学六年生の頃、ドラ○エ3の発売日に学校をサボって買いに行き、補導されたらしい』だと。ハッハッハ、これは噂ではなく事実だよーん。どうしても発売日に手に入れたくて、徳島から大阪まで一人で買いに行ったのさ。当時は橋なんてまだ無かったからかなり遠かった覚えがあるな。その一行下に書かれてある『ポ○モン騒動が起きた日、当時大学生だった西島先生もアニメに夢中になりすぎて救急車で搬送された被害者の一人らしい』っていうのも事実なんだよーん。おいらが最年長くらいだったかな。どちらも今となってはいい思い出になってるっさ」

 西島先生はにやにや笑いながら、とても嬉しそうに語った。

「西島先生は、今でも毎日お母さんに送り迎えしてもらっているらしい」

 麻夕は、彼の噂の欄最下行にひっそり書かれていた文を読み上げた。

「これも本当なの?」

 そして興味津々に質問する。

「おいおい、誰だーい? こんな根も葉もない噂を立てたのは」

 西島先生は前かがみになって見つめ、にこにこ微笑んだ。

「伊月さんの妹さん、こんなのはもちろん全くの事実無根なんだよーん。あるわけ、ないじゃあないか。ハッハッハ」

「なあんだ、嘘か。本当だったら先生、もっと面白いキャラになれるのに」

 麻夕はにこっと微笑んだ。

(麻夕ちゃん、これ真実なんよ。うちが投稿してん)

 千花はくすくす笑っていた。麻衣以外の三人にもバレてしまっていることを、彼はまだ知らない。


 夕方、帰り道。

「麻夕ちゃん、めっちゃ楽しんでたやん。うちの高校に来たら毎年こんなにおもろいイベントがあるねんよ」

「この学校にはワタシやチカリンみたいなオタクな子もいっぱいおるんじょ。怖い先生も全然おらせんし。アニメ系マンガ系の部活もあるけん。勉強出来る子にとっては天国みたいな環境なんじょ」

 千花と彩は、にこやかな表情で麻夕に勧める。

「でもう……あっ!」

麻夕は何かに感づき、急に表情をこわばらせた。そして、彩の背中側に回る。 

「マユちゃん、いきなりどないしたで?」

「あっ、あそこ」

 前方を指差した。そこには、楽しそうにおしゃべりしながら下校している中学生らしき女の子たちがいたのだ。

「同じクラスの子だ」

 ぽつりと呟く。

「マユちゃん、あの子たちにいじめられてたで?」

 彩は心配そうに尋ねた。

「ちっ、違うの。むしろ、お友達になりたいの。あの子たち、アニメが好きみたいなんだ。始業式の時にね、楽しそうマンガとか好きなキャラとかのお話をしてたの。あたし、あの子たちの輪の中に入りたかったんだけど自分からは怖くて話しかけられなくて……迷惑かけちゃったらどうしようって思って……」

「わたしも、麻夕の気持ちはよく分かるな。わたしもそうだったもの」

 麻衣は優しく微笑みかけた。

「お姉ちゃんも?」

「うん。わたしもお兄ちゃん譲りで、人前で話すことは今でもすごく苦手だもん。わたしも中学に入ってしばらくは一人ぼっちだったのよ。休み時間やお昼休みは一人で図書館にこもって本を読んだり、お花を眺めたりして過ごしてたの」

 一呼吸置き、麻衣はさらに話を続ける。

「そんなある日、いつもように図書館に行ったら、大学の講義で使われるような量子力学の専門書読んでる子を見かけたの。難しい本読んで賢い子だなあって思って、わたしすごくその子に興味がわいて、勇気出して話しかけてみたの。そしたら、すぐに打ち解けてお友達になってくれて。その子が、彩ちゃんだったのよ。彩ちゃん、あの時はわたし、すごく嬉しかった。今でもとても感謝してるよ」

 そう言い、彩の目をじっと見つめた。

「……いっ、いやあ。ワタシもお友達欲しかったけんね」

 彩は照れくさいのか、頬をサザンカの花びらのように赤く染めた。

「麻夕も、勇気出して話しかけてみたらきっとお友達になってくれる子がいると思うの。もしあの子たちとうまくいかなかったとしても、お姉ちゃんたちが通ってる学校は私立だし、彩ちゃんが言ってたようにいろんなタイプの子が集まってくるから、麻夕と気の合う子も絶対いると思うよ。麻夕は、今の不登校のままで本当にいいのか、一度じっくり考えてみてほしいな」

「……」

 麻夕は黙りこくってしまった。

「ねえ麻夕、あそこのお店寄って『滝の焼餅』買って帰ろっか?」

「うん!」

 けれども麻衣がそう話しかけると、すぐに返事をしてくれた。そのお餅は菊紋の焼印が押され、中にあんこが入ってある。徳島銘菓であり、麻夕の大好物なのだ。

 三人と別れたあと、麻夕は麻衣と仲良く手を繋いで家路を進んでいったのだった。


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